Vol.7 大西幸子さん

海外発 蘇州の魅力を再発掘・発信する ユニバーサル旅行コンシェルジュ

株式会社蘇州康輝(かんき)国際旅行社 大西幸子 さん
中国蘇州市

安心・安全な、発見の旅、バリアフリーの旅を提案

事業内容は?

明・清の時代に中国文化をリードした水都・蘇州の魅力を現地で再発掘し、広く伝えることをモットーにした旅行コンシェルジュです。主には日本人旅行者や中国在住の日本人を対象とし、年齢や障害の有無を問わず、レクチャーツアー、各種文化イベントなど、現地を知り、感じていただける旅の企画・手配をしています。事業名は「蘇州有情(そしゅうゆうじょう)」と名づけました。「有情」とは「自然万物すべてに魂、神が宿っている」というような意味です。蘇州は自然と融合することを最高の境地とした文人の街でもありますが、そんな蘇州に触れることで、心を揺さぶる何かに出会う、自分とは何かそっと振り返る。そういった瞬間を持っていただくことを目指しています。

その事業はどのような顧客・市場を狙っている?

「個人旅行がしたいが、中国語ができないので現地情報の入手がままならず、安全性に心配がある」「中国文化・歴史・習俗などに関心があるので、現地をそのまま楽しみたい」「現地の人たちと一歩踏み込んだコミュニケーションがしたい」など、一味違った中国旅行を希望される方々を支援しています。主な顧客層としては、「蘇州・上海周辺の日系企業など駐在員と家族」「日本からの個人旅行者」「体に障害を持つ方々およびそのグループ」の3つですね。

同業者や競合との差別化ポイントは?

相談の時点から、現地情報を知り尽くした日本人スタッフ、日本語ができるスタッフが詳細な説明をし、安心いただけること。さらに、コース内容がバラエティに富んでいること。そして、ガイドのきめ細やかな対応です。海外旅行に慣れたお客さまからも「濃かったよー」という感想をいただきますね(笑)。街の細かいポイントまで把握していますので、日本人のお客さまが好まれそうな場所を希望に合わせて臨機応変に提案させていただいています。

観光地巡りで終わらない旅のあり方や現地の魅力を、多メディアで啓蒙

起業のきっかけや動機は?

国際協力機構JICA(ジャイカ)で派遣された中国で、各地の状況を知れば知るほど中国特有の混沌がかなり気に入ってしまって(笑)。中でも、昔ながらの中国の良質な文化と風情を一番感じさせてくれたのが蘇州。そこで、何かしたいと思うようになりました。先に蘇州でクラフトづくりを手がけていたのですが、文化局や書画院などの友人らと蘇州の旅について討論したり、旅の提案をしていたことがきっかけとなりました。そして、ちょうど日本人の駐在が増えてきた時期と重なり、とんとん拍子に日本人をターゲットとした旅行社を立ち上げることとなったのです。

軌道に乗せるための創意工夫や改善は?

日本人の中には、「ガイドブックやテレビで紹介されている場所だけが観光地」ととらえている方が非常に多いですね。また、中国側も超定番観光地さえ案内すれば日本人は喜ぶと思っている。でも、蘇州旧市街は、水都の情趣もさることながら、豊かな文化がキーポイント! その奥深さに少し触れるだけでも、旅の面白さは倍増します。京都のように積極的に観光客にすべてが開放されているわけではありませんが、それでももっと蘇州の魅力に会える蘇州歩きはあるはずだと。現地メデイアやガイドブック、Webサイトでの紹介、レクチャーツアーなどの実施をとおして啓蒙活動に努めていきました。試行錯誤を繰り返してきましたが、ようやく手ごたえが出てきて、当社のスタッフも日本人が好むコース選択のコツがわかってきたところです。

異業種との「つながり力」アップで、目指すはさらに充実度の高い旅の提案!

現在の経営状況を評価すると?

これまでの努力と奮闘が、やっと現地に受けいれられ始めたと思っています。また、一味違う旅を好むお客さま、当社のターゲットとしている方が増えてきた感もありますね。蘇州には前職時代の小さな人脈があるのみでしたから、かなりの時間を要しましたが、今ようやく基礎を固めることができ、第一段階をクリアできたというところでしょうか。

今後、実現したい経営上の目標は?

まずは独自の顧客開拓に注力し、日本の旅行会社の下請け仕事から脱却することが当面の課題です。また、マーケテイングやスタッフの育成面での課題がまだまだありますが、今後2年をかけて「蘇州有情」のさらなる業務拡大と充実を図り、経営の安定化を実現したいですね。

さらに伸ばしたいと思う強みは?

やはり、当社のキーワードである「良質のカルチャー」「現地の魅力発掘」「ユニバーサル」を大切にし、発展させていきたいですね。最近、かつて蘇州にあった上質な文化や習俗にモダンさを加えビジネス化に取り組む会社や、書画、刺繍、陶芸、蘇州式家具などの工芸・アート関係者から、カルチャーツアーやイベント企画でよく声をかけていただくようになりました。また、バリアフリー旅行を行う際は、リハビリ分野の先生方や医療救急関連の企業が当社をご支持くださったりと、新たなつながりが広がり始めています。そういった方々との連携を強めながら、蘇州から江南地区、さらに他の地区へと、当社ならではのユニークな旅の企画、バリアフリーツアーの受け入れ体制を拡充していきたいと考えています。

大西さんのプライベート&ストレス解消法

太極拳に瞑想、蘇州人との語りと、公私ともにチャイナ漬け!

プライベートでも、中国の歴史文化、芸術、習俗、哲学、骨董などチャイナものにハマっています。中国の古いものは多面的で奥が深く、一筋縄ではいかない。日本で過去に知り得た知識でも、この広い大陸で中国人によって咀嚼して語られると「悟」に近しい感覚で理解できることがよくあります。近未来の目標としては蘇州文化関連の本を出すことです。また、ウンチクの塊のような蘇州人たちの話を聞いていると、好奇心が刺激され、高揚感も高まります。そんな時間が私のビタミン剤! あとは太極拳と瞑想。何も考えず、ただ体を空間の中で動かす感覚、心のざわめきを鎮める時間は、心と体のバランスを取る安定剤かな。


【文】NICe編集委員 石田恵海