Vol.64 滝上耕太郎さん

北海道発 光学設計と画像処理を組み合わせた 画像機器の企画から生産までをフォロー

竈屋(へっついや) 滝上研究所 滝上耕太郎 さん
北海道深川市

過剰品質ではなく、あくまでも高品質の画像機器を最適なかたちで提案

事業内容は?

光学設計と画像処理を組み合わせた、画像機器の企画から生産までをフォローしています。また、レンズシミュレーションの開発も行っています。たとえば「レンズを通過すると被写体がどのように見えるのか」というシミュレーション。通常、レンズデータから2D画像を2Dに変換するのが一般的ですが、3Dモデルを2D画像に変換する仕組みをつくりました。この仕組みは、映画、ゲームなどの画像制作エンジンとしても活用できると考えています。また、広角カメラの欠点を補完する多眼カメラなど、最先端カメラ機器から携帯カメラ用レンズ設計まで、レンズが付いているものなら、何でもつくります。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか?あるいは顧客の課題を解決するのか?

レンズの付いた商品の企画は基本的に電気屋(電機メーカーなど)が行います。そして、電気屋はレンズの知識をあまり持たないまま、光学屋(レンズだけをつくる会社)にレンズづくりを依頼し、光学屋は電気屋に言われたことだけやって製品をつくっているのが現状です。それゆえ、どんどんコストがかさみ、過剰品質になっていく。日本企業が行うものづくりのプロセスには、こんなムダが存在しているんですね。光学屋の視点で考えれば、もっといい提案ができるはずなんです。この現状を改善するため、コスト面でも品質面でもバランスの良い、光学画像機器づくりを目指しています。

同業者や競合との差別化ポイントは?

企画のスペックに従って設計するのではなく、最適な構成自体を提案するとともに、新規性のある仕組みづくりを提案。提案が受け入れやすいよう、到達できるステップも提示します。たとえば、ハイビジョンカメラのレンズ。ハイビジョンカメラのレンズは、1125 本の解像度があればOKなんです。それ以上は記録できないものなので。しかし実際は、余裕を見てとか、良いレンズをつくりたいと1600本ぐらい撮れるレンズをつくったりするんです。でも、記録できないんです。今までもDVカメラなどでスルーの絵はキレイなのに、録画して再生した絵は汚かったのですが、あれなんかも過剰品質だったんです。そういうわけで、私は「高品質ではあるけれど、過剰品質ではない製品はこうなる」を提案している点が、差別化のポイントといえますね。

子育てのために北海道へ移住。前職時代に感じた「不」を生かして独立

起業のきっかけや動機は?

富士写真フイルムで、デジカメの基板設計をやっていたのですが、子どもが生まれる段になって、東京で育てるのは嫌だなと思い、休みのたびに訪れていた北海道へ移住。退職を皆に連絡したところ、付き合いのあった基板設計会社の社長さんから「基板設計CADをやるから北海道で仕事しろ」と。ありがたかったです。当時、基板設計CADは数百万円もしましたから。そういうわけで、退職後2年ぐらいはこのCADで食べ、運と貯金が尽きて、さてどうしようとあちこち声をかけていた時に、会社員時代にお付き合いのあったソニーの方と再会し、台湾オフィスの立ち上げで就職。1年後、オフィスも立ち上がったので辞めようとしたら、会社から委託で残れないかと言われ、起業したという経緯です。他人任せな起業ですが(笑)、前職時代に感じた思いはありました。レンズづくりを光学屋に丸投げしているのに、電気屋の自分が書いているスペックが何を意味しているかよく理解していませんでした。そして、できあがったレンズを付けて絵を出してみたらおかしい……。「レンズ屋が悪い」と人のせい。これは我ながらおかしいと思ったわけです。理解不足で頭でっかちのものをつくっていると思ったので、ソニーさんがレンズからカメラまでを一貫生産するプロジェクトに参加させてもらった時に、光学と画像処理の区分けを最適にするように努めました。その業務が仕事になって今に至っています。

これまであったピンチは? それをどうリカバリーした?

今の不況で新規製品開発が非常に少ない。まさに今がピンチ! もう少し顧客数を増やして間口を広げておけばよかったです。難破船でたどり着いた小島の富を使い果たしてしまった状況でしょうか? というわけで、リカバリーはまだしきれていません。仕様を投げてレンズを部品として買うのではなく、「システム全体から見て最適な設計にするには、どうしたら良いか」を考えながら製品をつくりませんか? と啓蒙して歩いていますが、今すぐにでもばったり倒れそう(苦笑)。

映画でも流行の3Dの世界を、もっと進化させて本物の3Dをつくりたい!

いま、一番課題だと感じる事柄は?

仕事を見つけて稼ぐことです。昨年は開発の仕事がなかったので、趣味のハウスビルドの特技を生かして、「ストローベイルハウス」という家づくりを手伝って生計を立てていました。ストローベイルハウスは断熱材に稲藁や麦わら、牧草のブロックを使った「三匹の子豚」出てくるような家で、自然環境的には良いと思いますし、断熱も良いのでエネルギー消費も少ない。10年以上前に自分でログハウスをつくっていて、自分の家を自分でつくるのはいいことだと思い、手伝いました。家づくりで生計を立てるのもいいですが、本業でもう少し稼ぎたい(笑)。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

3つあります。ひとつ目は「光学機器と画像処理の適切な力配分で、安くて良い機器をつくる」。たとえば、Googleのストリートカメラは多眼式ですが、1台で代替え可能です。魚眼レンズは270°まで実現できますので、魚眼の高精度画像を展開してやれば歪んでいない2D表示ができます。光は来た道を戻ることができるので、270°魚眼で撮影した画像を球体に投影してやると、270°広角の歪みのない画像が再現可能。球体スクリーンがあれば、360°画像みたいなものができます。ふたつ目は「空間転送」。流行りつつある3Dですが、今の3Dは2Dが飛び出して立体に見えるだけで、3Dの再現ではありません。超広角レンズで撮った写真は端が歪んで見えますが、あれは物理現象で3Dを2Dに投影すると必ず起こるもの。望遠レンズでも起こっていますが、軽微なので気がつかないだけ。これが写真表現につながっています。つまり写真は見た目とは違うので「写真表現」という言葉があるわけですね。現状の2Dが飛び出して3Dに見えるのではなく、空間転送といいますか、光学機器を使って3Dを3Dに再現したいですね。そして、3つ目は「レンズシミュレーション」。光学レンズのシミュレーションですが、応用が利きます。3DCGを2Dに展開する場合、仮想レンズを通過させて仮想センサーから出力してやると、先に言った写真表現が自動的に追加されます。広角では周辺が歪み、望遠ではバックがぼやけ、被写体が移動すればブレる。テクスチャーでごまかす必要がなくなり、実写と組み合わせる場合も、実写から必要な3Dデータを取り出して3DCGに写し込み、物理シミュレーションしてやれば大波にのまれたり、壁を突き破ったりといったことができる。こんな画像エンジンは、いかが?

滝上さんのプライベート&ストレス解消法

ハウスビルトは仕事にも発展! 行政への提案も積極的に

ストレスはないというと嘘になりますが、ある程度はあったほうが良いという考え方をしています。気分転換は水泳とスキー、そしてハウスビルドです。ハウスビルドは、北海道に来てから自宅、店舗、車庫2棟、温室、焼き肉ハウスとつくってきました。つくるたびに不動産になるので税金かかるのは痛いですが、家づくりは面白いですね。去年はこのハウスビルドが縁で、1年食べられたので感謝です。また、現在、ゴミ焼却場ではなく、小型焼却炉の多数設置の提案を行政にしています。人口減の現状やメンテナンス、コストを考えると、大型ゴミ焼却場は合っていないと考えてのこと。しっかりした行政評価システムも導入して、行政の運営をより良いものにしていきたいという思いがあります。


【文】NICe編集委員 石田恵海