Vol.25 森田由樹子さん

富山県発 地元の歴史や文化、自然が出迎える エコ&体験型の旅行会社

株式会社エコロの森 森田由樹子 さん
富山県富山市

地域の人と共創したプログラムで「ウェルカム富山県!」を盛り上げる

事業内容は?

エコツアーや体験型ツアーなど、富山県内での旅行を中心とした旅行会社です。一般的な旅行会社は、地元住民が外へ向け出かける旅行のお手伝いをしますが、当社は、業界用語で「着地型旅行」と呼ばれるサービスを行っています。「全国各地から富山県へいらしてください」という旅行のコーディネートです。富山県内にある様々な地域資源をご案内し、見たり体験したりする旅のプログラムをつくり、提供しています。お客さまに喜んでいただき、地元の観光振興にもつながればと考えています。たとえば、富山県内の特に五箇山周辺は、昔から浄土真宗が盛んな地ですが、11月28日の浄土真宗・親鸞の命日に行う「報恩講」(ほうおんこう)の際には、自宅にお坊さんや親類、近所の人を招いて食事会をする習慣がありました。かつて、地元の人は「ほんこさま」といって楽しみにしていた行事で、赤(または黒)の輪島塗の膳に、その年に採れた最高の食べ物(主に山菜)を並べる「報恩講料理」をいただくのです。この習慣が消えつつあるのですが、山の恵みを生かした精進料理は、スローフードを求める今の時代にぴったり! そこで、南砺市の利賀村で、こうした報恩講料理をつくれるお母さんに調理してもらい、囲炉裏のある民宿で「報恩講料理をいただく会」を実施したことも。そんな富山県の歴史、文化、自然を素材にした体験型のプログラムを提供しています。

その事業はどのような顧客・市場を狙っている?

定年退職された中高年、様々な体験により視野を広げたい若者など、富山県の豊かな自然に反応していただけるような都会暮らしの方が主なターゲットです。忙しく観光地から観光地へ、お土産屋からお土産屋へと回るだけの旅では満足できない「旅による心の回復」を求めるお客さまに、ぜひお越しいただきたいと思っています。旅行という遊びが成熟し、お客さまが「旅」に求めるものはよりレベルの高いものになり、今までにない体験、そこでしか体験できないこと、そして何より旅先での人との触れ合いや交流が求められるようになってきました。そこで「お客さまが旅に求めているもの=心の満足」を提供するためのプログラムづくりに力を入れています。

同業者や競合との差別化ポイントは?

富山県内に、着地専門の旅行会社はほとんどありません。そのため、地元旅行業者とさほど競合せず、むしろ共創で仕事ができ、全国レベルの大手旅行会社には、当地の現地プログラムとしてツアー商品の企画販売も可能だと考えています。また、私は長年、東京で生活していたIターン者なので、東京での人的コネクションを使って、都会のニーズと地方のウォンツをつなぐことができるのではと思っています。

夫の単身赴任をきっかけにIターン。「とやま起業未来塾」で学んで起業

起業のきっかけや動機は?

東京で20年以上生活し、働きながら子育てをしていましたが、夫が富山県に転勤。最初の1年、単身赴任をしていた夫が、「家族で住みたい」「富山県に定住したい」と。そんな夫の希望を聞き、家族での移住を検討。私は早期退職制度を利用し、新聞社を退職しました。でも、私は新聞記者としてずっと働き続けていたので、家庭に入るというのは考えられなくて。そんな時、ちょうど募集していた「とやま起業未来塾」に応募。半年間、勉強し、ビジネスプラン発表会では優良賞をいただきました。東京にいる頃からアウトドアやエコツアーが好きでいろいろ体験していたことが背景にあります。「起業するなら自然体験系で」と思っていたところ、移住した富山には実際に観光資源が豊富にあることがよくわかり、現在のビジネスモデルを考えました。未来塾卒業後は、エコツーリズムコーディネーターやツアーガイドなどの研修にも参加。エコツーリズムについても研鑽を深めていきました。さらに旅行業法の規制緩和の流れから、小さな旅行会社(第三種旅行業)でも企画旅行、いわゆる募集型の自社企画ツアーが地元限定なら可能になると知り、旅行業登録をする旅行会社で起業することにしました。

軌道に乗せるための創意工夫や改善は?

まずは会社の存在を知ってもらうことに注力しました。地元の人の協力あってこそのツアーですので、「地域の魅力を発信する仕事をしています」ということをアピール。おかげさまで地元の情報誌やラジオ、テレビなどに取り上げていただき、少しずつ認知度も上がってきました。ただ、様々なツアーをどんどんつくって売りたいのですが、現在はひとりで仕事をしているため、なかなか……。企画、仕入れから営業、広報、販売、そしてツアー催行までトータルな流れができるようになるには、もう少し時間が必要だと思っています。

起業しての醍醐味は?

自分の理想、感性をかたちにすることができることです。地域貢献につながる仕事ということで、仕事内容への満足度は高いですが、もっとビジネスとして成果を挙げたいですね。そうすることが、本当の意味での地域振興になると思うので。

“秋田に上場企業を”を合言葉に、仲間と次代の若者育成のために尽力

いま、一番課題だと感じる事柄は?

先にも言ったように現状ではまだまだ商品が少なく、業務を軌道に乗せるには営業の強化など、課題は山積みです。業務がまだ小規模ゆえまだ大丈夫ですが、このままではいつか資金面で苦労しそうなので、今のうちに体制を整えようと思っています。理想や方向性は間違っていないはずですから、それを「営業」に結びつけるために、どういった戦略をとるのが良いか考えているところです。

さらに伸ばしたいと思う強みは?

富山県の「ランドオペレーター」を目指しています。ワンストップで何でもできる会社になりたいですね。旅行はもちろんのこと、旅行をきっかけにしたUターンや、私のようなIターンにつながる仕組みづくり、農林水産業の就労につながるグリーンツーリズムなど、「富山に行く」「富山で暮らす」「富山で働く」というあらゆるニーズに応えられる存在になりたいです。そのためには、情報収集と発信の両方が必要。前職が新聞記者なので、取材したり、文章を書くスキルはありますから、大いに生かしていきたいと思います。そして、多くの人が富山県に訪れることで地域が活気づき、地元の人が楽しみながら働ける会社になることが目標なんです。

森田さんのプライベート&ストレス解消法

仕事も、プラベートも、自然を大満喫!!

ストレスはあまり感じないほう。毎日、仕事も遊びもすることがたくさんあるので、ストレスは自然に解消されているようです。仕事もエコを商品にしていますが、プライベートでも自然体験が大好き! 様々なボランティア活動をしています。食育活動「食育研究会いただきます!」や、友人と一緒につくったグループ「エコロの森ネイチャークラブ」では自然体験、森林ボランティア活動などに取り組んでいます。自然体験スポットに訪れるお客さま向けにガイドをする富山県のボランティア活動資格「富山県ナチュラリスト」にも認定。ガイド業務は「エコロの森」の本業でもありますが、自分の経験を深めるためにもこうした行政のボランティアガイド活動にも積極的に参加しています。もう、豊かな自然に囲まれている毎日が、楽しくて仕方がありません(笑)。


【文】NICe編集委員 石田恵海