Vol.36 橋本征子さん

岩手県発 地元女性会員と地域企業をつなぐ コミュニティビジネス

企業組合コンシェルジェ 橋本征子 さん
岩手県盛岡市

顧客もスタッフも地域に完全特化した、マーケティング&販売促進事業を展開

事業内容は?

メイン事業は、地域密着型のマーケティング&販売促進事業「さくら隊」の運営です。これは、岩手県の企業や団体からの依頼を受け、地元を生活圏とする女性限定の会員たちがモニタリングやグループインタビューを担当するというもの。その評価や意見、改善のためのアイデアの提供から、さらに広報業務や口コミ宣伝まで、トータルにプロデュースする販売促進事業です。また、ホームページやチラシなどの販促ツールの作成、プロモーションイベントの企画・運営も手掛けています。そのほか、SOHO支援として、共同受注「お仕事します隊」も運営中。企業から依頼された仕事を、メーリングリスト会員の得意分野や余裕のある時間帯を考慮して割り振り、協力して仕事を遂行する仕組みです。地元の優秀な女性のネットワークを構築する狙いもあります。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか? あるいは顧客の課題を解決するのか?

ターゲットは、ファミリーや女性向けの商品・サービスを扱う地域企業のほか、観光協会、商店街、まちづくり関連団体です。地元に暮らす消費者の生の声をアンケートやグループインタビューで集約し、クライアントの商品やサービスと消費者が求めるものとのズレを明確にデータ化することで、検証・改善に貢献しています。さらに、消費者ニーズにマッチした戦略を練り直し、プロモーション施策も提案。また、アンケートやグループインタビューに参加した会員の個人ブログも広告媒体として機能させています。

同業者や競合との差別化ポイントは?

まず、岩手県内には、消費者主体のマーケティング会社が稀有なこと。地元企業・団体のみを対象としていること。さらに、地元の生活者ならではの意見や要望は貴重な地域資源であることが大きな差別化になっていると思います。また、しがらみのない純粋な声を集約し、偽りのない情報を発信することを心掛けている点も特徴です。そのため、クライアントとの事前調査をしっかり行ない、信頼関係を築きます。そんな正直さも、信用につながっているようです。

想定外で継承者となるも、解散の危機に。「さくら隊」事業でリカバリー中

起業のきっかけや動機は?

企業組合という業態を選んだ理由は、1999年の中小企業等協同組合法の改正により、企業組合が学生や主婦にも設立できる仕組みになったこと。そして、「コミュニティビジネス」の普及に貢献したかったからです。でも実は、私は起業メンバーではないのです。起業メンバーがひとり抜け、ふたり抜けというタイミングで参加しました。私自身はフリーアナウンサーという自営業ですので、二足のわらじを履くことに何ら問題もなく、前理事長の「女性がどんなシチュエーションでも生き生きと働ける環境をつくりたい」という理念に共感して参加したのです。その理事長が退任することになり、私が後任となったというわけです。まさか自分が継承することになるとは思っていませんでした。

事業を軌道に乗せるために、どのような創意工夫、改善をしましたか?

実は設立当初、子育て環境や女性の働く環境を整えたいという思いから始まった「子育て応援隊」という保育事業を希望していました。しかし資金調達が難しく、利益性も見込めないとのことから断念。次に、メーリングリスト会員が在宅ワークを得意とする人が多いことがわかり、各会員の特技や資格を活用した共同受注事業「お仕事します隊」を実施。このSOHO支援事業を主な収益源と考えましたが、実際、実働できるスキルを持った会員というよりは、「何かをしたい」という意識段階の方が多かったのです。企業側のニーズも当初の想定より少なく、現在は停滞しています。ですが、マーケティングの仕事なら需要があると考え、助成金を活用して立ち上げた「さくら隊」がやっと軌道に乗りつつあります。「岩手では成り立たないのでは?」という心配もありましたが、依頼先から「課題解決、整理に役立った」「普段から思っていたことを発信する場所があって、すっきりした」「コンシェルジェにお願いしてよかった」と最近は評価をいただけるようになりました。この声が一番嬉しいです。

これまであったピンチは? それをどうリカバリーした?

ピンチは枚挙にいとまがありません(苦笑)。最大のピンチは3年前、前理事長が夫の故郷のイギリスに帰ることになったことです。しかもその直前に、ネットショップをやりたいと新しく参画したスタッフも急に「体調が悪い」ことを理由に辞めてしまって。もう組合自体を解散しようかと考えていた矢先、私自身が離婚することになり、理事長の役職を受け継ぐことになりました。まさにマーフィーの法則か、大殺界まっただ中かと(笑)。未だリカバリー中というところです。

"岩手のアグリを応援し隊"も結成し、岩手の第1次産業の活性化を目指す

現在の経営状況を評価すると?

組織の核となる事業「さくら隊」をようやく確立できたところだと思っています。視察調査などの仕事の実績を認めてくださった企業や個人の方々とサポート体制が構築されたことで、何とかこの事業を継続することができているのが現状ですしね。まだまだこれから伸びる余地があるという意味も込めて、自己採点は100点満点中の50点です。

今後、実現したい経営上の目標は?

今後も「さくら隊」に重点を置いて、地域住民と地域産業を結びつけ、生活者起点の地域経済の発展を促進すること、コミュニティビジネスとしての事業展開を拡大していくことが目標です。そのためにもまずは、県内民間企業との連携をさらに強め、「さくら隊」を盛り上げていきたいです。これまでは、PDCA(Plan、Do、Check、Action)でいうところのチェック、アクションまでの事業でしたが、きちんとプラン、ドゥから提案できる、クライアントの継続的なビジネスパートナーになっていきたいですね。会員の皆さんから特に関心のある分野の「食」に関するビジネスで、もっと「さくら隊」を生かしていきたいし、管理栄養士、フードソムリエなどのスキルを持った会員さんも巻き込んで、安心安全で美味しく健康的な食文化を発信するプロジェクトチームをつくりたいです。また、経営・運営に対して、女性の視点を取り入れていく体制づくりのサポートも手がけていきたいと考えています。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

仕事をとおして繋がった企業との連携を強化して、“岩手のアグリを応援し隊”を結成し、コミュニティビジネスの手法を生かし、衰退する岩手の第1次産業の活性化に貢献することです。よく岩手はPR下手と言われますが、発信能力を高め、格差打開!!したいですね。特に、かつて県の主要産業であった第1次産業を地域の消費者が応援するというリレーションシップを築きたいと思っています。自分自身の夢は、事業を継続、発展させて、そこそこ食べていけて、時々遊べる人生、かな(笑)。

橋本さんのプライベート&ストレス解消法

身近な地域交流でリフレッシュ 愛ネコが癒しの源

立ち上げ時からボランティアで関わってきた、地域SNS「モリオネット」での交流を楽しんでいます。どんな立場の人ともフラットに付き合えて、交流の輪がぐんと広がりました。また、会いたい時にすぐにオフ会ができるのも地域SNSならでは。食いしん坊と飲兵衛のユーザーが多いので(笑)、話も弾みます。時にはモニターとして協力してもらったりと、公私混同して活用させていただいております。リフレッシュ法は、最近始めたヨガですね。肩こりも軽減されました。それと、飼い猫のミーを愛撫して現実逃避することも気分転換になっています。でも、すぐに現実に引き戻されますが(汗)。


【文】NICe編集委員 岡部恵