Vol.11 阪口あき子さん

北海道発 8mmで撮影された古い映像を、 現代に蘇らせるフィルム工房

株式会社シンプルウェイ 8mmフィルム工房 阪口あき子 さん
北海道函館市

思い出が詰め込まれた8mmフィルムをデジタルに変換。顧客は高齢の富裕層

事業内容は?

昭和初期から昭和50年頃まで、家庭用ホームビデオが普及する前に流行した8mmフィルムが多くの家庭で見られることなく埋もれています。それをデジタル変換し、DVDにすることで現代に蘇らせる「8mmフィルム工房」を運営しています。

その事業はどのような顧客・市場を狙っている?

顧客層の中心は、8mmフィルムの撮影を趣味としていた、現在60歳?80歳のお父さんたち。お子様の成長記録や、海外旅行などの記録を残されているケースが多いですね。ほか、フィルムを受け継いだご家族の方々。撮影者がお亡くなりになっていることも多く、当時の思い出を振り返りたいという思いも強いのです。

同業者や競合との差別化ポイントは?

当社ではひとりのお客様に専属の担当者をつけ、困惑させてしまうような専門用語を使わず、要望をくみ取ることに心を砕き、注文から納品まで、ホスピタリティあふれる対応を徹底させています。ある会社は、依頼が入ると8mmフィルムに納められた内容の確認をすることなく変換作業に着手し、かかった作業時間分も請求しています。でも、お客様は、「もしかして、どうでもいいような映像?」という不安も抱えているのです。だから当社は、事前に十分な検討をしていただけるよう、フィルム内容の確認と見積もり提出を着手前に行なっています。

アンケート結果だけを信じてもダメ。高齢者もインターネットは使える

起業のきっかけや動機は?

大学を卒業し就職しましたが、30歳で起業することを目標にしていました。一度きりの人生、「自分はこれを成し遂げた」と言えるものを残したいと。結婚後は夫の仕事の都合で静岡から函館に転居することになったのですが、彼は転勤族なので、全国どこに行ってもできる仕事で起業しようと考えました。私自身、祖父が残してくれた8mmフィルムの映像を何としても見たいと以前から思っていたこと。それに、もともと趣味でもあった映像の仕事こそ私がやることだと起業を決意。目標通り、30歳になる年に起業できました。

起業前の予想と起業直後の現実は?

最初は、馴染みのあるホームビデオの映像編集事業での起業を決め、小さな子どもを持つ若い夫婦がメインターゲットになると考えました。そこで事業開始前、100名を対象にアンケートを実施。ひとりを除き、「子どもの映像は撮りっぱなしのまま」と答えたんです。また、そのほとんどが「映像の編集サービスを利用したい」と。でも、自宅を事務所にして開業してみたら、若い夫婦が依頼してくることはほとんどありませんでした。そこで、ターゲットを年配の富裕層にシフトし、8mmフィルムのデジタル変換サービスに集中。現在、営業も注文受付もインターネットで行っているのですが、ご依頼者の7割が年配者です。想像以上にパソコンを使っている方が多いことに驚きました。また、「子どもや孫に頼んでオーダーした」という方も多いですよ。

これまであったピンチは? それをどうリカバリーした?

売り上げが伸びず、期待していた新規事業を断念した日のことは忘れられません。函館は観光地でもあるので、観光客相手の映像制作を試みたのです。半年間の準備の後、テストとして2週間のサービス提供実験を行ってみたら、初日から期待はずれの反応。商品の内容、価格とも、考えていたようには受け入れてもらえないことがわかりました。その後、1週間もたたずに中止を決めました。そのうえで顧客の視点に立って考え、お金を払ってでも依頼したいこととは何かを考え直した結果、やはり8mmフィルムのデジタル変換サービスに専念しようと。会社継続のため、時には勇気を持ってやめる判断をすることが必要。大切なことを学んだ失敗経験だと思っています。

もしもの時に自分の代わりになるような幹部社員を育てたい

現在の経営状況を自己評価すると?

100点満点でいうと、まだ30点ですね。理想にはほど遠い。当社が進めている事業は、現状では映像という1本の柱のみです。理想は3本の柱を築くこと。とはいえ、焦らずじっくり、基礎のしっかりした柱を構築していけば、いつかは100点にできると自分を信じています。

いま、一番課題だと感じる事柄は?

もしも今、私が事故にあって死んだりしたら、会社はどうなる……、という不安を抱えています。気持ちのいいスタッフがそろいましたが、まだ、すべての部署の最終判断は私が行っています。そこで、私が不在の時でも、適切な判断ができる幹部社員を中途採用すべく1年ほど前から動いたことで、間もなく男性2名が入社します。今後は彼らと分業することで、将来への不安のない会社をつくっていきたいと意欲に燃えています。

今後、実現したい経営上の目標は?

まず、3年以内に年商1億円企業にすることです。昨年、北海道立工業技術センターと共同で、劣化した8mmフィルムを修復する装置を開発しました。今年(2008年)7月には、本技術で特許も出願。秋から本格的な事業開始に着手します。また、本技術を、劣化マイクロフィルムの修復に転用させるための研究も始めました。顧客対応の良さに加えて、技術力を強化し、小さくともキラリと光る会社を目指します。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

一生仕事をしていたいと考えていますが、50歳までは今の仕事に全力投球します。その中で得た経験、能力、お金を使って、50歳以降は、あせらずにゆったりと、その時にやりたい事業を手がけられればいいですね。そんな夢を描いています。

阪口さんのプライベート&ストレス解消法

月に2回のアロマセラピー

月に2回、約1時間のアロマセラピーを受けています。体調に合わせてアロマオイルを選び、それで全身をマッサージしてもらうというものです。普段、睡眠時間以外は、遊んでいても仕事のことを考えてしまうんです。唯一、アロマセラピーを受けている間が仕事からスパっと解き放たれる時間で、心からリラックスできるのです。あとは、旅行に出かけること。北海道はもちろん、函館からだと、東北も近いので気軽に遊びに行けます。また、必ず年に1度は海外へ。去年は、1歳の息子をベビーシッターに預けて韓国に出かけました(笑)。


【文】NICe編集委員 田村康子