Vol.57 鈴木晋平さん

福島県発 ラジオパーソナリティも務める ハンドランチグライダーの製造販売会社

有限会社デジタルくらふと 鈴木晋平 さん
福島県福島市

10年来の趣味を生かし、安全手軽に大空へ誘うハンドランチグライダーを製作

事業内容は?

ハンドランチグライダーの製造販売を行っています。ハンドランチグライダーとは、動力を持たない模型飛行機で、翼長1.5m、重量200g程度。円盤投げのように一回転させながら上空へ放り上げると、50mほどの高さで目には見えない上昇気流に乗ります。その後は地上からラジコンで操縦し、滞空させることができる飛行機です。このほか、舞台制作(音響・照明)・イベント企画運営、地元FM局でのラジオパーソナリティ、また、農業加工品のオンライン受発注在庫管理・ネットショップ運営なども手がけています。ラジオは自社提供の週1回30分番組のほか、ラジオ局から依頼された2時間の生放送のパーソナリティも担当しています。

それらの事業はどのような顧客・市場を狙っている?

模型飛行機の製作販売は、数年来の趣味から始めた事業で、顧客の多くが私と同じ愛好家です。現在、私のブログには1日300件のアクセスがあり、ネット上でのやりとりからの受注がほとんど。国内ラジコン人口は100万人とも言われていますが、一般的にはまだ馴染みが薄く、製作技術も確立されていません。いっきに大ブレイクするようなマーケットではないですし、日本の経済状態からしても、当面は生産方法の確立とファン層の拡大を中心に展開していくつもりです。

同業者や競合との差別化ポイントは?

オリジナル設計・機器の搭載、飛行調整まで行なう、日本で唯一の工房だと思います。ですが、ユーザーが100%満足できるものを提供するのは不可能ですし、純競技機と入門用機は異なります。それらを理解してもらうためには、クレームも貴重なノウハウのひとつになると考え、各地でミーティングを開き、飛行指導や対面でのコミュニケーションづくりにも努めています。遠方からも愛好家が福島まで会いに来てくれますし、中には個人的なお付き合いに発展した方も。先日は「ブログであなたに孫がいることを知った」と、孫用のジャケットを送っていただくなど、苦労を吹き飛ばす喜びもあります。

早期胃癌で起業を決意。生産循環型農業システムを中心に多事業で始動

起業のきっかけや動機は?

テレビカメラマンでしたが、海外取材を行う中で体力の衰えと不安定な収入に不安を覚え、食品会社に転職して8年ほど責任者を経験。しかし「安心・安全・新鮮」を追求すべき業界で、様々な不条理や疑問を感じるように……。そして、早期胃癌が見つかったのを機に退社。麻酔で意識が遠のく中、「退院後は悔いのない人生を歩もう」と、その実践のために起業しました。食品工場の残渣を循環させ肥料化し、その作物を健全なかたちで食卓へ運ぶ生産循環型農業を実現したいと、農産物加工品のネット事業を中心に、映像関連業務と趣味だった模型飛行機の製造販売も併せて会社をスタートさせました。

起業前の予想と起業直後の現実は?

起業して約半年後、中国産の一部食品が輸入停止となり、国内の食品業界を震撼させました。その影響をもろに受け、農産物加工品関連よりも受注が相次いでいた模型飛行機製作へとシフトし、現在に至っています。製作は、ネットを通じて広がった愛好家仲間に、シミュレーション設計、ノーズ部分、心材となる断熱材の切り出しを依頼し、その後の全工程を私ひとりで行っています。早朝から深夜まで工房で製作し、1カ月の生産台数は10機。接着硬化時間を有効に使い、その間はほかの業務に当てています。

起業しての醍醐味は?

自ら決断し、方向性を決め、自己責任で前に進むことができる。“たったひとりの自分”という信者を持つ教祖になった気分でしょうか(笑)。万が一、経営的に最悪の事態となれば保有不動産の売却でしのぐ手もありますが、大きなお金を手にしても何にもならないと、「NICe in 郡山」で増田チーフプロデューサーの講演を聞いてから考えが変わりました。日々やることがあり、売れる商品をつくり出すことができる。醍醐味とはちょっと違うかもしれませんが、毎日好きなことができるのですから、毎日が休日のようなものです。醍醐味にしては小さいかな(笑)。

純国産機での世界大会出場。生産循環型農業とユニオン実現へ向け前進!

今後、実現したい経営上の目標は?

まずは、2011年に開催されるハンドランチグライダー世界大会へ向け、主翼の設計を含め純国産機で挑戦することです。経営的には、愛好家の数が増えれば需要も増え、当然販売も増えるでしょうけれど、そのためには手頃な価格で高性能の機体の生産販売が必須。生産体制を整え、人員を増やし、その後の生産管理と、それなりの資金が必要ですからリスクは小さくありません。いずれは、コストの低い中国などでの生産も視野に入れています。また、高湿度で飛行条件が不利な日本で育まれた高い機体性能を生かし、国外での販売も考えています。農業分野については、生産者がその気にならないと先に進まぬ状況ですが、多品種小ロットの地域密着型を意識しながら、米沢地域農家全体との連携を計画しています。

事業を継続発展させることによって実現したい夢は?

ひとつは、生産循環型農業を実現すること。そのために、農家の組織化・商品化、産地と消費地のデポジット拠点づくり、運送・管理運営までのシステムを確立すること。もうひとつは、UターンやIターンなど地元に移住してきた優秀な技術者と連携し、組織化したユニオンを形成することです。まずは、人が集まる場所にインキュベーションセンターを置き、業界を問わない起業者と消費者が集まる場所をつくる。社会的にも信用される組織として、適材適所に有能な人材を投入できる。そんなユニオンを実現したい。そのためにも、私個人のキャラクター人気を高めたいと思っています。オフィシャルな立場で物事を伝えるラジオパーソナリティも続けながら、広い視野で判断できるプロデューサーを目指しているところです。

鈴木さんのプライベート&ストレス解消法

たくさんの趣味と、日帰り温泉&孫との時間でリフレッシュ

ハンドランチグライダーはもちろんですが、時々ライブでブルースを歌ったり、今までトライしてきた自動車レース、スキー(指導員)、ゴルフ研修生、フライフィッシングをしたりと、趣味は多いです。仕事と趣味の区別はなく、「これって仕事になるかも」と常に考えていますし、世の中の進む方向次第で、いかようにも可能性はあるかなと思っています。日々のリフレッシュ法は、車で5分の場所にある日帰り温泉に行くこと、孫をお風呂に入れること。でも正直なところ、仕事をすること自体、自分にとってはリフレッシュなんですよね。


【文】NICe編集委員 岡部恵