Vol.30 萱嶋元明さん

宮崎県発 無農薬テーブル・ベジタブルの 研究開発・生産・販売業

有限会社アークグロウ 萱嶋元明 さん
宮崎県都農町

青果販売業を営みながら、微生物の研究により無農薬・低価格の計画生産を実現

事業内容は?

青果を販売しながら、露地・室内型野菜工場で複合微生物菌と籾殻による野菜の生産をしています。もちろん、有機栽培の無農薬です。現在のメイン商品は、露地栽培による幸葱(こうねぎ)ですが、室内型野菜工場では、レタス、水菜、小松菜、大根葉、チンゲン菜、ベビーリーフなどの葉もの、胡瓜、大根、人参、苺、青しそ・ハーブも栽培することが可能です。また、一般家庭の室内で楽しみながら野菜を育てることができるテーブル・ベジタブルも製造販売しています。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか?あるいは顧客の課題を解決するのか?

第一の市場は、食の安心・安全を望むエンドユーザーと、新鮮なベビーリーフ・スプラウトなどを使う会社やレストランなどの外食産業です。有機栽培で、殺虫剤などの農薬はもちろん、化学薬品や化学肥料も一切使用していませんから、アレルギーのある方、食材にこだわる料理人さんにも安心して使ってもらえます。しかも、野菜工場は室内ですから、天候に左右されず、連作も可能で、安価の安定供給を望む企業、価格の変動が少ない野菜を必要とする野菜加工業者のニーズも満たします。また、籾殻を培地にした栽培方法を確立したので、これまでの農作業で重労働だった重たい堆肥をほとんど使わずに済み、お年寄りや女性の農作業も軽減します。都会の室内や屋上など少ない面積で野菜をつくりたい方々も顧客対象となりますし、自動車のコンテナ・シートでも栽培可能なので、自然災害地などでの栽培にも向いています。

同業者や競合との差別化ポイントは?

最大のポイントは複合微生物菌の特性を生かした栽培方法です。根の張りが良く、根の回りの悪い菌も消滅させ、水耕栽培や露地栽培に比べて害虫や病気の心配がはるかに少ない。また、品質を一定に保ち、生産量を安定供給でき、運送時に寒天を使うことで保冷しなくても大量輸送が可能。それゆえ業務用として販売できているのです。ここ宮崎から東京に出荷する場合でも、鮮度を1週間以上持続させることができます。この寒天を培地にして常温で室内栽培できる野菜が、テーブル・ベジタブルです。スプラウト、葉物、トマト、大根、じゃがいもまで育ちます。

安心・安全・新鮮な野菜を販売したい&農家の役に立ちたいと独学で研究開始

起業のきっかけや動機は?

親族が経営していた八百屋を1983年に継いでから、20年以上ずっと“本当の野菜”を売りたいと思っていたんです。安心・安全・新鮮な野菜をもっと低価格で販売できないか。農薬や化学肥料などにお金をかけず、作業も軽く、計画的に栽培できたら、農家はもっとラクになるんじゃないかと。ある日偶然、有機栽培関連書の中の言葉が目に留まり、独学で微生物の研究を始めました。野菜くずを機械・装置を使わすに発酵分解して液化し、それを籾殻に付着させて栽培してみたら、病気もなく、発芽しにくい種までも発芽させ、なんとセメントの上で連作ができたのです。この時に私が発見したのは4種類の複合菌でした。この菌はエサがないと冬眠し、与えると活動して、豚の頭蓋骨まで粉々にします。その後も様々な研究開発、実験を繰り返し、連続的に生産できる方法を確立。発明協会に見てもらい、特許出願することになった2003年に会社を設立しました。

起業前の予想と起業直後の現実は?

宮崎県経営革新承認を得て野菜工場を設置したのですが、特に補助金もなく借金地獄に陥りました。実は現在も脱しきれてはいません。野菜工場という言葉のイメージが悪いのか、周囲からの評価は低かったです。有機栽培も、宮崎では年寄りの仕事と思われているのか需要がない。理解してもらうのに苦労しましたし、だまされたりして大変な目にも遭いました。それでも今まで頑張れたのは、私のこれまでの研究・実証を認めてくれる学者や研究者、支援者がいたから。大阪府立大学の教授からは「一緒にカンボジアに行って農業を教えよう」と誘われたり、独立法人平磯宇宙環境センターからは「発酵分解、液化するのに、機械・装置・電気が必要がないとは驚きだ」とのコメントもいただきました。ある学者からは、「この栽培法はNASAの研究に近いからアメリカで論文を出すように」と勧められました。でも、そんな時間も執筆力もありません。何とか販路を広げねばと必死でしたから。

露地栽培・室内栽培のメリットを組み合わせ、誰もが簡単に栽培できる有機野菜の安定供給へ

いま、一番課題だと感じる事柄は?

2008年から野菜工場の生産を本格稼動させましたが、それだけでは経営が厳しく、露地栽培での葱の生産を始めました。まずは、葱の販路を関東・関西でつくることが目下の課題です。同時に、室内環境野菜栽培方法は確立させたので、さらなる野菜工場の改良に取り組んでいます。屋根や外壁の塗料を見直して室内の温度を一定に保つことと、蛍光灯などの電気代を0円にすることが目標です。そうすれば野菜工場のランニングコストは人件費だけになりますから。そのために空気中の窒素と酸素を活用する発電機の研究を進めています。

さらに伸ばしたいと思う、会社の強み、自身の強みは?

仕事に関して、技術とアイデアは自分にあり、創意・工夫に協力してくれる仲間もいます。この野菜工場は一般の農家の方々にもご利用いただけると考えているので、それを実証するため、有機野菜の安定供給を目指していきます。仲間と葱の栽培をがんばっていきますので、興味がある方はご連絡ください。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

まず、家族や仲間がいつも笑顔でいてくれたら最高だと思っています。そのためにも早く、会社を黒字にしたい。この栽培方法を理解してくれる仲間を増やしていきたいです。また、生産できる野菜の種類も増やしたいし、野菜工場を利用して年間収穫のシステムも確立したい。自分自身の夢は、この事業と八百屋を続けながら借金をなくすこと。つくった野菜はどれもうまいと言ってほしい。そして、何かを研究することの面白さ、挑戦することの大切さ、将来へ広がる可能性を、多くの子どもたちにも広めたいですね。年寄りも女性も簡単に栽培できる方法ですし、野菜工場の偏見をなくすことができれば農業への貢献になるでしょう。

萱嶋さんのプライベート&ストレス解消法

アイデアが浮かんだ時、リフレッシュできた気がします

朝6時に起き、工場内を見回り、7時から昼まで八百屋、昼から畑作業、夜は11時まで生活費のためにバイト、頭の中では研究のことを24時間考えている。そんな毎日です。今は、野菜工場の発電をもっと簡単にできないかがテーマですね。そんな日々を過ごす中でリフレッシュできる瞬間といえば、畑で葱を栽培している時、頭の中にアイデアのヒントがひらめいた時でしょうか。アイデアのヒントって、うんうん考えても出こないみたいですね。でも、常に意識しておくのが大事かと思います。そうすると、ふと誰かと話していると、話題は別のことなのに、突然ヒントが見つかったり。ひらめきって、他人や自然が教えてくれることが多いと思ってます。


【文】NICe編集委員 岡部恵