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「NICe八代(熊本)交流会」レポート

「NICe八代(熊本)交流会」

 

2010年4月17日(土)、新生NICeのリアルコミュニケーションイベントとして第1回目となる「NICe八代(熊本)交流会」が、熊本県八代市で開催された。

 

当日のプログラムは3部構成。1部では八代市のい草農家・岡初義氏の自宅兼作業場での「い草織り実演体験」、第2部は、い草農家であり地域特産物マイスターの田淵稔氏の特別講演と、NICeチーフプロデューサー増田紀彦氏の基調講演。3部は意見交換を主とした懇親会と充実のプログラム。なお2部の講演会の模様は、リアルタイムで映像配信された。

 


第1部「い草織り実演体験」の様子

 

 

その「NICe八代(熊本)交流会」を終え、NICeチーフプロデューサー増田紀彦による「雑感」が届いた。

 

「NICe八代 (熊本)交流会」雑感



NICeチーフプロデューサー 増田紀彦

 

「みんなはこれが何だかわかる? わからないよね。匂いを嗅いでみたらわかるよ」と私。その謎の物体を手に、鼻を近づける私の教え子たち。
「わかった。抹茶のもとだ」「違うよ、畳の匂いだよ」と、大騒ぎ。

 

答え。私がセミナー受講生たちに手渡したのはイグサの束である。葉もな く花もなく、まっすぐに伸びた茎だけの異様な植物。この緑鮮やかな茎の丈を揃え、織ったものが畳表だということを、多くの人が知らない。

 

4 月17日(土)に開催されたNICe八代(熊本)交流会は、1部が畳表折り体験会、2部が講演会、3部が懇親会という充実のプログラムだった。ちなみに2 部の講演会の模様は動画配信され、会場に足を運べなかった人たちはそれを見ながらtwitterを利用して意見交換を行った。

 

さて、交流 会全体については後日のレポートに譲るとして、私は第1部のイグサ織りを通して感じたことを少々書いてみたい。

 

体験会場はNICe会員の イグサ農家、岡初義さんのご自宅。お邪魔していきなり驚いた。一般的な農家は母屋、納屋(兼駐車場)、作業場などの建物があるのだが、岡さんのお宅はそれ らに加えて「工場」があるのだ。
正確にいえば、岡さん宅に限らずイグサ農家にはたいてい工場がある。

 

冬の寒い中、田んぼに苗を植 え、休みなく育て、夏の蒸し暑い最中に収穫したイグサを、今度は工場で畳表に加工していくのである。ここまでの状態に仕上げて畳屋さんに出荷するという。 実に大変で、実に手間隙のかかる仕事である。そして何度かの裁断作業を伴う危険な仕事である。

 

近年は畳の間のない住居も増えたが、それで も多くの日本人は毎日、畳のお世話になっている。米を食わない日はあっても畳を踏まない日はない。そういう人も山ほどいるはずだ。なのに、そもそも畳がど うやって作られ、また材料のイグサがどんなもので、どこでどう育てられているのか、まるで知らない。というより、知ろうとすらしない。

 

「畳 表は空気のようなもの」と岡さんは言った。大邸宅にも三畳一間にも畳はある。日本の住居にはあって当たり前、当たり前すぎるものなのだ。確かに長年、私た ちはそういう感覚を持っていたと思う。食事をする時、「お百姓さんに感謝しなさい」と口にしていた父母も、「畳を踏む時、お百姓さんに感謝しなさい」とは 言わなかった。

 

それでイグサ農家がやっていけるのなら、そのままの感覚でも良かった。
だが、近年、安価な中国産イグサの畳表が輸 入されるようになり、競争力を失った国内イグサ農家は次々と廃業。主要生産地である八代でも、イグサ農家は20年前の10分の1程度に現象してしまったと いう。

 

だから中国産を規制せよと、私は言いたいのではない。畳とは何か? イグサとは何なのか? それをあらためて考える機会を日本人は 得ることができた。そう考えたい。岡さんをはじめとする八代の意欲的なイグサ農家たちは、新たなイグサの用途開発や新たな畳表の流通開発に取り組み始めて いる。今度は消費者(利用者)である私たちが、そのことを同じように考えるべき時がきているのではないか。

 

イグサの匂いを抹茶だと勘違い した受講生の嗅覚を信じるのなら、イグサ飲料は大きな

市場を獲得できるかもしれない。

 

畳表としてのイグサの利用は、イグサの持つ力のほん の一部を使っているにすぎないのではないだろうか。慣習や常識に縛られない、言い換えれば畳やイグサのことを何も知らない私たちこそが今、日本の生活史に 貢献できる時がきている。そんな予感を猛烈に抱いたイグサ体験だった。

 

最後に、このイベントの実現のために奔走してくれた西田ミワさん と、岡さんはじめ八代のイグサ農家のみなさん、そして「東京からも参加を」と訴え続けてくれた小林京子さんに、心から御礼を申し上げます。



「NICe八代交流会」レポート


2010年4月、新たにスタートしたNICe。 そのリアルコミュニケーションイベント初回を飾る 「NICe八代(熊本)交流会」が2010年4月17日に開催された。

 



■■■民間活動として新たな一歩を踏み出したNICe

 

起業支援ネットワークNICeは、「雇われずに生きる人々や自立的に生きる人々が、地域や業種、世代を超え、情報と知恵の共有・循環をはかることで“相互支援体制”を築き、それを推進力として起業や新規事業・新市場の創出、そして地域社会の活性化を実現すること」を目的として、2010年4月にスタートを切ったばかりの活動だ。もともとNICeは経済産業省の事業だったが、実施年度終了に際し、事務局がその活動を自主的に引き継ぎ、有志が呼応して新たな一歩を踏み出した。

 

 


●初のリアルコミュニケーションイベントを熊本県八代市で開催

 

そして、2010年4月17日(土)、新生NICeのリアルコミュニケーションイベントとして第1回目となる「NICe八代(熊本)交流会」が、熊本県八代市で開催された。
http://igusa2010.dolphin-w.com/

 

熊本県八代市は、畳の素材として使われる「い草」の産地として有名な地域だ。しかし近年、日本人の生活様式の変化に伴い、畳そのものの需要が減尐。さらに中国からの安価な輸入品が激増し、多くのい草農家は廃業や転業に追い込まれている。

 

その状況は当事者だけの問題ではない。これまでもNICeは、全国各地で様々なテーマの交流会や勉強会を重ねてきた。異業種、異地域、異文化の問題や課題を知ること。それらを通じ、異なる属性だからこその視点や解決案を提供すること。また、そうした行為を通じて自身に眠る経営資源を掘り起こすことに目的がある。

 


織り師・岡初義氏

 

 

 

前述のとおり、い草農家は苦境に陥っている。もちろん、それを打開しようと精力的に活動を続けている人たちがいる。その中心人物のひとりが、NICeメン バーである岡初義氏だ。

 

 

その岡氏と、同じくNICeメンバーであり農商工連携支援コーディネーターでもある西田ミワ氏らが実行委員となり、今回の交流会は「い草」に焦点を当て、6次産業としての農業における課題などの情報を共有し、今後の活動を促進することを目的に開催された。 プログラムは3部構成。1部では岡氏の自宅兼作業場での「い草織り実演体験」、2部は、い草農家であり地域特産物マイスターの田淵稔氏の特別講演と、NICeチーフプロデューサー増田紀彦氏の基調講演。3部は意見交換を主とした懇親会。なお2部の講演会の模様は、リアルタイムで映像配信された。

 

 

■■■「NICe八代交流会」第1部 い草織り実演・体験

 

岡初義氏は、200年続くい草農家の7代目。八代平野で、い草と菜の花、菜の花米を栽培しているほか、い草の様々な商品開発に取り組む先駆者でもある。この岡氏宅での実演体験には、八代市、熊本市をはじめ、東京都、神奈川県、愛媛県、福岡県からも参加者が駆けつけた。

 

●和の心を感じる「畳」。しかし、畳の何を知っているか? どこを見ているか?

 


(左)八代市鏡町にある岡氏のご自宅でい草織り体験。15名が参加し、畳の部屋で体験前のレクチャーを受ける
(右)伝統的な“中継ぎ表”。タペストリーとしての芸術的価値もあり

 

 

一行はまず、20畳の大部屋で岡氏からレクチャーを受けた。住居スタイルが変わったとは言え、日本人には馴染みがある「畳」。しかし、果たして日常の中で、畳を意識することはあるだろうか。また畳を目にした時に、い草農家が織った畳表(たたみおもて)に目が行くだろうか。「畳は空気のような存在。気に留めたとしても、ほとんどの人の目は縁の柄に行ってしまうでしょう」と岡氏は言う。

 

畳の様々な効用についても説明を受けた。空気浄化、保温・断熱性、温度調節、弾力性、芳香性、消臭性、吸音性。その効果は、住居環境問題などが言われるようになり、若干は知られるようになってきた。だが、畳がどのようにして消費者のもとへ届くのか、どのようにつくられるのか、品質はどこで異なるのか、そもそもい草とは何か。これらは一般にはまったく認知されていない。

 

 

●消費者との距離感がある「い草」農家。野菜などの生産農家との相違点とは?

 

野菜や果物なら、農家が栽培し、収穫した生産物は、そのままのカタチで出荷され、流通する。消費者はほぼ原型で生産物を目にする。しかし畳の場合は、材料のい草とは程遠いカタチで出荷される。そのために、い草の原型を知る人は少ない。ましてやい草農家が、い草を栽培し収穫し、その後にい草を織り、畳表(たたみおもて)という加工品にまで仕上げていることを知る人は稀である。その畳表が畳店などへ売られ、そこで畳床、畳へりと縫い合わせられ、初めて畳というカタチになって消費者のもとへ届けられる。

 

最近は、野菜や果物などの生産農家が、直に消費者へ販売する取り組みが増えてきた。しかし畳表は後工程が必要なため、い草農家と消費者との接点はないに等しい。い草農家と触れ合う機会がないのだから、い草がどのように栽培され、い草農家が何にこだわっているのか知るよしもない。一般家庭に畳の部屋が減ったとは言え、日本人の誰もが慣れ親しんでいる和の心「畳」であるはずが、その畳のことを知らないのだ。知らないのだから、消費者の選択肢は価格差だけになりがちで、「安い輸入物でいいだろう」となる。

 

知られていない。消費者との接点もない。「それならつくればいい」が岡氏の流儀。すでに小中学生や農大生を対象にしたグリーンツーリズムなどを通じて、それを実践してきた。しかし、そんな岡氏も今回のように社会人を対象にした実演体験会は初めての試みだった。

広島県熊野の筆職人につくってもらったという「い草の筆」と、
その筆で県立八代農業高等学校の生徒さんが書いた文字

 

 

●い草に関連して、葉の花プロジェクトも進行中

 

「自分が言ったことは現実化するんです」と、岡氏は笑いながら「菜の花プロジェクト」について語った。い草の連作による土質低下を防ぐため、13年前から菜の花栽培を始めたのがきっかけだが、増えた空き農地を地域のために活用しようと地元の有志にも呼びかけ、2006年には7軒の農家で「やつしろ菜の花部会」を結成。今では毎春、一面の菜の花畑を見ようと多くの観光客が訪れている。

 

この菜の花は景観作物や肥料としてだけではなく、種まきや手入れをイベント化して食育活動のツールにも発展。さらに『宝蜜(菜の花蜂蜜)』『菜の花米』『宝あぶら(菜種油)』『菜の花米』の純米酒『菜々』も生み出し、八代の新ブランド確立に貢献している。

 


い草〜菜の花〜菜の花米を栽培する“循環農業”を推進

 

 

 

●い草栽培の時期と各工程、い草織りの手順

 

<い草栽培> 
8月  い草苗を育てる
11月  い草苗を株分けする
12月  本田にい草苗を植え付けする
4~5月 45cmほど残し、先端を刈ることで成長を促す
5月  い草の水田に、編張りのための杭立てをする
5月  倒状防止のための編み張りをする
7月  刈り取り準備
7月  収穫、泥染、乾燥、袋詰め、遮光保管
(岡氏は、泥染をしない“すっぴん・い草”を畳表に加工している)

 

 

<い草織り>
1 乾燥させたい草を選別機にかける
2 長さごとに分ける
3 水分を与える
4 1本1本品質を確認し選別する
5 水を与える
6 再度、1本1本品質を確認し選別する
7 織機で織る(1畳分を織る所要時間は3時間)
8 畳表の傷などを一目一目確認する
9 天日干しをし、畳表の水分を11%に調整する
10 保管後、出荷する

 


(左から)染土での泥染をしない“すっぴんい草”の畳表職人は、岡さんを含め国内で7戸のみ。日本に3台しかない織機

 

 


『香雅美草』づくりは、岡夫人・照代さんの指導のもと体験

 

 

 

今回は、上記のい草織りの2~7の行程、そしてドライフラワー感覚のい草束『香雅美草』(かがみそう)づくりを体験した。ほとんどの参加者は、畳表の製作工程を見るのすら初めて。「できるのかなぁ〜」と不安の声もちらほら聞こえたが、「できますよ。とにかくやってみましょう」と、豪快に言い放つ岡氏に誘われ、どうにかこうにか作業を進めた。

 

その後一行は、い草の水田へと移動し、12月に植え付けられたい草が成長している様子を確認。水田の周りの農業用水路にはシジミの姿も。387年前までここは海であり、干拓地だった証拠だ。程良い塩分が豊かな土壌となり、上質ない草の産地になったのだと岡氏はいう。

 

美しいコントラストを描く菜の花畑とい草の水田。2014年に全面開通する九州新幹線は高架上を走るため、ここを一望することになる。多くの乗客が、その光景に驚き、感動し、この地に引き寄せられることを一行は確信し、1部の実演体験会は終了した。

 


岡氏のい草の水田。遠くに見えるのが九州新幹線の橋脚

 

 

 

■■■「NICe八代交流会」第2部講演会・第3部交流会

 

舞台は「NICe八代(熊本)交流会」が開催される八代ロイヤルホテル。会場内には、様々な織り模様の畳表や、い草を使って開発された商品がディスプレイされている。一方、背中に「熊銘会」とロゴが入った揃いのジャンバーを着込んだ青年が多く目に付く。この人たちは熊本県畳表銘柄確立研究会(愛称:熊銘会 ゆうめいかい)のメンバー。彼らのようない草や畳の関係者、また農業関係者、さらには様々な業種の経営者など、熊本県内外から総勢61名が参加した。

 


受付を務めた広瀬美貴子氏(左)と江浦誠氏(右)

 

●特別講演 地域特産物マイスター 田淵稔氏

 

「い草をとりまく現状と課題」

 

はじめに、「NICe八代交流会」実行委員長・西田ミワ氏の開会のあいさつがあり、特別講演を務める田淵稔氏を紹介。財団法人 日本特産農産物協会認定 地域特産物マイスター、エコファーマー認定農家であり、熊銘会メンバーでもある氏は、自身のプロフィールから特別講演を始めた。

 


(左)NICe八代交流会実行委員長・西田ミワ氏
(右)地域特産物マイスター、エコファーマー認定農家 田淵稔氏

 

 

1963年に八代に生まれ育った田淵氏は、八代農業高等学校卒業後、い草農家である実家に就農。その頃は「い草バブル」だったという。い草農家の同級生たちと、「卒業したらどの車を買おうか」そんなことを話題にしていたそうだ。

 

その当時、全国のい草栽培総面積は8580ha。熊本はその8割を占めていた。だが、1990年をピークに需要が激減。と同時に、海外からの安価ない草が輸入され、2000年には、畳表の国内生産量と輸入量のバランスが逆転する。2003年には、国内流通量の7割が輸入品となり、2010年は8割に。熊本県内に6200haあったい草栽培面積は、この20年間で9分の1にまで激減した。それでも頑張っているい草農家はいるが、一軒当りの年収は300万円程度(平均2.2名)だという。

 

「就農した当時は、植えさえすれば儲かると教えられてきました。しかし、そんな時代は終わりました。このままではいけない。この現状を自分らの手で変えなくてはなりません。会場の後方に、オレンジ色のジャンバーを着たい草農家の若者たちが大勢居ます。今、そんな若い仲間と頑張ってところです」

 

生産者側の反省点として、一般消費者へのアピールが足りなかったのではないか。畳表の品質差がわかりにくく、どれも同じに見えてしまうのではないか。そうなれば、低価格の輸入物に負けてしまうのも当然だと田淵氏は述べた。

 

だからこそ、い草農家は消費者目線のものづくりをする必要であり、畳表を「製品」ではなく「商品」と考え直す。そういう徹底的な意識改革が必要なのだと力説した。

 

「おそらく消費者の皆さんからすれば、畳は厚いか薄いかというぐらいの選択肢しかないのではないでしょうか。畳表にしても、これはどんな部屋に向くのか、どんな目的に適しているのか。自分たちがつくっている一つひとつに目的を持たせて、メーカー意識を持って商品としてつくっていかないと、畳はどんどんなくなっていきます。今日の交流会にはい草生産者が多く参加していますし、異なる地域、異なる業種の皆さんも参加しています。ぜひ、皆さんのご意見を聞いて、今後に生かしたいと思っています」と、この後の懇親会の意義である意見交換の重要性を明確にした。

 

最後に田淵氏は熊本県畳表銘柄確立研究会(愛称:熊銘会 ゆうめいかい)を紹介した。熊銘会とは、熊本畳表ブランドの確立・維持・向上を目指して、1992年に結成された生産者団体だ。現在47名が所属しているが、平均年齢は32歳という若さだ。

 

「今年も新たに3名のメンバーが加わりました。生産者数は減っているのに、会員が増えている。生産量は落ちたがやる気は高まっている証拠です。純国産の畳、日本固有の畳を絶対に残すんだ、という決意を込めて、皆さんからのアドバイスを聞きたいと思っています。どうかよろしくお願いいたします」と、第3部の懇親会・意見交換会への意欲を語り、講演をしめくくった。

 

 

●基調講演 
起業支援ネットワークNICe代表理事 増田紀彦氏
〜「不」「負」「普」を、「富」に逆転せよ!〜

 

八代の地域資源を起業家脳で宝物に!

 


起業支援ネットワークNICe 
増田紀彦代表理事

 

司会の西田氏からプロフィールが紹介され、増田氏が壇上に。開口一番、田淵氏ら、い草農家の皆さんへエールを送った。
「今日は岡さんのお宅でい草織り体験をさせていただき、そして今、い草農家の後継者たちの視点を変えたい、と田淵さんがおっしゃっているのを聞き、感動しています。視点を変える。これはい草農家だけではありません。既存の方法、手法、価値観でうまくやってこられた業界や経営も、これからはそうはいきません。農業だけでなく、工業、商業、サービス業も、これまで成功してきたものは、早晩通用しなくなります。むしろ、早めに追い込まれたい草農家の方々は、逆に言うと、早めに視点を変えるチャンスをつかんだのだと思います」

 

視点を変えるとはどういうことか。何がチャンスなのか。そんな疑問に答えるように、増田氏は北海道の十勝地方の若手農家たちとのやりとりを紹介した。

 

この地域は大規模農業が盛んな地で、ジャガイモ、小麦、ピートなど、広大な耕作面積で効率的な生産をしている。しかし、消費者の声がなかなか届かない大量生産をしていることに、また、農地の拡大を願うような人生に、「このままでいいのだろうか」と、若者たちが疑問を持ち始めているという。

 

「メイクイーンというおイモがありますね。上から見ると楕円形ですが、時々、2つの楕円の一部がくっついてしまったおイモができるそうです。このカタチ、何かに見えませんか?」 増田氏は、両手でそのカタチを示した。会場内から声が上がった。「ハート、ですか?」

 

「そう、ハートです。これまでは当然、廃棄処分にしていましたが、このハート形のおイモ、どの農家の畑でも出るそうです。一定量が確保できる。なら、これをきれいな箱に入れて、バレンタインデーやクリスマスに、Fromとかち with LOVEとかネーミングして送ったら喜ばれるんじゃないでしょうか。これはまさに視点を変えたことで生まれた発想例です。破棄するしかないと思っていたものすら、都会の人には『かわいい』『すてき』と言われる可能性があるのです」

 

続けて増田氏は、視点を変えることで成功した地域の取り組みを立て続けに紹介していく。まさに今話題にしたばかりの十勝地方の中心地、帯広市の「零下20度でも賑わう屋台街」の実例。そして長野県一小さな町なのに年間100万人以上も観光客を集める小布施町の実例……。

 

そして増田氏は、そもそも地域資源とは何かについて語りはじめる。自然資源、産業資源、文化資源、人的資源、そして意外と見落とされがちな公的資源、この5分類に大別されるという。

 

「地域資源というと、自然資源、産業資源、文化資源に注目しがちですが、美しい自然や特産品、歴史的建造物だけではないということをまず認識してください。人的資源というのは、たとえば、岡さんや熊銘会の皆さんのようなことです。面白そう、会ってみたい、話してみたいと感じさせ、相手に行動を起こさせるような魅力ある人たちのことです。公的資源とは、何か検討がつきますか? たとえば運動場、公民館、学校。多くの人が何かをするために集まる場所はたいてい公的資源です。なのに、地方都市の公的な施設は、多くの人が何かをしていない(笑)。たとえば簡単に予約できて、使い勝手がよく、きちっと整備された運動場。都会人にとっては夢のような施設ですよね。まさに資源です」

 

既存資源を違う視点で評価し、生かすこと。その発想が大事だと増田氏は強調した。言い換えれば、地域の弱点や問題点を強みとして見ることだ。前述の帯広の事例は「寒い」という弱点を強みにし、どこにでもあるような駐車場という「公的資源」を屋台用地にした。一見「不利」に見えるもの、「負債」に見えるもの、「普通」に見えるもの、これらに価値が潜むと。

 

では、どうすれば、視点を変えてものごとを見られるようになるのか。ここからが、講演のテーマであり中核であり、い草農家の皆さんにぜひ伝授したい「起業家脳」の話題になる。

 

●異なる視点で見て、異なる方向から考え、先へと発展させ、実行する。
それが「起業家脳」

 

増田氏は、演台に置かれた配付資料をかざし、「これは何に見えますか?」と会場内を歩き、参加者に聞いて回った。紙。配布物。情報。資料。本をばらばらにしたもの、などの回答が寄せられた。

 


コードレスマイクで参加者に次々と質問

 

「もっともっとあるでしょ。丸めて声を出せば拡声器の代わりになる。人の頭をひっぱたく道具にもなる。へ理屈じゃないんです(笑)。この紙は「紙飛行機の材料」とも言えます。あるいは「紙箱の材料」とも言えます。そして今度は、「では紙をい草に変えたらどうか」と考えます。い草飛行機、い草箱、い草のトイレットペーパー……。紙のほうが適している製品が多いかもしれませんが、中にはい草の持つ特徴が生きてくる製品もあるかもしれませんね。

 

さて話は変わりますが、い草がやたらと売れるようになったら、何が起きるでしょう。“風が吹けば桶屋が儲かる”という諺がありますね。桶屋が儲かったら、何が起きますか?」

 

何人かの参加者との問答をした後、増田氏はさらにいくつかの具体例を挙げ、そして起業家脳を以下のように定義し、それぞれについて解説した。「紙の資料が何に見えるか」と始めた問答は、すべて記の項目に該当していたのだ。

 

◆価値逆転や用途変更を自由に発想する

 

◆異物の共通点、同一物の相違点を瞬時に見抜く

 

◆一歩先の、さらにその先の、もうひとつ先を予測する

 

◆情報の断片を結合して、ひとつの決断を素早く導く

 

◆最後は自分の意志で判断し、行動に移す

 

「ぜひ、常識とか多数派の意見とかに負けないで、皆さんには新しい取り組みを意欲的に、起業家脳をフルに生かして頑張っていただきたい」と、参加者に熱いエールを送った。そしてこの後も、起業家脳を生かした事例を紹介した。

 

 

●身近なところに資源あり! 起業家脳で生かせば資源は宝になる

 

「私は熊本県には何度も来ていますが、八代にお邪魔するのは初めてです。そこで、初訪問を前にネット検索してみました。その時に“イケている!”と思った市内の光景を4つピックアップしてみました」と述べ、4点の写真を映し出した。

 

それを見た参加者がどよめく。よく知っている、え?こんなものが選ばれたの? 皆が、その写真に驚いている。しかし、これまで増田氏が挙げた事例で利用されていた資源も、すべて地元の人からすれば“見馴れた光景”であり、そのほとんどが、“価値がない”と思われていたものばかりだ。同じように、自身の地域に置き変えてみるとどうだろう。起業家脳を使って、もう一度見直してみてはどうだろう。そこから見えて来るものがあるのではないか? そんな問い掛けのような4点の写真。

 

◆深水地区の発電所跡

 

◆はちべえトマトの栽培(黄色灯に包まれたビニールハウスの夕景)

 

◆い草と葉の花畑と九州新幹線橋脚

 

◆八代球場

 

増田氏はその一つひとつについて感想を述べた。 石造りとレンガ建築の発電所は、この会場から車で15分の距離。「行ったことがある人?」と問い掛けると、わずか数名だけが挙手。知ってはいるが、行かない場所のようだ。しかし、築100年を超える建造物が球磨川沿いに佇むその姿は、重厚で美しく、ヨーロッパの古城を思わせる。四季ごとの風景も期待できそうだ。

 

はちべえトマトを栽培しているビニールハウスも、地元の人からすれば日常の風景だろう。しかし、夕暮れの中に黄色灯が浮かぶ様は、カップルが見たらどうだろうか。まさか、蛾を寄せ付けないための灯りとは思わず、ロマンチックな雰囲気になると喜ばれるのではないだろうか。

 

そして、岡氏が撮影した、九州新幹線沿いの葉の花畑とい草の水田の写真。「複数の農家が協力して、い草と菜の花のツートンを広大につなげていったらどうでしょう。そこにウッドデッキがあったら、歩きたくなりますよね。新幹線から見たら、下車したくなりますよね」

 

最後は八代球場。増田氏は予約状況を調べたと述べ、「空いていました」の声に会場から笑いが起きた。しかし、「大会などがなければ空いていて当たり前ですが、東京や大阪では、草野球チームが球場の取り合いをしています。大都市圏ではいっぱいでも、地方ではガラガラ。この“ガラガラ”は資源です。『いつでも空いている』『閑散としている』と、とかく箱モノは批判されがちですが、いつも予約が埋まっていて泣いている都会の人から見れば、宝ものなのです。都会から野球チームを呼び込んではどうでしょう。ここでは温泉も楽しんでもらえますしね。たとえば、「第1回 い草ベースボール大会」とか。い草で野球のボールをつくれませんか?(笑)」

 

会場内がどっと沸いた。八代は1次・2次・3次産業が全て揃っている。であれば、産業資源と公的資源を大いに観光要素に生かせるのではないか。岡氏をはじめ熊銘会の皆さんのような、個性的な人的資源も揃っている。「不」「負」「普」を、「富」に逆転する資源が八代にはある! そんなメッセージをしかと受け取ったせいか、会場内が熱気を帯びてきた。それを察した増田氏は、畳み掛けるように最後のメッセージを送った。

 

「産地が頑張って、誰かが売ってくれる時代ではありません。小布施の栗は小布施で買えというように、八代でしかできないことを確立して、人をここに来させるんです。い草を織る体験をして、できたものを持ち帰れるなんて、ほかの地域ではまずできませんよね。1次産業や2次産業に、これからは体験や観光で喜ばれる要素をたっぷり入れる。それを生産者自身が、自分の田んぼや施設を使ってやれば、八代もい草農家も、もっと発展することができると思います」

 


 

 

●懇親会

 

懇親会には40名が参加した。交流を促すため、参加者はまず会場入り口でどのテーブルに座るかの抽選をし、それぞれの卓へ。岡氏のあいさつでスタートすると、あちらこちらで熊本流のあいさつが交わされた。ひとつの盃を使って酒を飲み交わすのが熊本流儀。菜の花米の純米酒『菜々』も振る舞われ、活発な意見交換が延々と続いた。それでも話し足りない人々たちが、揃って市街へと繰り出したこと言うまでもない。

 


岡氏の乾杯の音頭で懇親会がスタート。懇親会会場にも様々ない草商品も展示

食用い草でつくった「い草麺」や『菜々』も堪能

 

 

取材・文/NICe編集委員  岡部 恵
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