Vol.23 大野圭司さん

山口県発 周防大島を再生し、次代の担い手を つくり出す土木建築会社の新事業部運営

大野工業株式会社 島スタイル事業部 大野圭司 さん
山口県周防大島町

島にUターン・Iターンして起業を目指す人や企業を様々なかたちで支援

事業内容は?

周防大島(すおうおおしま)は山口県の東南端、愛媛県との県境に浮かぶ、瀬戸内海で3番目に大きな島。島の外周は約160km、人口は2万人余りと、人口減少、特に若者の流出に悩んでいる島です。この島で僕がやっている事業は、周防大島のUIターン起業家を応援するフリーペーパー『島スタイル』の発行。そして、UIターン起業家のWebサイトや通販サイトの制作。さらに地域資源を活用した起業家や、社内ベンチャーを創出することで地域再生を目指す“新しい学校づくり”「島スクエア」の企画運営にも携わっています。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか? あるいは顧客の課題を解決するのか?

フリーペーパー『島スタイル』は、島での“起業物語”を取り上げて島内外にPRするメディアです。島の中で何か面白いことに挑戦している人や企業を取り上げて、“記事型広告”として掲載しています。僕自身がUターンをして起業した人間ということもあり、マスコミに取り上げられることも多く、島外や県外からの問い合わせを数多くいただいているんです。認知度が低い起業直後のビジネスを広くPRできればと、毎号5000部を発行しています。また、Webサイトや通販サイトを立ち上げたいと思っている起業家や企業を対象に、自身で更新できるWebサイト制作も手がけています。島内だけでは需要が小さくても、インターネット販売の仕組みを提供することにより、ビジネスの可能性を広げてもらおうと。そして、“新しい学校づくり”「島スクエア」。周防大島の地域資源を活用して起業したり、島内の企業が新しいビジネスに挑戦したいと考えても、初めの一歩が出づらいケースが多いんです。そこで、人的ネットワークが足りない、あるいは事業計画の立て方を知りたいといった人々へ、必要なノウハウや知識を提供することで、起業の成功率を高めていこうという狙いで運営しています。

ふるさと・周防大島の地域再生事業を志すことを15歳の時に決意

起業のきっかけや動機は?(島スタイル事業部を立ち上げたきっかけは?)

僕は、1950(昭和25)年に祖父が創業した土木建築会社の長男として生まれました。しかし、15歳の時に、土木建築業を継ぐことは自分自身の職業適正に合わないと判断。その代わり、日本一のスピードで高齢化が進む、生まれ故郷・周防大島の地域再生を行う事業で、起業もしくは社内ベンチャーを立ち上げることこそが自分の仕事であると思い立ったんです。その時点で将来の起業を志しました。ちょうどその時に読んだ『世界の村おこし・町づくり‐まち活性のソフトウエア』(講談社現代新書)という本にも、中学生ながら大きな影響を受けました。進学や就職で一度島外に出ても、それはすべて勉強となる。結婚するくらいの年齢になったら島に帰り、自分も島も、そして会社も、すべてをハッピーにするような起業をしたいと考えたことがそもそもの動機といえます。それで、地元で名前を知られている実家の会社内に、新事業部を立ち上げるというかたちで起業しました。

軌道に乗せるための創意工夫や改善は?

予想どおりにいかないのが起業なので、目の前にある課題を必死にクリアすることで今は精一杯です。とはいえ、何はともあれ仕事を楽しむこと。人が休んでいる日や、のんびりと過ごしているような時間でも仕事をすることは苦痛ではありません。仕事を継続することで自分が高められると実感しているからです。寝ている夢の中でも会議をするくらい、24時間365日仕事をするのが起業の本分だと思っています。まだ決して軌道に乗っていませんが、15歳の時に、「周防大島の地域再生をやってやる!」と夢を持った時点から、その信念はいっさいぶれていません。「島への想い」と「ぶれることのない信念」があれば、今現在、そして今後の困難にも、その都度その都度、必要な創意工夫や改善ができるものと信じています。

これまであったピンチは? それをどうリカバリーした?

起業当初、妻と子ども3人を養うために必要な売り上げの見通しが立たなかった時期はつらかったですね。現在も、赤字ではないですが、なんとか生活が成り立つ程度の最低ライン。だからといって、僕は絶対に途中でやめたりしませんし、夢をあきらめません。その気持ちを維持し続けることこそがピンチへのリカバリー策だと思うのです。嬉しいことに、これまでの努力と、そして運も重なって、昨年(2008年)、文部科学省・科学技術振興調整費「地域再生人材創出拠点の形成プログラム」として大島商船高専が採択されました。その特命教授として採用していただいたことは、僕にとって大きな励みとなりましたね。

「○○で有名な周防大島の出身です」と自信を持って言える人を増やしたい!

いま、一番課題だと感じる事柄は?

フリーペーパー『島スタイル』の発行を、1年くらい休んでいることです。取材や撮影なども一人で行っていますが、その活動が周防大島の現状を見つめることにもなりますし、起業を目標にしている人たちとの交流のきっかけにもなります。そして、いつも忙しく飛び回っていますが、取材や制作を通じて、今後自分は何をすべきか、そして、そのためにはどんなアクションが必要なのかと、自分の将来を見つめ直すことにもつながります。ですから今後は、最低年に2回の定期刊行を目標に、『島スタイル』を通じて、今後もますます周防大島のことを日本中にPRしていきたいと考えています。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

自分自身、夢やビジョンを具体的に描いて伝えていくことで、人に共感してもらえる力をもっと磨きたいと思っています。また、「大野さんがやっていることを見ているうちに、島での起業が決意できました」と言っていただけるような、その場の空気をポジティブにして、存在感やオーラを放てるような人間になりたいですね。個人的には、一人事業部でも年間500万円の売り上げを達成して、かっこいいパパになること(笑)。そして、周防大島から都会へ進学・就職した若者たちが、出身地を聞かれた時に、「山口県です」と淡々とに答えるのではなく、「○○で有名な周防大島です!」と誇りと自信を持って言える時代をつくることが僕の夢です。

大野さんのプライベート&ストレス解消法

子どもと一緒に汗を流す時、妻好みのマイホーム建築を夢見る時が至福

娘が通う小学校のサッカー部で、子どもたちと一緒に汗をかくこと。そして、子どもたちと遊びに出かけた時も、妻とデートをしながらでも、「いい景色だ」とか、「素敵なカフェだ」とか、常に感覚を磨いているなと実感できることがリフレッシュにつながっています。また、瀬戸内海を見渡すことができるパリ風な妻好みのマイホームを、今年、センスの良い女性建築家とともに新築で建設します。そのマイホームで、家族5人で暮らすことを想像するのも至福の時です。


【文】NICe編集委員 田村康子