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NICe増田代表理事が送る、新たなビジネスチャンス発見法と実現へのヒント。11日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
第36回 ムカチのカチカ



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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」

     第36回 ムカチのカチカ
 
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「ザコバコ」……。

漁獲したはいいが、サイズが小さかったり旬を過ぎていたり、
あるいは、そもそも商品としては出回らない魚種だったり……。

そんな「1円にもならない」魚たちをまとめて詰め込んだのがザコバコ、
つまり「雑魚箱」。

およそ11分の短編映画『ムカチのカチカ』の開始数分、
主人公のビジネスマン甲斐昂成(駿河太郎)は、たまたま訪ねた魚市場で、
そのザコバコの中身が捨てられかかっているのを見かけ、
あわてて漁師(でんでん)に頼み、まるごと譲ってもらう。

巨大企業組織の中で消耗を続ける自分と、
「価値がない」と捨てられかかった雑魚たちとがオーバーラップしたのだ。

自宅に戻り、雑魚の中の一匹を丹念に調理して食す甲斐。
映像を見る限り、その一匹はカゴカキダイだ。

高めの体高と強烈なストライプ模様のせいで、
一般の人が目にすれば、いかにも熱帯魚と勘違いしそうな魚。
それこそ沖縄の海でよく見かけるチョウチョウウオにそっくり。

「食べられるのか?」と首を捻りたくなる見た目だが、
実際は煮ても焼いても美味いし、もちろん刺身でもいける。
映画の主人公は塩焼きで食べていた。
演技だとは思うが、身を口に運んだ瞬間、
思わず表情がほころんでしまうシーンが実にいい。

映画『ムカチのカチカ』は、
スモールビジネスを対象に、クラウド会計サービスなどを提供するfreeeが、
2020年11月に制作した実話にもとづく作品。

これまで、映文連アワード2021の準グランプリをはじめ、
国内外の様々な映画賞を受賞している。作品は以下で視聴できる。
https://youtu.be/Or8fS77PyFQ

主人公は、この出来事を契機に起業を目指す。
実現したのは、雑魚をメインにした魚料理の店。


映画のモデルとなった甲斐昂成さんが営む「カイズキッチン」は、
神奈川県の二宮町に実在する。
二宮は小田原と大磯に挟まれたのどかな町で、
店から少し歩けば太平洋の大海原が広がっている。

1カ月ほど前だったか、神奈川県に住む友人が、
家族連れで「カイズキッチン」に出かけ昼食を取ったと言って、
その時にオーダーした天丼の写真を見せてくれた。

ネタは魚ばかりで6種類ほどだったと思うが、
はてさて、見たこともない魚ばかり。
それでも「本当に美味しかった」と友人の弁。
それはそうだろう。
目の前の相模湾で獲れたばかりの魚たちだ。美味しいに決まっている。


無価値な物は、もともと無価値だったわけではない。
というか、価値のない物体など、存在しないと言ってもいいだろう。

人間のすごさは、どんなものでも活用し、利用し、
あるいはそれらを加工し、合体し、分解して、
暮らしや仕事をより便利に、より豊かにしていくところにあるし、
そのための努力を寸分も惜しまないところにある。

つまり人間の手にかかれば、万物すべてに価値が宿る。

ただ、効率を重視する市場経済の広がりによって、
その流れから取り残されたものたちが「無価値」の烙印を押されてしまった。

さて、無価値に思えるものを価値化して成功した例でいうと、
多くの人の頭に浮かぶのは、徳島県の“葉っぱビジネス”かもしれない。
“葉っぱビジネス”は、和食を美しく彩るための「つまもの」、
つまり、季節の葉や花、山菜などを採取・栽培して出荷する事業だ。

あるいは無価値どころか、町中を泥だらけにしてしまうやっかい者の、
鹿児島県の桜島の火山灰を建築材料化した事例や、
漁網を食い破るヒトデを野菜栽培用の肥料にした北海道の事例、
出荷後に大量に出るホタテ貝の貝殻から洗剤を作り出した青森県の事例など、
調べれば、こうした素晴らしい取り組みが全国各地で行われている。

これら、ムカチのカチカ成功事例に共通することは何か?
いずれのケースも、最終商品になった段階で、
もともと世の中にあったニーズに応えるものになっている、ということだ。

カゴカキダイは知らなくても、美味しい天丼を口にしたい人はいる。
山ぶどうの葉は知らなくても、綺麗なつまものを使いたい料理人もいる。
火山灰やヒトデや貝殻など、何の役にも立たないと思っている人でも、
安くて良質の建築材料や肥料や洗剤を欲しいと思っている。

映画『ムカチのカチカ』の後半のシーンに、
拾った石にペイントをしたものを、ひとつ50円で売る少年が登場する。
その心意気や、実によしである。
だが、大人は、そのレベルでとどまってはいけない。

無価値を価値化するためには、
換言すれば、認知のない商品で対価を得ようとするのなら、
その商品が、顧客ニーズを完璧に捉えていることが必須である。
その点をしっかり念頭に置いておこう。


余談。
実は私、もし今の仕事をやめたとしたら、
普通の鮮魚店や料理店が扱わないような、
「無名なせいで、美味しいのに評価が低い魚たち」を扱う店を始めたい、
ずっとそう思ってきた。なので甲斐さんの挑戦に拍手喝采である。

もっとも私が代表を務めているNICeも、
「無名なせいで、才能があるのに評価が低い起業家たち」を、
どうにかして世に送り出そうとしているので、
通底する価値観自体は何も変わらないのかもしれない。

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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.151
(2021.10.11配信)より抜粋して転載しました。
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