Vol.55 民野智美さん

兵庫県発 癒しの言葉を届けるアートセラピー& セミオーダーの絵本製作・販売

Happy Project 民野智美 さん
兵庫県神戸市

「自己尊重感」を高め、幸せの連鎖のきっかけをアートでつくる

事業内容は?

結婚・出産時の記念品やプレゼント用のセミオーダー絵本の製作・販売を行っています。本の表紙や中身にお名前・日付け、メッセージも入れられる「世界で一冊の本」です。自宅サロンでは、アートセラピーやカウンセリングも行っています。アートセラピーは、描画や様々な素材を使って、心を表現していく心理療法。絵を描いたり、素材に触れることそのものに癒しの効果があるだけでなく、でき上がった作品の中には無意識のメッセージがたくさんつまっています。アートカウンセリングでは、描画をもとにお話をお聞きしていくのですが、本人も気づかなかった問題解決のヒントが描画に表れていることもあります。最近注力しているのが「ママのための癒しのアートセラピー講座」。子育て中のお母さんが、少しの間だけでも子育てから解放されて自分自身をケアできるような、ママたちの心の温泉のような場をつくりたいと活動しています。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか? あるいは顧客の課題を解決するのか?

今、物質的に満たされていても、心が満たされないがために薬物やアルコール、ギャンブルといったものに依存してしまったり、自分や他人を傷つける行為に走ってしまう人が増えています。そういった「心の誤作動」の原因のひとつに「自己重要感」の低下があるのではないかと考えています。それを正すには、「自分のことが好きで、自分は価値のある人間だ」と心から思えることが大切。それは自分や周囲の人間を大事にできるかどうかにつながっており、人生の質を決めるくらい重要なことだと私は思います。だからこそ「自己重要感」を高めてくれる第三者を人は求めているのだと。そこで、「あなたは世界でたったひとりの価値のある人なんだよ」というメッセージを絵本やアートセラピーを通して届けたいと考えました。ギフト用絵本のメインは、書き込み式ページです。一般的なウェディングブックの場合、新郎新婦がふたりで「お互いのいいところ」や「自分の取り扱い説明書」などを書き込むページがあります。それらを書き込む時、ふたりで自分や相手のことをもう一度見つめ直し、これからの結婚生活をイメージする。このプロセス自体が一種のセラピーでもあると考えます。離婚率が上がったり、子どもの虐待が増えたり、そんな暗いニュースが多いからこそ「自分たちはそうなりたくない」「大事な人にそうなって欲しくない」という思いもまた強くなっているのではないでしょうか。そんな世の中のマイナスの感情を払しょくすることが私の願いです。

同業者や競合との差別化ポイントは?

育児日記やアルバムと違う点は、絵本ならではのメッセージ性だと思います。たとえば、ベビーブックの場合、ただの出産・育児の“記録”ではなく、パパとママのメッセージや20歳になった子どもへ贈るタイムレターが付いていたり、その子が大人になってからも胸を張って生きられるようなちょっとした「仕かけ」があります。また、手づくりの利点を生かして、毛糸やリボンをあしらったりとオリジナリティを表現できる表紙デザイン、ご希望によって似顔絵を入れたりできるのも差別化のポイントです。当社のビジョンは「幸せの種まき」。将来、絵本を手にした子どもが「自己尊重感」を高められ、自分をもっと大切にすることができたら、周りの人のことも大切にできる。そんな幸せの連鎖を起こす、きっかけになれるようにと願って製作しています。

障害者施設勤務で勇気をもらって起業。産後のうつのピンチをチャンスに転換!

継承のきっかけや動機は?

以前は重度の身体障害者施設で介護の仕事をしていました。入所されている方の中には、不自由ながらも自分にできることを模索して、限界にチャレンジし、少しずつ世界を広げていく方もいました。そんな方々を身近に見てきたから、五体満足で、ごはんを美味しく食べられて、夜は眠れて、行きたいと思った場所に自分の足で行くことができる……。そんな「当たり前」とされている普通が、実は「奇跡」だと思ったんです。なのに、やってみたい、挑戦したいと思うことをしない理由があるのかと背中を押されました。結婚式の2カ月前、フィアンセが健康診断を受けたら肺がんが見つかり、目の前が真っ暗に。毎日泣いて過ごしました。ところが、精密検査すると、昔の肺炎の影だったとわかりまして(笑)。今は笑い話ですが、当時は本気で一緒に年を越せないかもと思っていたので、もういてくれるだけで、一緒に居られるだけでいい!と。そう思うと、たいがいのことは許せちゃうもの。でも、この気持ち、毎日一緒に生活していたら絶対忘れてしまうんだろうなと思い、自戒をこめて初心を思い出す道具として、自分たちのためにつくったのが「Happy Wedding Book」でした。友人が「自分たちにもつくって」と言ってくれたのがきっかけでビジネスに発展。今思えば、夫の肺炎の影に感謝ですね(笑)。

起業前の予想と起業直後の現実は?

起業前から、家庭と仕事の両立を一番に考えていました。が、実際に起業してみると、勤めに出ていた頃よりも無理なく両立ができ、精神的にも楽になりました。子育てしながら仕事するうえで、「子どもの病気はピンチ」「母として子どもに寄り添っていてあげたい」。でも職場に迷惑がかかる・・・。必ずぶち当たる母親の葛藤だと思います。でも起業すると、特に私の場合は自宅メインの仕事ですから、子どもの病気や行事の時は迷わず子どもを優先。その分の仕事を夜中にすることになる時もありますが(笑)、それでも勤めていた当時のあの板ばさみのストレスに比べたらまったく苦にはなりません。ビジネスとしてはまだまだわからないことが多く、勉強することだらけですが、仕事と子育ての両立に関しては問題なくやれています。

これまであったピンチは? それをどうリカバリーした?

2008年に第二子を出産したのですが、私自身の体調不良や子どもの病気などが重なり、軽い産後うつになってしまいました。正直、「まさか自分が・・・」という思いと同時に、本当に誰でもがなる可能性があるものだとも実感。これまで勉強していた心理学やセラピーを、自分の問題としてとらえ直すことができたのは、将来のために必要な体験だったと思いますが、当時は本当にしんどくて仕事に対する意欲も低下。それと比例して売り上げも落ち込んでしまいました。それにストレスを発散したくても、子どもがまだ小さくて思うように外にも出られない。セルフアートセラピーをして少しずつ復活していきました。そんな自分の体験から、程度の差こそあれ、子育てをとおして自分の問題にぶつかる母親は多いのではないか。それを何とかしたくても、毎日の子育てに追われて自分の時間が持てない人も多いのはないかと。そんなママたちに「自分を癒す時間」を持ってもらいたいと考え、「ママのための癒しのアートセラピー講座」をスタート。やはり自分の時間が欲しいママのニーズは高いようで、これまでの他の講座に比べて募集時の反応も違います。どんな経験も決して無駄にはならないし、無駄にしたくないと思います。何といっても、私のモットーは「転んでも、タダで起きるな! 何か拾え!」ですから(笑)。

子育ても落ち着き、次の夢に向かって新たなチャレンジのスタート

いま、一番課題だと感じる事柄は?

業績は、前年から現状キープという感じです。来年の春までは、子育てを第一にと考えていたので、新規顧客開拓ができていないということと、投資が先行しているので経営的には厳しい状況だといえます。個人客がほとんどで、そのため販売数も月によってまちまち。今の一番の課題は売り上げの安定化です。今後、産婦人科や結婚式場などとの契約を増やしていきたいと考えています。また、今年から販売代理店制をスタートさせたので、販売代理店を全国に広げることが目標。いつか海外にまで届けられたらという夢もあります。そして来年度は、これまでずっと温めていたアイデアをかたちにしたい。タイトルは「天国のあなたへ……」。亡くなった方との思い出を1冊にまとめたアルバムを葬儀会社とタイアップして製作・販売していきたいと考えています。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

トルコにアートをとおして障がい者にアプローチしている施設があると聞いて、実はボランティアでお手伝いに行く予定だったんです。ところが出発1カ月前に妊娠が発覚して断念。その後、長男の子育て中にアートセラピーを始めたのですが、トルコで私が体験しようとしていたこともアートセラピーだったんじゃないかなと。結局、トルコに行っていても、日本にいても、アートセラピーと出会っていたということ。一度はあきらめたけど、いつか必ず、今度はプロのアートセラピストとしてトルコに行くと決めています。また、売り上げの一部を途上国の子ども支援をする団体に寄付しているのですが、事業を発展させて、もっとたくさんの子どもたちを支援できるようになりたいです。いつか絵本を買ってくださった方や販売代理店の方たちと一緒に、現地の子どもたち会いにいくツアーを実現したいですね。

民野さんのプライベート&ストレス解消法

子育てのストレスは仕事で、仕事のストレスは子育てで発散!

なるべくボーッとする時間をつくるよう心がけています。そういう時間がないと、アイデアもわいてこないですし、いいものがつくれないので。また、子育てのストレスは仕事で、仕事のストレスは子育てで発散していますね。子どもがダダをこねてひっくり返ったら、私も一緒にひっくり返って「やだ、やだ?!」ってやります。もちろん、家の中でだけですけど(笑)。そうやって、ひとしきり騒いだら、ホントにスッキリするんですよ。私の行動にビックリして、子どもは泣き止むし、一石二鳥です(笑)。


【文】NICe編集委員 石田恵海