Vol.43 永山 仁さん

大阪府発 アグリビジネス参入も構想する 化成品・合成繊維などの製造請負会社

株式会社 日鐘(にっしょう) 永山仁 さん
大阪府摂津市

製造請負42年の実績と資源を生かし、新規事業にも果敢に挑戦!

事業内容は?

当社は祖父の代より42年間、大手化学メーカーの協力会社として、化成品、機能性樹脂、発泡樹脂、合成繊維製品などの製造請負を行っています。また、ここ数年、自社で保有している何かしらの資源を生かした新規事業を検討した結果、2009年4月からフォークリフトの技能教習事業をスタート。さらに近い将来、水耕栽培に関するアグリビジネスにも新規参入する計画で、小型野菜栽培装置を小・中学校に提案しようと計画中です。これからも当社で培ってきた技術を有効活用しながら、地域活性化、雇用創出に貢献したいと考えています。

同業者や競合との差別化ポイントは?

本業の化学製品の製造請負は、大手化学メーカー1社に限定した協力会社という位置づけです。365日・24時間連続操業で急な発注にも迅速対応できること、「カイゼン」や安全意識が高いこと、また42年間、共に歩んできた歴史と蓄積したノウハウの深さが、良好なパートナーシップを継続できているポイントだと思います。フォークリフト技能教習事業は、平日忙しい人を対象にした週末限定開催で、受講料も格安に設定。ほかの教習機関で断られた外国人労働者の受け入れや、法人を対象とした出張教習など、長年製造請負業を行っていることでつかんだ現場のリアルなニーズや経験を生かし、当社にしかできない柔軟な対応を行っています。

労働災害をなくすため事業を継承。「安全第一」の現場に大改革!

起業のきっかけや動機は?

今から6年前、私は父から事業継承したのですが、その当時のことは忘れられません。地上2.5mの高さのあるハシゴから社員が転落、右足を開放骨折するという重大な労働災害を発生させてしまいました。事故原因を検証した結果、ずさんな安全管理体制やルール規約、社内の安全意識の低さなど、様々な問題が浮き彫りに……。安全面に対する従業員からの信用は失墜しました。そこで、当時社長だった父が「会社を立て直すには若返らなければならない」と経営陣の一新を決断。この事件が、私が事業を継ぐことになったそもそものきっかけです。その頃、私は現場で製造業務や現場改善業務に携わっていましたが、まだ30歳の若さ。経営者としての自覚も何もあったものではなかったのですが、「とにかく労働災害をなくさなければ!」という熱意だけで事業継承を引き受けたのです。

起業前の予想と起業直後の現実は?

長なんて、たまに出社して、あとはゴルフして、楽チンなんだろうとタカをくくっていましたが、まったくそんなことはなくて(笑)。今、私は四六時中、会社のことを考えてしまいますし、工場は24時間稼動していますので、携帯電話が手放せません。最初の頃は、古株の人間にナメられて思うように改革に踏み出せませんでしたが、毎日現場に行って当時150人ほどいた社員の名前をすべて覚え、とにかく話を聞いて回りました。「何に困っているのか?」「どうしてルールを守れないのか?」「ルールを守れない(守りにくい)本当の理由は何か?」などなど。そうやって原因を聞いては、改善策を実施。「私にとって、すべての従業員がかけがえのない存在であり、誰ひとり痛い思いをしてほしくない。だからルールが存在するんだ」と何度も話をして、理解が得られるよう努力を重ねていくうちに協力者が増えていきました。何よりも安全教育に多くの時間や投資をし、「安全第一」の理念をイチからつくり直したわけです。私が社長になってからこれまでの6年間、重大災害は一度も発生していません。

これまであったピンチは? それをどうリカバリーした?

まさに今がピンチ。原因は言わずもがな、昨年のリーマンショック以降の大不況ですよ。我々が製造を請負っている化学製品は輸出の占める割合が多いため、大打撃を受けています。受注も売り上げも、前年比ほぼ半減で本年度をスタートせざるを得ませんでした。現在、雇用している社員に今までどおりの給与を払うと、大幅な赤字となり立ち行かなくなりますので、余剰人員分を解雇することも考えました。が、幹部と話し合った結果、ほぼ全員の給与を1?3割カットして、ワークシェアリングを導入。誰ひとり解雇することなく、みんなで痛みを分かち合うことで、この難局を乗り越えようと踏ん張っている最中です。当社は今夏、創業以来、毎年欠かさず支給していたボーナスを支給することができませんでした(涙)。ただ、このピンチをチャンスとみなし、「当社の強みは何か?」「どんな強みが新規事業に生かせるか?」という問題意識から、私たちが普段何気なく使用しているフォークリフトに注目。フォークリフトの教習事業を開始したことで、「指導員」という雇用の受け皿をつくることができましたし、今まで製造オペレーターだった社員の「教習指導員」という新しい才能にも気づき、開花させることができました。業績は過去最悪ですが、そういった多くの学びや発見ができ、最高に充実した日々を送ることができています。

新規事業をどんどん発想し、製造請負業だけに依存しない会社づくりへ

いま、一番課題だと感じる事柄は?

先に述べた、小型野菜栽培装置を小・中学校に提案するアグリビジネスの構想を実行に移すことが、今、一番の課題です。当事業計画のさらなるブラッシュアップ、小・中学校への提案活動など、ひとつずつ解決していきたいと思っています。事業全体としては、今期は赤字スタートなので、あらゆる企業努力をして、決算までには何とか黒字化に持っていきたい。ただ、今期、数字的には過去最悪ですが、社内の雰囲気は過去最高です! 本業のマーケット回復を期待しつつも、新規事業を少しずつ育て、製造業だけに依存しない強い会社組織をつくっていきたいと思っています。

さらに伸ばしたいと思う強みは?

「ストレングスファインダー(強み発見テスト)」によると、私の強みは「着想」と「成長促進」にあるとのこと。経営理念のひとつである「自由に発想し、方正な仕事をする」に則り、既成概念にとらわれない自由な発想でどんどん本業を改革し、新しいビジネスプランも考え出していきたいです。また、社員にもっと外の世界を見てもらい、様々な勉強や経験を積んでもらい、起業家を輩出したいと思います。優秀な人材を排出することは当社からすればダメージかもしれませんが、社会にとってはプラスのはずですし、そのプラスはいずれ当社にも還ってくると信じていますので。

永山さんのプライベート&ストレス解消法

16歳からいつもそばにいた、バイクが命! 

16歳でバイクの免許を取得してからというもの、ずっとバイクがそばにいました。最初はレーサーレプリカが好きで「TZR50」や「NSR250」。しかし、交通事故で右手を骨折して、ちょっと落ち着いたことで、シングルに興味を持って「SRX400」に乗り換え。で、また事故って(笑)、無理をしないでアメリカンだなと「MAGNA250」。その後、大型免許を取得し「DRAGSTAR1100」と乗り継ぎ、一昨年、念願のハーレー「FXSTC」90年式を中古で購入しました。家族もいますし、なかなかツーリングに行けないですが、早朝の小一時間、近所を走るだけでもスッキリ!  あとは、月1回ゴルフに行けて、お酒が飲めたら、もうサイコー!


【文】NICe編集委員 石田恵海