Vol.65 野田哲也さん

愛知県発 様々な素材にプリント可能な、 “スクリーン印刷”に特化した印刷会社

太美工芸株式会社 野田哲也 さん
愛知県名古屋市

劣化しないスクリーン印刷。ステッカー制作や製品への印刷が得意分野

事業内容は?

当社は、スクリーン印刷を専門に行う印刷会社です。スクリーン印刷とは、正式にはシルクスクリーン印刷と呼ばれるものですが、孔版印刷の一種。一般的な印刷、たとえば紙への印刷は、版にインクを付けて印刷しますが、孔版印刷は版そのものに穴が開いており、その穴からインクを通して対象物に刷りつける印刷技法です。なぜシルクスクリーンというか? それは、もともとスクリーンの素材として絹が使われていたからです。現在は絹ではなく、ナイロン、テトロンなど化学繊維を使います。また、当社では、スクリーン印刷の中でも、特にステッカー印刷に注力しており、入稿から製版・印刷・加工までを社内一貫製作。大量印刷も、1点もののステッカー制作も請け負っています。さらに、ボールペンやクリアファイルといった事務用品に社名を入れたノベルティグッズなど、紙以外の製品への印刷も。スクリーン印刷のいいところは、どんな素材にも印刷可能なところです。太美工芸は父が創業した会社ですが、私自身は大学卒業後に同業他社に6年間勤めて修業。2004年4月に当社に入社して、現在は専務取締役を務めています。

その事業はどのように市場ニーズを満たすのか? あるいは顧客の課題を解決するのか?

スクリーン印刷には、色あせしにくいという特長があります。特にステッカーは、タクシーや営業車など、風雨にさらされるものに貼られることも多いので、高い耐久性が求められます。また、屋外での掲示に使うステッカーも、当社のスクリーン印刷なら日焼けして色が落ちるということもなく、お客様に喜んでいただいています。年末になると既成のカレンダーへの社名入れ印刷、あるいは、ノベルティグッズとして事務用品への社名入れを多く発注いただきます。すでにでき上がっている製品への印刷は、できないものだと思われている方も多いので、「えっ、そんなことができるんですか! では、ぜひ」と。たとえば、100円ショップで売られているクリアファイルでも、必要な枚数だけご用意いただければ、社名入れだけでなく、“○○周年記念”など、メモリアルグッズとしての印刷のご要望にもお応えできます。また、当社では名刺印刷や封筒印刷などは行っておりませんが、その分野の印刷会社と連携して、それぞれの分野でお客様のご要望に応じられるような態勢を整えています。たとえば、名刺印刷の専門会社が、顧客企業から、ボールペンなどへの印刷を頼まれた場合は当社で引き受けると。逆に、当社に名刺制作などを依頼されたら、その分野の印刷会社をご紹介しています。得意分野で、持ちつ持たれつというんでしょうか。連携プレーのようなものですね。お客様は、印刷といっても専門的なことはわかりませんし、どこに頼んでいいのかもわかりにくいもの。営業支援ツールとして、サンプルを添付した“スクリーン印刷丸わかりブック”を作成しましたが、お客様にも、「これはわかりやすい!」と好評です。

継承者として、まだまだ修行中。進化と発展、会社の存続も二代目の使命

事業継承のきっかけや動機は?

住職接近とはいいますが、自宅そのものが印刷会社で、父が仕事をしている姿を見て育ちましたので、子どもの頃から、「やがて、家業を継ぐのは自分」と。大学では化学を専攻しました。白衣を着て実験する姿に憧れていたという理由だけで(笑)。卒業後は、神奈川県の印刷会社に就職。当社と同じく、スクリーン印刷、ステッカー印刷を専門分野にしている会社です。もちろん、それは修業のため。父の勧めもありましたし、いきなり家業に入るより、他社での経験を積んだほうが自分にとってもためになると自らの意思も固めて就職しました。その会社では、最初、ルート営業を担当。後に、新規顧客開拓のための営業に専念するようになりました。営業全般をとことん経験できたことで、お客様に対しては、信頼や安心感をどうすれば提供できるかを学びました。また、現場サイドにお客様の要望を伝えるのも営業の役割ですから、お客様と現場の声を、それぞれ吸い上げて、最適な提案をするバランス感覚も身につけられたと感じています。二代目とか、事業継承者などと言われると、今もまだ戸惑いがありますね。まだまだ“見習い中”と思っているのですが、気付いたことをどんどん仕事に取り入れて、常に進化・発展、そして存続する会社にしていくのも二代目の使命だと思って行動しています。

事業継承を目指すうえでの醍醐味は?

新規顧客開拓にしても、新設備の導入にしても、自分の行動が、すべて直接、会社に影響をおよぼすことです。勤務時代は、大勢いる社員のひとりでしたが、今は、私が何をするか、逆に、何をしないかで会社経営が大きく左右されます。責任重大ですが、大きなチャレンジが最高に面白い。スクリーン印刷も、版づくりはデジタルの時代。新しい情報も次々と出てきます。素早い情報収集や、今だから必要な機材の導入など、そこは、若い私の専門分野として力を注いでいます。印刷業界を対象にしたプリンターやソフトなどのメーカーの展示会にも足しげく通い、必要だと判断したものは素早く導入しています。

スクリーン印刷は、職人の技術が命。それを、必ず未来に引き継いでいく!

現在の経営状況を自己評価すると?

まだまだこれから、と思っています。製品へのスクリーン印刷の要望の広がりをリサーチしたり、あるいは、プリンターなど、新しい機材の導入を決断することも大事です。とはいえ、日々の業務に没頭しているうちに時間はどんどん過ぎてしまい、自分は経営そのものが何もできていないと、複雑な気持ちになることも。現在のような、出口の見えない不況下では、自社だけが良くなる方法を考えて行動していても、ますます出口が見つからないという状況になってしまうのではないでしょうか。当社で言えば、上顧客だけに手厚くするのではなく、たまたま当社を知って小口の発注をしてくださったようなお客様がさらに喜ぶサービスは何か、それを追求することも欠かせません。お客様の満足度を高めることで、結果として社会も良くなるような。そんな考えを常に頭において、実際の行動に移せる経営者であり続けたいですね。

事業を継続発展させることよって実現したい夢は?

夢というよりは、現実的な問題なんですが……。それは、職人さんが持っている技術を、いかに未来に引き継ぐかということです。スクリーン印刷の仕上がりは、職人さんの技術にかかっています。ほとんどの工程が手作業ですので、決して一朝一夕で身に付く技術ではありませんし、誰にでもできるものでもありません。今後、職人希望の若い方に入社していただくとしても、その技術は、少なくとも数年間にわたる経験がないと引き継げない。ですから、強い意志と、技術力向上への努力を惜しまない方に、当社がいかに魅力的に映るか。そのような会社にしていくのも二代目の私の役割のひとつ。今すぐに若いスタッフを採用する計画はないですが、将来の問題だからと放置しておくのではなく、先々のことまで念頭に入れた経営を重要視したいです。規模は小さくても末永く続く会社。その重責を担うのも私自身ですからね。

野田さんのプライベート&ストレス解消法

気分転換の小旅行で、「日本の百名城」巡り

休みの日はドライブや小旅行に出かけることで気分転換しています。中でも、ここ何年かはまっているのが、全国のお城めぐり。3年前だったでしょうか、たまたま岡山城を訪れた時に、「日本の百名城」のひとつだということを知ったんです。以後、旅行の計画を立てる時は、「この近くにあるお城は? どこか行けそうなところは?」と意識するようになってしまいました。百名城に行くと、そのお城のスタンプがあって、スタンプラリーも行われています。スタンプラリーと言われちゃうと、ついつい集めたくなるじゃないですか! ね(笑)。


【文】NICe編集委員 田村康子