Vol.42 植田健嗣さん

香川県発 顧客をつなげる場を提供し、 ラストドリームをサポートするFP

有限会社 ジャパンライフマネジメント 植田健嗣 さん
香川県高松市

ハッピーリタイアメントを参加者と共創するためのリアルなコミュニティを運営

事業内容は?

本業は、独立系のFP(ファイナンシャル・プランナー)で、損害保険・生命保険によるリスクファイナンシングおよびキャリアコンサルティングです。その関連サービスとして、ライフプランニングをテーマに、各種研修の主催や法人クライアントに向けたリスク管理の仕組みづくりなどのサポートも。また、10数年前から、起業家支援のためのレンタルオフィスも運営しています。これは、当社管理の不動産スペースを、“仲間の成長の場“として提供したかったから。同時に研修施設でのワークショップ形式の交流会も開催しています。自分も含め、関係する多くの人々のハッピーな老後のために、他人の生き方や考え方に触れ、解放的なシニアライフへと発展させる”たまり場”として取り組んでいます。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか?あるいは顧客の課題を解決するのか?

弊社の取引先の多くは、個人の方々と売上高10億円までの中小企業です。その中でも特に個人客は、オーバー40代を中心とした「おひとり様」、もしくは「おふたり様」を意識しており、“自助”と“扶助”のバランスがとれたシニア倶楽部への予備的役割を担えればと考えています。定年直前の年代には、変えられない固定概念や生活習慣があり、それだけに気持ちよく助け合える他人様の存在は、お金の量以上に生活必需となるでのはないでしょうか。老後に起き得る多くのリスクをリアルに想定し、問題解決を他人に委ねるのではなく、自らその糸口を探る思考能力を高める必要があります。ハッピーリタイアメントとは、すなわち人生最後の時をハッピーに過ごすためのチャレンジなのではと思い、お金では買えないもの、ご近所以上、家族以下の仲間意識が少しでも醸成されればと考え活動しています。

同業者や競合との差別化ポイントは?

そもそも同業者や競合という概念はないですから……。事業の本質が競合ではなく、共生ですので、40代以上の現役層には将来を見据えた助け合いの集まりがますます増える必要があると考えています。また参加者は、ビジネスに関わっている人ばかりとは限りませんので、一般的なビジネス講座や異業種交流会とは異なり、数時間だけの一時的なお付き合いではなく、長く関係が維持されるような場づくりができればと考えています。

海外での創業・撤退の経験を生かし、帰国後は保険コンサルをコア事業に起業

起業のきっかけや動機は?

生家は町工場を営んでいました。創意工夫が当たり前の製造現場を目の当たりにしていたこと、景気の動向に左右されるはかなさをなんとなく体感していたことで、後を継ぐのではなく起業による自立を早くから決定していたように思います。オーストラリアのビジネス専門学校に留学し、卒業後にバイト先だったニュージーランドの旅行会社に就職。そのゴールドコーストの営業所長を任されていた時には、日々3000人を超える旅行者の国内手配とトラブル処理をこなしていました。さすがにこの時は半ノイローゼの状態でしたが、若いが故の失敗と若さ故の突破力により、多くの学びをもらいました。この時の現場体験から「活字媒体による現地情報の提供ができれば、もっと楽によりホスピタリティに力点を置いたサービスが提供できるのでは」と思い、日本人2名、オーストラリア人2名で情報提供会社を設立し、日本語によるイエローページ(いわゆるタウンページ)を創刊。その後、テレマーケティング事業も立ち上がり、多くの現地スタッフとともに事業は急拡大しました。しかし、好事魔多しとはこのことで、絶頂期に経営管理が行き届かず、金銭面でのトラブルや多くの法的問題が露呈。そんな中でなんとか出版物だけは完成させ、失意と無念の帰国となりました。その時、まさに日本経済も大きな音をたてながら瓦解している最中でした。帰国後、いわゆる「カネなし、コネなし、アテもなし」の状態でしたが、もともと失うモノを持ち合わせていなかったので、オーストラリア時代に培った情報を商材に、「安心」と「水」がタダでなくなる時代が来ると直観し、大手保険会社の代理店として独立するための研修生活を送りながら、3年後に“あんしん情報専門商社“をビジネススローガンに現在の法人を設立しました。

これまであったピンチは?それをどうリカバリーした?

オーストラリアでの起業・経営経験がありましたから、現実とのギャップ、特にキャッシュフローによる苦労は比較的少なかったと思います。とはいえ、冷汗もののピンチはないわけがない(笑)。危機管理系セミナーでも雑談として話すのですが、初めてのマイホーム購入で、契約していた建設会社があえなく倒産。独立直後の不安定期に、家族のためにと思い、両手近くの手元資金を頭金として預けていました。それがこともあろうに、クリスマスの日に破産宣告したものですから、一瞬にしてお祭り気分から孤独な「なやみびと」となってしまいました。さすがにあれほど落ち込んだ年末年始を迎えた記憶は、今でもありません(笑)。もちろん契約先である建設会社に対する信用調査が甘かったこともあり、半分は自分の原因と自戒しつつも、破産管財人となった弁護士のあまりに不誠実な対応に憤りを感じ、誰にも頼れない状況ではありました。それでも、2年近くはかかりましたが何とか自助努力で頭金を全額回収できた時には、頭上に3人くらいのエンジェルが拍手を送ってくれているような気がしていました。今となってみれば、どんな時にもどんな事でも他人や社会に責任転嫁している時間がもったいないくらい、自分の思いや行動で確実に困難を克服できる経験のひとつとなりました。

起業しての醍醐味は?  

オーストラリアで創業・解散したことで、学べたこと、それは、社会にも他人にも依存してはいけないということ。だから独りで立つと書いて「独立」なんだという当り前のことを単純にわからせてくれたのは、座学ではなく実技でした。また、今立っているその場の職務を全力でやり遂げようとすれば、必ず誰かが見ていてくれることも。自分でも気付かないうちに、周りの誰かが応援してくれるようになるんです。他人様が自分の陰となって助けれくれていると実感した時、自然と「おかげさまで」という言葉が出てくるようになりました。人はひとりでは生きられない。けれど、まずはひとりで悪戦苦闘しながらも暗いトンネルを抜けないと、起業の醍醐味は実感できないような気がします。

“人生あらかた終了“時の部活動&人生の集大成=ラストドリームのサポート強化

いま、一番課題だと感じる事柄は?

何事もあまり深く考えない性格なのですが、リスクマネジメントの仕事をする中で課題と感じているのは、これまでご縁で結ばれていたクライアントとの終着駅をどのようにセッティングするかということです。まだ、先のこととはいえ、前述のシニアライフを意識した事業展開をしていますので「いつか、その時」をいかにハッピーエンディングなかたちにするかを最大の課題と思っています。とりわけ、保険取扱や小規模のコンサル業というのは 超属人的要素で成立していると思いますし、人間って、何だかんだいいながら、最後の決め手は理由のない「好き嫌い」だったりするわけですから。そんな中で、長いお付き合い相手としてご指名くださったクライアントの方々とのお別れ時の締め方が重要な課題です。長年お付き合いをさせていただいていると、クライアントというよりは、良き隣人といった感覚を覚えますので。だからこそ、ハッピーなシニアライフを共に楽しむことを動機として”場づくり”あるいは”巣づくり”を始めたのかもしれません。

今後、実現したい経営上の目標は?

本当に上昇志向がないもので(笑)。できれば、手は抜いても気を抜かず、ほど良い加減にガンバラず、折れず曲がらずしなる竹のような経営者でありたいと願っています。現在は、安定的な保険業務に牽引されていますが、普段抱える弱みや悩みをさらけだせる自分でいたいと思いますし、それを受け入れてくれる者同士の“すっぴんでいられるコミュニティ”の広がりが、会社の実現したい目標でもあります。私は今年10月で45歳となり、四捨五入すると50歳なんですよね。このコミュニティもある意味、社会人の部活動っぽい集まりです。肉体的にも精神的にも、人生のアラウンド半分を過ごした人が中心です。なので、名付けて「アラハン部」。人生もアラカタ半分終了して、マラソンでいうところの折り返し地点のコーン近くをチョロチョロと走っているランナーたちが部員対象者かな、といったところです。人はひとりでは生きられません。いつどのような失敗をするかも知れません。ましてや、高齢になった自分がますますリアルに感じられる年代だからこそ、誰かに自分の生き様や価値観、そしてその存在を知っていてほしいはず。これまでの半生の振り返りと、今後の半生のライフテーマをしっかりと見据え、自分自身を再発見する旅がハッピーエンディングのテーマとなります。そんなひたむきな共感世代を支えられる運営母体として認知されることが、当社の経営上の目標であり、存在目的でもあります。

植田さんのプライベート&ストレス解消法

巨大な金庫の中で瞑想し、精神統一!

ストレス解消というか、最近ハマっているのは、始業前のメディテーション。いわゆる瞑想です。妄想ではありません(笑)。みなのたまり場として運営を始めた店舗が、その前は金融機関の支店だったために、店内には大きな金庫がそのまま残っています。この堅牢な鉄格子の中で行うわけです。最初はちょっと抵抗がありましたが、これも慣れれば瞑想にピッタリの集中スポットと化しております(笑)。外界と隔絶された格別の空気感があり、暗闇の中スポットライトに照らし出された曼荼羅が、人生の喜びと儚さを切々と語りかけてきますよ。興味のある方がいらっしゃれば、ぜひ一度体験しに来てください。精神統一には本当にピッタリですから。


【文】NICe編集委員 岡部恵