Vol.41 長谷川陽子さん

島根県発 人・地域・情報をつなげる 人材育成&Web制作企業

有限会社Willさんいん 長谷川陽子 さん
島根県松江市

SOHOエージェントとしてスタートし、地域密着型の人材育成企業に発展

事業内容は?

2001年6月に会社を設立した当初は、地域のSOHOワーカーに登録してもらい、依頼のあった仕事にスキルが合っている登録者でチームを組んで仕事を請け負うかたちをとっていました。が、2006年にSOHOワーカーの登録制度そのものを廃止。当時からの仲間も含めて、現在、当社の仕事に携わってくれているスタッフは20名ほど。30代から50代が主体で、そのうちの8割が女性です。今はこのメンバーと共に、育成事業、Web制作事業を展開しています。育成事業としては、人材育成セミナー、パソコン研修、就職・再就職支援、情報モラル教育、地域ICT(Information and Communication Technology)リーダー育成など。ちなみにICTリーダー育成とは、島根県立東部情報化センター(財団法人しまね産業振興財団)からの委託事業です。

その事業はどのような顧客・市場を狙っている?

島根という地域から、島根ならではの情報を発信していきたいので、狙いどころといいますか、私たちの“想い”、そして“根っこ”は、島根そのものにあります。しかし、企業として成り立ち、成長させていくためには広い視野を持つ必要もありますので、東京など、経済の中心地の仕事も請け負っています。当社が常に訴えているのは、「“人”と“地域”と“情報”をつなぐ企業でありたい」ということ。「島根という地域、松江という街を大切にしたい」「地域のために役に立ちたい」と強く思うようになったのは、大学、会社員時代をすごした大阪からUターンしてから。1994年に戻ってきた時は、この地域の控えめで、多くを語らない気質にかなり抵抗がありました。でもだんだんと、島根のいいところに私自身が気づき、「やっぱり島根が大好き」という自分を受け入れるようになっていったんです。きれいな空気やおいしい水、地域の人たちの親密さなど、都会では決して得ることができないものがたくさんあります。また島根には、出雲大社を代表する神聖な場所がそこかしこに。神社など、神聖な場所に足を踏み入れると日々の喧噪につつまれていた自分も、ふと原点にもどれるような、そんな気がします。そのような想いが強まるにつれ、「地元の人たちは当たり前すぎて気づいていない、地域の良さや強みを発信していきたい!」と考えるように。島根に対する親密さや愛着の深さを有した企業としては、地域でもダントツだと思っています。

SOHOワーカーとしてのスキルの差が大きく、苦渋の選択で登録制を廃止

起業のきっかけや動機は?

きっかけは、1999年11月に開催された「全国マルチメディア祭'99 イン しまね」での経験です。当時、団体職員として勤務していたのですが、土日を中心に県のパソコン研修の講師としての仕事も請け負っていました。そこへ、「パソコンを使って資料をつくれる人が足りないので、イベントの手伝いをしてほしい」という依頼が。私の仕事は、資料づくり以外に、来場される関係者への対応でした。その中で、漫画家のモンキー・パンチさんのスケジュール管理やアテンドなどもさせていただきました。有名な漫画家さんですので、大きなオフィスで仕事をされていると思ってお聞きしてみると、「今はパソコンさえあれば、小さなオフィスだって漫画は描けるんだよ」と。その時、「そうか! パソコンひとつで仕事ができる時代なんだ」と漠然とした将来への思いがふくらんだんです。その後、パソコンを教えてほしいという依頼が次々と舞い込んだこともあり、当時の勤務先を退職し、パソコン研修の講師として動くようになりました。それ自体が起業だとは思っていませんでした。とはいえ、「パソコンの使い方を教えることで、みんながこんなに喜んでくれるんだ!」「もっともっと、人に喜んでもらえる仕事がやりたい!」という気持ちがどんどん高まっていきました。それが、2001年の会社設立、SOHOエージェントとしてのスタートへのつながったのです。

これまであったピンチは?それをどうリカバリーした?

SOHOエージェントを立ち上げた時、島根では珍しいということもあって、地元のメディアに度々取り上げられました。それもあって、SOHOワーカーの登録者が予想以上に増えていったんです。最盛期で120名ほどになりましたが、その中には、まだSOHO予備軍という人もたくさん。そこで生じた問題が、いわゆるSOHO予備軍の人たちと、プロ意識の高い即戦力のある人たちとの差がありすぎるということ。専門性を持っている人たちが予備軍と一緒に仕事をしたがらないという事態も起きてしまいました。予備軍の人たちは、まだ自分は一人前でないという意識から甘えが出てしまい、必要な自己研鑚への情熱も高くはなかったのです。苦渋の選択でしたが、結局、予備軍の人たちの登録を取り消し、登録制度そのものを廃止しました。苦労してでも予備軍を育成すれば良かったのかと、今でも悩んでいますけど。その反省がきっかけとなり、人材育成や就職支援事業をスタートすることになったんです。

夢は、地元なまりで語るインターネットラジオ局をつくること

いま、一番課題だと感じることは?

企業数が多い東京や大阪であれば、飛び込み営業で仕事を獲得できることも多いでしょう。でも島根では「どこの馬の骨かわからない人に仕事を頼めない」という実情がまだまだあります。そんな中で、受注案件ごとに携わるメンバーが変わっても、「“Willさんいん”に頼めば大丈夫」と言っていただけることはとてもありがたいことです。また、当社の登録SOHOワーカーの中には、自信をつけて独立した人もいます。問題は、その人たちと当社とがライバル関係になってしまうこと。狭い地域ですから、どこで誰がどんな仕事をしているのかは筒抜け。よって、お互いに利害関係が生じてしまうということも。これは、今も未解決の問題です。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

島根の情報をもっともっと発信したいと思っています。たとえば、Web上に独自の番組を開設したり、インターネットラジオ局をつくって、地元なまりの言葉だけで語る番組をつくったり。かなりマニアックな番組になりそうですが、まずは、島根のローカルなネタや情報を随時発信できる拠点づくりをしたいのです。すでに各方面に声をかけて準備に着手していますが、最初から打算的に、ビジネスベースのみで考えてしまうと面白くないですから。やってみて、広く地域の人に喜んでいただいて、その喜びが私たちのところに返ってくる。すると、賛同者や協力してくれる人も増えて、と。そのような展開を期待しています。やりたいと思ったことはまず取り組んでみる。もし失敗したら、それ自体がターニングポイントとなって、次のチャンスにつながる。「まずやってみる」。これが私の信条です。

長谷川さんのプライベート&ストレス解消法

神社巡りで、心身ともにリフレッシュ!

数々の神話が残る島根県。その島根県の松江市で神職に仕える家に生まれ育ち、神主の資格も保持しています。私は神社”が大好きです。ネットは日々変わり続けることで人々の役に立つものですが、神社は昔から変わらず、訪れる人の心を原点に戻し、居ずまいを正してくれるような存在です。ですから神社巡りが、私にとって仕事と自分そのもののバランスを保つための欠かせない行動となっています。島根県には本当に無数の神社があり、いまだに数に数えられていないところもあるとか。「いつかは全部の神社を詣でたい!」と息巻いていますが、その野望を果たすにはまだまだ長い年月がかかりそうです。それも、今後のお楽しみということで。


【文】NICe編集委員 田村康子