Vol.54 川崎洋之さん

鹿児島県発 黒糖焼酎「弥生」を製造する 奄美大島で最も歴史ある蔵元

合資会社弥生焼酎醸造所 川崎洋之 さん
鹿児島県奄美市

伝統の黒糖焼酎「弥生」を守り続け、飲む人に幸せを届ける醸造会社

事業内容は?

奄美大島で1922年から、黒糖焼酎「弥生」を製造・販売している蔵元です。販売先は、直に購入される個人客(百貨店での物産展なども含む)、問屋を経由した地酒の専門店、業務用酒類販売業を経由する飲食店など。年間20万本くらいを出荷しています。奄美黒糖焼酎をとおして、飲んでくださる皆さんへ幸せをお届けることが使命だと思っています。

同業者や競合との差別化ポイントは?

「弥生」のこだわりは、常圧蒸留。黒糖本来の味と香りを十分に引き出し、それでいて口当たりはスッキリと、キレがあるのが特徴です。麹造りをしっかりと行なうことで、仕込み期間の短縮化に成功。樽貯蔵の製品造りにも定評があり、まろやかで甘みのある焼酎に仕上がっている点も他の焼酎との差別化ポイントでしょう。「弥生」ラインナップの中でのイチオシは、「弥生・瓶仕込」。黄麹を使用することにより、華やかな香りも楽しめるスッキリとした黒糖焼酎です。製品には自信がありますが、市場は低アルコール化が進み、安価な甲乙混和焼酎などが席巻しているのが現状です。そんな中、ワインなど高価格の商品が売れるなど、消費の二極化が進んでいると感じています。本格焼酎といわれる焼酎の中で「弥生」は、消費者にとって少し割高に感じる商品群に位置しているかと思います。

後継者育成と営業力を強化し、低アルコール化が進む市場を打開

継承のきっかけや動機は?

私は四代目になります。父と母の苦労を見てきたので、子どもの頃から「弥生」というブランドを絶やしてはいけないと思っていました。ただし、継承のため奄美大島に帰るまでは、自分の可能性にチャレンジして、好きなことをさせてもらいました。大学院農学研究科修了後に、医療用フィルターメーカーで研究開発の職に就き、その後、医薬・バイオサイエンス企業のマーケティング部門に転職。そして、経営者になるためには営業経験も必要だろうと考え、外資系の製薬・バイオテクノロジー企業で6年間、首都圏を中心とした抗癌剤営業に携わりました。2004年には営業成績上位として表彰経験も。そんな経験を経て、2006年1月に島に戻ってきたのです。

軌道に乗せるための創意工夫は?

帰島後、酒造業界の体質の古さに少々ギャップは感じました。が、商習慣の古さはどうすることもできないので、私たちは添付販売や値引きをしないことをポリシーとして掲げています。「販売量は少なくてもいいから、流通させる製品すべてに利益が出るようにしてくださいと」お願いしているのです。また今は、後進を育てるのが一番大切だと考え、製造面での後継者育成に注力しているところです。先代までは杜氏に任せきりでしたが、私は少し口を挟むようにしています。

継承しての醍醐味は?

事業を引き継ぐ前に考えたことは、まず社員と良好な関係をどう築くかということ。30代なかばまでに戻ってこないと、社員には支えてもらえないだろうと感じていました。実際には、みんな昔から私の存在を知っていたので、抵抗感はほとんど感じませんでした。現場責任者である杜氏の元で修業をしながら営業活動にも回っていますので、杜氏からの信頼も得られていると感じます。アルコール消費量が伸び悩む市場の中、いかに利益を確保できるか。物流コストなど、他の焼酎と比較しながら、マイナス要因が多いと感じることもあります。ですが、経営者としての事業の舵取りは、なかなかエキサイティングです。

黒糖焼酎を世界に広め、奄美大島に多くの人を集め、島を発展させることが夢

いま、一番課題だと感じる事柄は?

焼酎ブームのおかげで、黒糖焼酎自体の知名度は上がったものの、さらに「弥生」が選ばれるような営業活動をしていかなくてはなりません。また、私自身は製造のことも理解し、流通も把握しつつあるので、今後は実際に消費者に製品を届けてくれる酒屋などとのコミュニケーションを深めていくことが大切だと思っています。また、利益配分について、これまでは社員に還元すべきものと考えていましたが、人材教育を含む設備投資にも回さなくてはいけないと感じています。

さらに伸ばしたいと思う強みは?

奄美大島では一番歴史がある蔵元であり、個性の強い杜氏がいることが強みだと思います。当社は幸いにも、これまでほとんど宣伝や営業活動をすることなくやってこられましたが、今後は私が営業の尖兵となり、“顔の見える蔵”として、お客さまに認知していただくことに努めたい。私自身の強みは、人にかわいがっていただけることかと思いますので、その強みをうまく活用して、「弥生」の認知度を上げていきたいと考えています。

事業を継続発展させることによって実現したい夢は?

経営上の目標は、「弥生」を世界に広めること。そのためにも、まずは日本国内でのブランド確立が急務です。自分の成長はもちろんとして、社員の成長を促したいですし、組合を活用して「弥生」だけでなく黒糖焼酎のブランディングも図りたい。黒糖焼酎の知名度向上が、各社の銘柄の知名度向上にも自然とつながっていくと考えていますので。また、東京方面からだと奄美大島へ行くより、沖縄や韓国への旅行代金のほうが安いのが現実です。しかし、この美しい手つかずの自然と、おいしい黒糖焼酎を武器に、「奄美大島に行きたい!」と思ってもらえるような魅力をどんどん打ち出していきたい。奄美大島を、多くの人が集まる島へと発展させることが夢です。

川崎さんのプライベート&ストレス解消法

出張の合間に「アンパンマンのエキス」で社会貢献

以前は、テニスや釣りが趣味でしたが、今は月の半分は出張ですし、製造中は休みなしのため、できなくなりました。あえて挙げるなら、出張の合間の「献血」が今の趣味です。「アンパンマンのエキス」という実話を知っていますか? 小児ガンの4歳の息子さんを亡くされたお母さまが、息子さんのことを思い、献血の輪を広げたいと、兵庫県のとある献血ルームのメッセージノートに書かれたのが始まりのようです。ブログも書いていらっしゃいます。その息子さんはアンパンマンが大好きで、治療のための輸血を「アンパンマンのエキス」と呼んでいたそうです。これで頑張れる、力が沸くと・・・。私が最初に就いた仕事が輸血関連だったこともありますが、その話を聞いてから、献血の重要性を知り、暇ができれば献血するようになりました。


【文】NICe編集委員 岡部恵