Vol.53 野呂康之さん

三重県発 コーチングや心理学の手法を取り入れた、 事故防止アドバイザー

野呂康之 さん
三重県津市

企業活動から発生する交通事故を限りなくゼロに近づける教育事業

事業内容は?

車を活用して事業を行う様々な企業に対して、交通事故防止をメインとしたコンサルティングやコーチング、セミナーなどを行っています。また、その活動をとおして企業の人材育成にも貢献しています。車を使わなければ成り立たない企業活動は意外と多いもの。できるだけ多くの企業が交通安全への高い意識を持つことで、事故による損害や、事故被害者を減らしていきたい。私の事業が、その一助になればと願っています。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか? あるいは顧客の課題を解決するのか?

運送会社などのプロのドライバーをはじめ、車を使う営業スタッフを管理されている企業担当者、小さな企業でしたら社長を対象にコンサルティングを行います。主なクライアントは運送会社ですが、営業用の車両を複数保持している企業も多数。当然ですが、運送会社は交通安全に関する規律やマニュアルもしっかりと作成し、安全な走行に注意を払われています。ところが、運送会社以外の企業は、そこまで管理の手が行き届かないというのが実情。いずれにせよ、企業活動中に交通事故を起こしてしまった時のリスクは非常に高い。万が一、社員が仕事中に人身事故を起こしてしまったらと考えてみてください。最近は、営業用車両は保険付きのリースがほとんどですので、車両の修理代や、あるいは廃車になったとしても、金銭的にはさほど高いリスクを負うことはありません。しかし、被害者への賠償金が驚くほど高額になることもある。それが原因で倒産してしまった企業も存在します。また、事故内容によっては、加害者となった社員が退職せざるを得ないことも。その場合、新たな社員を採用するなど、想定外の経費が何重にも重なってしまいます。そのようなリスクを避け、限りなく交通事故をゼロに近づける提案をすること。それが私の役割であり、使命だと思っています。

安全運転だけではなく、次の段階にある、社内風土改善を含めた指導を

起業のきっかけや動機は?

独立する前の勤務先でも、クライアント企業の交通安全に関する指導を担当していました。それも名前を言えば誰もが知っているような名の通った大企業がほとんど。しかし、車を使った営業活動をしている会社でも、社員が100名を切ると、交通安全指導に手が行き届かなくなるのが現状。そこに大きなニーズがあると感じていました。たとえば、20台の車を使っている企業で、年間2台の車が事故を起こしたとすると、事故率は10%。ある企業の交通事故率が年間10%と聞くと、「その会社は危険」となりますよね。そうならないためには、事故が起きたらどうするかではなく、事故を事前に防ぐための提案が必要。「この事業は、多くの中小企業に求められるはず」という思いに至ったのです。当時の勤務先に提案して動いてみたのですが、なかなか思いどおりにいかず・・・。独立して自ら取り組むことを決意したのです。独立して、交通安全アドバイザーとして活動していくために専門知識だけではなくプラスαが必要だと思い、心理学やコーチングを学びました。

起業前の予想と起業直後の現実は?

大儲けしたいとは思っていなかったので、予測との大きな差はありません。ただ最近は、企業側に余裕がなくなってきていると感じています。ミス=クビというケースで人材育成を放棄する企業が多くなっており、それが悲しいですね。ミスを犯したことに対して原因を追及することなく、ミスを繰り返さないための改善を試みることもなく、即刻クビというのはよくない風潮です。また、その風潮に「NO」と訴えている私の声が、まだまだ届いてないという現状に力不足を感じています。自分のポジショニングというか、位置づけや打ち出し方などを明確に示せなかったことも反省材料です。私は、安全な運転そのものを指導するというポジションではなく、安全な運転は当然として、その次のステップで必要とされる役割を果たしたいのです。より高度な社内の風土改善や、発想や思考の転換などをアドバイスする専門家にならなければいけない。きっと、交通安全をきっかけとした社内風土の改革が、交通事故防止に、やがて交通事故ゼロにつながるからです。

ドライバーが地域の人々とコミュニケーションを図る。そんな社会づくりが夢

いま、一番課題だと感じる事柄は?

現在の経営状態を点数で評価すると0点です。2007年に独立した時の目標は、「3年目で安定した売り上げを挙げ、赤字から脱却」というものでした。ところが、3年目を半年すぎた今も赤字続き。昨年のリーマンショックも痛かった。その影響が、今年の夏ぐらいからどの会社にも如実に表れていますから。それにより、契約を続けられなくなるケースも多く、かなりの収入減となってしまいました。以前は、東京と大阪を主な営業先にしていましたので、その移動のための経費や移動時間も無駄に使っていたなと。確かに都市部での展開も大切です。しかし、地元である三重県のクライアントこそ大切にすべき。そこで、交通安全対策、社内改善に困っている地元企業に着目し、常に臨機応変に対応できる身近なアドバイザーになろうと。今、自己改革を進めているところです。

さらに伸ばしたいと思う強みは?

1回きりで縁がなくなるアドバイザーではなく、継続した人間的つながりを保てるアドバイザーになることですね。そのために学んだのがコーチングや心理学。従来の安全運転指導は、ツルツルの路面で車を運転させたり、ものすごいスピードでカーブを曲がらせるなど、危険体験型のショック療法がほとんど。それは、強く印象に残っても、“のど元すぎれば熱さ忘れる”で、時間が経てば印象が薄れていくもの。そうではなく、継続した面談や相談を続けるコーチング、あるいは、本人の考えや意思を引き出してあげられる心理学の手法を用いて指導に当たるというが私のやり方です。それにより、一人ひとりが自ら良い方向へと動いていけるような指導者となることを目指しており、今後はそれを強みとして打ち出していこうと考えています。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

ズバリ、「交通弱者に優しいドライバー社会の創出」です。ここでいう交通弱者とは、住宅街の狭い道を日常的に歩いたり、自転車で行き来している人たちのことを指します。センターラインがない狭い道を、スピードを出して走っている車が少なくありません。そのようなドライバーの暴挙を徹底的に撲滅し、ドライバーが窓を開けて「こんにちは!」なんて声をかけて、人々とコミュニケーションするような。そんな気持ちの良いドライバー社会を形成していくことが究極の夢です。

野呂さんのプライベート&ストレス解消法

趣味は写真撮影と文章執筆。いつかは小説を書き上げたい!

写真撮影が趣味で、以前は野鳥や渡り鳥の撮影のために、北海道や九州まで出かけることもありました。独立してからは、近場への小旅行ばかりですが、それでも写真撮影は大いにリフレッシュできます。余裕が出てきたら遠征を再開したいと思っています。また、我が家には14歳の長生き猫がいます。その愛猫とじゃれあっている時も、「あー、幸せだなぁ」と(笑)。あとは、文章を書くことも好き。業界誌への寄稿もたびたび行っています。いつかは小説を書き上げて、賞でもとれたらと(笑)。そう考えてみると、けっこう多趣味な私です。


【文】NICe編集委員 田村康子