Vol.20 門田真さん

兵庫県発 個別注文で熟練職人が仕上げる 革製トランク専門ショップ

匠乃株式会社 門田真 さん
兵庫県神戸市

革製トランクを、一つ一つ手づくりで、発注から3カ月で届ける

事業内容は?

革製トランク(アタッシェケースや旅行トランク)のオーダー製作を行なっています。主にWebサイトからお問い合わせいただき、デザインの細かい部分はメールで相談。最終的な仕様が決まったら指定の工場に発注して、完成まで約3カ月でお手元へお届けします。個人のお客さま以外にも、自動車メーカーから最高車種のトランクルーム用、アパレル会社からディスプレイ用、大河ドラマの小道具などに使用するトランクをおつくりしたことも。そんな企業からの依頼も多いです。オーダーメードの革トランクは、普通の工場やバッグメーカーでは様々な制約があってつくれないことが多く、ようやく当社を見つけて依頼されるというケースがほとんどです。

その事業はどのような顧客・市場を狙っている?

お客さまは大学の先生やお医者様が多いですが、そのほかにも自分なりの工夫で顧客開拓を行っています。その一つが「ウェディングトランク」。これは、「結婚記念に三世代後まで伝えられるトランクを」というご提案ですが、若い世代にも大変喜んでいただいています。結納返しとしてトランクをオーダーされるご夫婦も多いです。この「ウェディングトランク」企画は、2005年にある不動産会社が「夢応援プロジェクト」というコンテストを行った時にブロンズドリーム賞を受賞しました。そのイメージタレントだった藤原紀香さんから賞をいただいて大感激(笑)。その後も全国紙や地方紙、雑誌などから取材を受け、少しずつですが結婚記念の新しい贈り物として広がっています。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか? あるいは顧客の課題を解決するのか?

どこにもない商品をつくっていることから、お客さまからは、「さんざん既製品を探し回ったけど、欲しいサイズや仕様のトランク(アタッシェケース)がない。希望通りのものをつくって欲しい」という声が一番多いです。予算との兼合いもありますが、個々のニーズに合わせながら、一つ一つ作成するというのが当社の強みです。また、革製トランク専門で個人からオーダーメードを受けているところはおそらく当社のみ。同業とは見ておりませんが、ある鞄製作工房さんでは、納期が1年以上かかかるようです。当社はスピード対応できる工場に生産依頼をしておりますので、こと革製トランクに関しては、国内最強と考えております。ちなみに提携工場は大手鞄メーカーなどの生産を受けており、天皇陛下のご外遊用トランクもつくっている日本最高峰の職人さんがそろっています。

雑貨の商品企画から、兵庫の地場産業でもある鞄製品づくりへの絞り込み

起業のきっかけや動機は?

高校時代から独立志向があり、貿易商になりたいという夢がありました。その後、専門学校を3カ月で中退し、今でいうフリーター生活を4年続けました。そして22歳からの10年間、服飾系の輸入卸会社に勤め、ヨーロッパの服や鞄の工場を訪問していました。1995年の阪神大震災を機に独立を決意。半年間ヨーロッパをブラブラし、帰国後に雑貨の商品企画をスタート。鞄が好きだったこともあり、バッグの企画・製作も始めたのです。2002年に阪神淡路産業復興機構、地元新聞社や企業、兵庫県の工業課などと一緒に、兵庫県の地場産業の勉強で豊岡の鞄工業を訪れ、現在の提携工場と出合いました。それまで「ことファッションに関する製品はヨーロッパが最高」と考えておりましたが、日本の鞄づくり(トランクづくり)の歴史と技術を知り、「この鞄を広めたい」と強く思ったんです。今は、全世界へ日本製最高品質のトランクを広めることが自分の使命と考えています。

軌道に乗せるための創意工夫や改善は?

起業当時は、せっせと取引先の拡大を行いました。大手アパレル会社にも取引口座をつくり、売り上げもうなぎ上り。しかし、大手との取り引きがずっと続くものではないという危うさを感じ、当社独自の商品戦略を根本的に練り直すことに。ちょうどその頃、初心に返って業務形態をコンパクトにしようと、社員を全員解雇するかたちでひとりの会社に戻りました。当時は、他社のブランド企画も請け負っていましたので、自社オリジナル商品はネットだけで紹介することに。そこに偶然、オーダーメードの「革製トランク」の注文が入ったのです。すると、その革製トランクが新聞で紹介され、だんだんと革製トランクの注文が増えていったと。その後、事業内容を徐々に「革製トランク」のオーダーメードに絞っていきました。

これまであったピンチは? それをどうリカバリーした?

常に過去の経営スタイルを破壊し、新しい方向へ進んでいるため、現在もピンチといえばピンチです(笑)。また、「私ひとりでやっていても、オーダーメードをさばき切れる数はたかが知れている」ということもわかっています。また、今年(2008年)6月に怪我で入院し、その後の自宅療養とで2カ月ほど仕事がストップしてしまいました。自分で仕事ができない時でも、業務が回るシステムの必要性を痛感し、私の分身“トランクマスター”を育てようと準備中です。ということで、ひとり経営のリカバリーが今後の課題といえますね。

世界中にトランクマスターのネットワークを広げたい

いま、一番課題だと感じる事柄は?

自分が動けない時に分身となるトランクマスターなど、他者との連携です。また、「当社にとって、最も大切な事業の核は何か?」「自分の使命は何か?」ということも常に考えています。そして、やらねばならないこと、やめなければならないことをはっきりさせて、それを決断する勇気が必要だと実感しています。ダラダラと先送りにすることは、事業の成長を遅らせるだけではなく、事業自体の価値を低下させることになりますので。常に即断即決、そして行動あるのみと肝に銘じています。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

起業してから感じたのは、お客さまはトランクを単なる鞄としてだけではなく、様々な生活の場面で使ってみたいと考えていらっしゃることです。たとえば、大手アパレル会社のメンズブランドからは、クリスマスシーズンのディスプレイ用に、大小300個のトランクをつくって欲しいというオーダーをいただきました。また、置いておくだけで、そのまま家具としても使える「歌舞伎トランク」は、中長期の滞在型旅行に適しています。そこであるアイデアを、神戸の温泉街が企画している滞在型宿泊プランの新サービスとして提案しています。これは旅館の紋章(ロゴや旅館名)を入れたトランクを、長期滞在のお客さまのご自宅へ事前にお届けし、荷物を詰めてもらった後に宅配便で旅館に戻してもらうというもの。到着前にこのトランクをお部屋にセットしておけば、お客さまにとって印象深いサービスになると思うのです。そして大きな夢としては、トランクマスターを100人誕生させて、世界の主要都市に「匠乃トランクサロン」を開設すること。トランクの役割をもっと広げ、「バッグはヴィトンでも、トランクは絶対“匠乃”だね」と言われるように当社のトランクを普及させていきたいです。

門田さんのプライベート&ストレス解消法

旅行先で瞑想にふける。でも頭の中は臨戦状態

仲間と酒を飲みながら語り合っている時間が一番楽しいですね。かといって、いつも大騒ぎしているだけではありません。旅行に出かけて、自然に包まれて、ひとりで瞑想にふけることもよくあります。しかし、頭の中はというと、常に臨戦状態(笑)。きっと長いバカンスに出かけたとしても仕事のことばかり考えているでしょうね。だって、仕事のことを考えるのが至福の時ですから。


【文】NICe編集委員 田村康子