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第2回 EAST学縁(現NICe関東) 相談会レポート




ふるさと・十和田を元気にしたい。

新幹線開通と基金訓練を生かして

何ができる? どう発展させる?



 

2011年2月19日(土)、EAST学縁(現NICe関東)主催の第2回相談会が東京駒込で開催され、東京都を中心に、埼玉県、神奈川県、大阪府から12名が参加した。


相談者/株式会社 i i 代表取締役・上久保瑠美子氏

・相談者に立候補した背景
生まれ育った青森県十和田市を離れ、東京に暮らして十数年。当時は気付かなかったが、離れたからこそふるさとの魅力がわかるようになり、自然と地域活性化のためにサポートするようになっていた。だが、年々街は疲弊・衰退していくばかりで、自分に何かできないかとの思いがますます募っている。2010年12月4日に東京―新青森間の東北新幹線が全線開通したが、地元では生かしきれていない。このチャンスを逃さないためにも、地域活性化を推進したい。「計画を述べる前にまずは十和田の現状を知って欲しい」と前置きし、以下の課題・問題点を挙げた。



▲ふるさと十和田の活性化について相談した上久保瑠美子氏

●問題点1/青森に対する一般的なイメージとの相違
青森と言えば、りんご、ねぶた祭りをイメージする人が多い。しかし、それらは津軽地方のものであり、十和田がある南部地方からすれば違和感がある。青森県は、北部の津軽地方と、十和田のある南部地方とではまったく文化が異なり、同県でありながらも県境があるかのような関係だ。青森の一般的なイメージが津軽地方に偏りがちで、南部地方のイメージは弱い。東北新幹線全線開通を生かすためにも南部の情報発信を強化し、十和田の知名度をUPさせたい。

●問題点2/失業率が高く、ネット普及率は最下位
十和田の商店街の1/3はシャッター通りと化し、失業率も高く、そのため県外へ出てしまう若者が多い。ネット普及率は47都道府県の中で青森県が最下位。地元住民の生活基盤底上げのためにも、Webによる地域活性化を模索したい。

●問題点3/地元の人々が、地域資源に気付いていない
・十和田湖・奥入瀬渓流
十和田湖・奥入瀬渓流はまさに地元。首都圏ではよく知られた観光名所だが、地元の人は、知名度が高いことを知らない。そのため配布する観光マップの情報量も少なく、バスの路線図もない。観光客に親切な情報提供がされているとは言えない。
・日本三大開拓地のひとつ
十和田はその昔、三本木平(さんぼんぎだいら)と呼ばれた大平原だった。江戸時代に、この広大な土地の開拓に着手したのが、『武士道』で有名な新渡戸稲造(にとべいなぞう)の祖父・新渡戸伝(つとう)。その偉業を讃えた『新渡戸記念館』が十和田の中心地にあり、祭事も盛ん。また、馬文化も発展し、歴史的資源も数多く残っている。市街地は格子状に区画され、開拓当時いかに画期的な都市計画がなされたかがわかる。官庁街通りは、「日本の道百選」にも選ばれ、その通りには十和田市現代美術館もある。しかし、PR不足のためか、十和田湖・奥入瀬渓流観光の通過点に甘んじている。
・にんにく、長芋の生産量で日本一
青森県の農業生産品の代名詞といえばりんごだが、それは津軽地方のもの。南部で生産が盛んなにんにく、長芋も生産量では日本一を誇っている。有名なにんにく加工品メーカーのCMでは、上久保氏の幼なじみの親も映っていたとか。しかし、地元の食文化に誇りを持っていない人が多く、また、B級グルメで知名度を上げた「バラ焼き」も、地元での盛り上がりはいまひとつ。


▲青森県の地図を描き、位置関係を説明。青森県は、下北地方、津軽地方、南部地方で文化圏が異なり、
南部地方とは、八戸市、十和田市、三沢市、三戸郡、上北郡を指す


▲参加者の長谷川氏がお土産に持参してくれた青森名菓。
それが津軽地方のものであることで、会がさらに盛り上がった


●問題点を解決するために、上久保氏の取り組み予定
・厚生労働省の緊急人材育成・就職支援基金事業(通称・基金訓練)を2011年4月から十和田で開始し、ふるさとを元気にする人材を育てる。

まずは農業や建設業、小売店の会計以外にも、様々な職種が世の中にあることを知ってほしい。
地元住民に、誇れるはずの地元資源、その価値を気付いてもらい、地元にもビジネスチャンスがあると認識して、取り組んでほしい。

・新幹線開通のチャンスを生かしてPRしたい。

十和田出身の東京在住者による同郷の会「東京十和田会」には700〜800人の会員がおり、自身はそこで理事を務めている。また、2009年8月に「NICe in 十和田」の実行委員長を務め、「十和田市で開催されるビジネス系のセミナーで、50名以上が集まるのは稀なこと」との常識を覆し、県内外から総勢62名をひとりで集客。その時に築いた地元の人脈、「東京十和田会」の首都圏の人脈も併せて生かしたい。

 
▲4月に十和田で開講する基金訓練の案内チラシ第一稿を見ながら。
チラシはNICeメンバー北出吉和氏が作成



●相談内容
・南部地方、特に十和田のPRアイデア
・基金訓練後の活用アイデア

■座談会



●現状についての質疑
・ネット普及率について。インフラがないことが問題か、あるいは整備しても利用されないことが問題なのか。→ネットへの抵抗感がある。それでもPCは学ぼうという人が少なくはない。が現状ではソフトを学ぶだけで、ネット活用までの意識は低い。

・失業率が高いということは自殺も多いのか。→十和田湖の入水自殺は残念ながら有名。

・地元にリゾートホテルはあるのか。→ないが、老舗の温泉宿はある

・津軽地方と組んで共同で活性化活動するのはどうか。→個人的には希望するが、実際は地方間の長年の軋轢があるので難しい。

・八戸も南部地方なら、海の幸も豊富では。マグロはどうか。→南部は山の幸も海の幸も豊富。マグロの大間は津軽地方(笑)。東京からの客人に、実家の裏で採れた野菜を出したり、八戸の魚市場を案内すると大喜びされるが、親世代は「そんなものを客人に!」と驚く。地元の飲食店へ案内するのにどこがいいかと親に聞くと、全国どこにでもあるファミリーレストランを勧める。地元の食文化への誇りが低く、首都圏からの観光客の価値観が理解されていない。

・南部の方言は、若い世代でも使われるのか。→テレビの普及などで若い世代はあまり方言を使えない。



●南部地方、特に十和田のPRと観光アイデア、地元民の自信UPについての意見


・最近、あえて方言を生かした芸能人も増えている。方言を生かす方向性は十分にあるのでは。若い人に教えることで年配者の自信にもつながる。

・方言カルタも人気。十和田でつくる。売れれば自信につながる。

・「聞き上手倶楽部 」は人気が高い。年配者に限らず、癒しを求めて若い人も電話する聞く。南部地方の温かな方言で話を聞いてくれたら、利用者に喜ばれるし、喜ばれたら自信になるのでは。

・日本一とはいえ、にんにくも長芋も、どこか地味。ただ、不便や地味なことが好きな人たちもいるので、あえて「地味ですが」というPRはウケる。

・若者の観光客に老夫婦宅でホームステイしてもらい、昼間は農作業を手伝ってもらうなどはどうか。不便体験したい派にはウケる。

・秋田のお茶受けは菓子ではなく漬け物が主流。漬け物教室の見学ツアーも人気だ。十和田でも可能では。

・漬け物の全国大会を開催するなど、イベントで町おこしできるのでは。

・地域にしかないテクニックとして、魚のさばき方教室もいい。八戸と協力しては。

・ロケ地として利用されるが、十和田に映画館がないというのが逆にユニーク。あえてそれを生かして、公民館での手づくり的な自主制作フェスティバルを開催しては。

・自分主役のサスペンスを撮るイベントなどもおもしろい。

・自殺者を救う取り組みはマスコミの注目度も高い。あえて自殺をテーマに十和田湖を取り上げてもらう。

・パワースポット巡りが十分にできそうなので、プロジェクトをつくってPRする。

・首都圏でも家庭菜園は多いが、農地法などの規制もあり、需要に応えきれていない。農家にとってはその貸し出し管理作業が大変と聞く。PCを使える若い世代の人が、農家の代行で管理すれば喜ばれるのでは。

・団塊世代はセカンドライフに田舎暮らしを求めているのでは。

・年配者は温かい地方を望むので、セカンドライフは厳しいのでは。冬は南国で、夏は十和田で、というような交換制度で、若い世代に冬の期間住んでもらえるような取り組みが望ましい。

・若い世代の中には、故郷にこだわらず、自分らが暮らしていく土地を選ぶ人も増えている。誰もが大都市を選ぶ時代ではなくなっている。都会を嫌う若者のIターンを増やす。そのためにも事業を起こすことが活性化の鍵と思う。

・三沢の米軍を市場にしたビジネスも考えられるのでは。

・広大な土地があるようなので、思い切りサバイバルゲームができるとか。八甲田サバイバルツアーはどうか。

・山ガールに続いて最近は釣りガールもブーム。奥入瀬渓流は生かせる。

・新幹線にちなんだ商品開発。300km/hなのだから、カロリーやスピード感で300を示す。日本酒カクテルなどはどうか。

・「バラ焼き」よりも、「スタミナ源たれ」のほうが地元の家庭では必ず常備されているほど愛用されている。万能調味料であり、ノンオイルで野菜もたっぷり。地元の各家庭ではオリジナルのレシピで「源たれ」をつくっている。

・健康ブームにも十分に乗れる商品だと思う。食べるラー油のように、食べるタレのような売り出し方もできるし、家庭ごとに異なるのは興味深い。我が家の源たれ、として映像配信したり、活用レシピをつくったりできるのでは。

  


●ネット環境と関連ビジネスについての意見

・インフラが整備されていない=整備そのものが事業になる。

・働く場があれば、ネットに目覚めるきっかけになる。

・クラウドが普及すれば抵抗感も緩和される。30代で365日放映し安否確認している活動がすでにあるが、お年寄りにも活用できるし、十和田も同様。

・大企業がアジア各国にネット・電話サービス拠点を置いているが、リスクヘッジを考えれば、南北の2地域に置くのが望ましい。その北の拠点として十和田をアピールしてはどうか。

・ネットが通じない=PCレスな休暇を楽しめる土地としての観光PRができる。視力回復ツアーなど。


●基金訓練についての質疑


・受講者ターゲットは。→農家に嫁いだ県外からの女性。

・受講内容は。→飲食業、経理、サービス業、商品開発、ネット関係の内容で、現時点では受講後の就職のためというよりも起業というイメージ。

・講師陣は。→講師8名、上久保氏以外は全員が県内在住。


●基金訓練の活用アイデア、意見


・受講者にとって、生活の底上げにつながる、副収入につながるようなイメージの受講内容になっているか。

・飲食店での起業をゴールにすると、開業資金もそれなりに必要。少ない資金で事業化できる職種の講師を入れたほうがいいのでは。

・山形で、お袋の味の漬け物を販売し、それがもとで教室の開催からオリジナル商品開発まで発展させた女性起業家がいる(参考 http://tsukemono.info/)。農家のお嫁さんが受講者なら参考になるし、十和田でも加工品での事業化はできるのではないか。

・加工の手法を年配者から聞き取り、ネットで配信する。同じく漬け物に限らず、地元年配者の知恵と若い世代の行動力を生かして情報配信しては。

・加工品だと在庫を抱えることになり、負担がかかる可能性もあるが、洋裁や和裁のような趣味、特技を生かして、お年寄りの知恵も入れて、受注生産というスタイルの事業も考えられるのでは。大分で、趣味を生かして型紙を提供し、YouTube配信で国内外からも指示させている女性起業家がいる(参考http://yousai.net/)。

・県外から嫁いだ人たちが結婚前のキャリア、その分野を生かす方法もあると思う。十和田ではどうせ生かせない、とあきらめているとしたら、もったいない。

・スキルアップよりも、受講者が自分の魅力や資源、経験に改めて気付くような、NICeのように他者からの目で自身の魅力や特技を発見できるような講義があったらいいのでは。

・受講者同士がつながるきっかけになるだけでも意義があると思う。

・受講生が互いの力を組み合わせてチームにして、事業化を目指してくれたら素晴らしいし、NICeでも応援したい。

・できれば何かひとつ、5カ月間の受講成果として試作品をつくり、地域でも認められるような形にしたほうがいい。

・受講後に、各自のサイトを制作するとか。

・地域のしがらみを越えた女子パワーで、地元の男性陣が闘志を燃やすような展開が望ましい。





▲途中で休憩タイムをはさんだが、その間も意見交換は続き、さらに懇親会でも一向にやむ気配がなかった。
“ゆるくて熱い”相談会がエンドレスで繰り広げられた


▲相談会を終えて集合写真のみ急遽、岡本氏が撮影してくれた


▲青森県内でロングセラーの「スタミナ源たれ」が会場の店内でも販売。
もちろん多くの参加者が購入した


■第2回 幹事・相澤松吾氏から一言

「第2回目ということもあり、学習能力の高さを感じました。参加者みんながフラットに考えながら意見を言える。NICeイズムに近い活動だと思います。今後は、相談会などで話し合ったことをリサイクルする仕組みが必要かと思います。持ち帰り、考えるポテンシャルはあるので、リピートできるのではないでしょうか。次回の第3回は、自分が提案者として登壇します。キャラクタービジネスについての理解を深め、一緒に考えるような勉強会形式にしたいと思っています」

■第2回 相談者・上久保瑠美子氏の感想
「十和田の出身の自分が十和田のことを考えるのは当たり前ですが、何も接点がないみなさんがこれだけ考えてくれること、それがまずスゴい。NICeらしいというか、実行できる、できないと考えてしまう前に、今日のような多くのアイデア、ヒントを得られたことに感謝しています。この自由な発想をどう料理するか自分次第なので、心して取り組もうと思います。EASTは、「ひとりで悩まない、みんなで考えよう!」を合い言葉に、気軽に、でも真剣に相談会や勉強会を開いて互いに学び合おうという趣旨で始まりました。気軽に参加、開催できる会をみんなでつくっていくことで、参加者全員の経験やスキルをアウトプットし、互いに学び合うことを目的にしています。今日はまさにそういう会となり、その相談者として立候補したことは本当に良かったと感じています。次回以降も、“ゆるくて熱い”EASTで、楽しみながら学び合いたいと思います」


撮影/岡本 寛
取材・文、撮影/岡部 恵

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