一般社団法人起業支援ネットワークNICe

ユーザーログイン
最新イベント


レポート


Report
創業・起業人材育成事業 対談形式講演会レポート




2012年7月4日、秋田県横手市で、横手市雇用創出協議会主催、一般社団法人起業支援ネットワークNICe協力による、創業・起業人材育成事業のセミナーが開催された。テーマは“連携ビジネス”。横手市内を中心に秋田県内外から、中小企業経営者、個人事業主、新規事業担当者、NPO・行政関係者、起業予定者らが集い、“生きた事例”を学び合った。

■オープニング

横手市雇用創出協議会の鈴木尚登氏があいさつし、今回のセミナーの趣旨を伝えた。「これからの時代は中小零細企業が互いに協力し合い、連携して事業を興していくことが重要です。これまでも当団体のセミナーに、NICeの増田代表理事に何度か講演をしていただき、全国各地の様々な事業実例を紹介していただきました。そして今回は“連携”に特化した内容でとお願いしたところ、『いい人がいる!』とのお返事で、大阪から永山さんにもお越しいただき、初めての対談形式となりました。みなさんに聞いていただいて、いろんな人と手を結んで新しいことにチャレンジする、そんなヒントをひとつでもふたつでもお持ち帰りいただけると思います」


▲横手市雇用創出協議会 鈴木尚登氏



■対談形式講演会



 

 



【テーマ】

『連携ビジネスのコツ、語ります。教えます』



・一般社団法人起業支援ネットワークNICe 増田紀彦代表理事
・株式会社日鐘(大阪府摂津市)代表取締役 永山仁氏


▲NICe増田紀彦代表理事

横手市雇用創出協議会主催のセミナーに登壇するのは今年で5年目だという増田氏。だが、雪のない季節に横手に来たのは初めてで、とても新鮮であり、この夏の訪問で得たものをまた次回の講演で話したいと早くも次期セミナーへの意欲を語った。そして対談を始める前に、そもそもなぜ連携が必要な時代なのか。また、経営者が企業を継続させ発展させるための絶対条件について話を始めた。

「今日のテーマは連携ビジネスです。大企業ならば自社内にいろいろなセクションがあり、人材も情報も豊富です。が、小さな会社は、自分らでできることが限られています。そのため、得意な分野に絞って事業をしています。逆に言うと、ひとつの力では市場が求めるものに届きにくい。だからこそ、別の資源を持っているもの同士が、あるいは3、4社が、組み合わさる、連携することで、小さな会社でも、若い経営者でも、田舎の会社でも、お金がない会社でも、どこかに弱みを持っている小規模の会社でも、磨き上げてきた得意な部分をそれぞれが持ち寄って、ひとつの事業をつくり出せば、大きな市場へ手をかけられるのだと言えます。

景気はまだまだ厳しくなります。その要因のひとつが消費税率引き上げです。報道では民主党の分裂のことばかりを言っていますが、では、いつから消費税が上がるのか、ご存じですか?」と参加者にワイヤレスマイクを向けた。

増田氏が講演するセミナーに参加したことがある方ならおわかりだろう。増田氏は会場内を歩き回り、ことあるごとに参加者にマイクを向け、質問をする。講演で一方的に話すだけではなく、一緒に考え、学び合うのが流儀なのだ。増田氏は所々に笑いを交えながら、参加者の頭をどんどん和らげていく。

 

マイクを向けれた参加者が答えた。
「決まっていないんじゃ……。2015年頃、でしたっけ?」

「そうなんです。今時点で決まっていません。消費税率引き上げ関連法案の中に、附則第18条というのがあることをご存じでしょうか。そこには、経済成長ができてデフレが止まり、GDPで2%か3%、日本の景気が上がったら、と記されています。しかし、民主・自民・公明の3党合意というものもあるのです。そこには、その数値を努力目標にしましょうとあります。つまり、景気改善条件が実現できなくても、消費税率を引き上げることは可能であり、さらに国会での審議や議決を経ずとも内閣だけで実施を決めていい、ということなのです。結果、2,3年後に引き上げられることになりました。これで消費者の財布のヒモが締まりますよね。高価なものは早く買っておいたほうがいいけれども、小さな企業の商材は消費がおさえられる。ほかにも景気が厳しくなる要因は枚挙にいとまがありません」

個人も企業も財布のヒモが締まる。「ですが」と、増田氏は、何に節約するかに着目して欲しいと強調した。今まで世の中にある商品やサービスに対し、個人も企業も節約をするだろう。だが、新しい価値やサービスに対しては、誰も、節約する物差しを持っていない点だ。

「ですから、今までとちょっと違う新しいサービスや商品を、自社だけでは難しくても、連携して魅力を組み合わせてつくり出していくことが重要です。消費マインドが冷えていても、財布のヒモがゆるむような魅力的なものをつくり出す。もちろん、簡単にできないかもしれません。そこで今日は、異業種が連携してつくり出していくコツ、自社の他者の互いの資源の見つけ方について、決定的な理屈と実例をお話します。その実例のひとつは永山さんです。まずその前に、起業家・経営者に必要な3つの能力と任務について話します」

 


それは以下の3つ。

・何をするかを決める
・その決めたことをやる
・やめることを決める

「まずは業を起こす、やることを決める。次に、決めたことをやる。いくらいいプランでも、現実は大変ですよね。たとえば思ったほどにスタッフが動かない。仕入れる予定のものが諸事情でストップする。そういう状況に対して経営努力は欠かせません。そして、3つ目。これが一番勇気が要ります。やめることを決める、です。

世の中は変わりますし、市場も変化します。その変化の速度は早い。市場の変化状況に対応して、やってきた事業の一部を変えなくてはならない、あるいは全面撤退もあるでしょう。その引き上げ方、大小中でやめることが重要です。が、やめっぱなしでは終わってしまいます。さて、やめることを決める、その次にどうしますか?」

 

参加者にまたマイクを向けた。
「何をするかを決める?」

「そうです! 重要なのは、やめることを決めて、また、新しいこと、やることを決め、決めたことをやるのです。そしてまた、やめることを決め、やることを決める。この3つを常に循環させること。それが、経営者あるいは新規事業リーダーの任務であり必要能力です。では、やめることを決め、次のことへ、何を始めるのか。それは今日の重要なテーマです。まったく新しいことをゼロから出直していては遅いですよね。第2ラウンド、第3ラウンドの始め方には4つの法則があります。そのうちのひとつで、大いに伸びたのが永山さんの会社です。では、永山さん、お話していただきましょう」


 
▲株式会社日鐘 代表取締役 永山仁氏

「秋田に来たのは生まれて初めてです。東北は今までご縁がなかったのですが、震災後は頻繁に訪れるようになりました。こうして人前で自分の事業の話をするのも生まれて初めてです」と永山氏はあいさつし、会社紹介を始めた。

永山氏が経営する株式会社日鐘(にっしょう)は、永山氏の祖父が創業した製造請負会社。資本関係はないが、大手化学メーカーである株式会社カネカ1社の下請けであり、その工場内に社屋を構えている。永山氏が3代目を継いだのは2003年、30歳の時だった。きっかけは製造現場で重大な労働災害が発生してしまい、当時社長だった父親が経営陣と安全管理体制の一新を決断し、永山氏が経営を継ぐことになったのだ。

「経営の“け”の字も知りませんでしたが、とにかく安全第一で、カネカさんのオーダー通りにものをつくるのが最大のミッションでした。カネカさんが業績を上げてくれるので、うちもおかげさまで2007年までは右肩上がりで、とにかく現場を回って社員とコミュニケーションを円滑にして、安全に集中していました」

ところが翌2008年、リーマンショックでもろに打撃を受けた。仕事量が激減。これまで良好な関係を築いているため、製造部署の配置換えなどで最善を尽くしてもらったものの、人員を吸収しきれない状況に陥る。永山氏は余剰人員分を解雇しないで済むようあらゆる策を練り続けた。と同時に、これまで自分は経営者として何をして来たのかと猛省したという。

「それまでは外に目を向ける必要がありませんでした。祖父の代からカネカさん1本で仕事をしてきましたし、それが我が社の存在意義だと教え込まれていました。ほかのメーカーさんと取り引きするなんて、そんな不義理なことは考えもしませんでした。ですが、未曾有の危機にぶち当たった時、わらをもつかむ思いで、何か新しいことをしなくてはと。そんな時に、NICeに参加し、ちょうど大阪で増田さんのセミナーがあると。最初は、忙しいから行かないと思っていたのですが。絶対に面白いからと人からもすすめられて……。増田さんの話は予想以上に目からウロコの90分でした。机上論ではなく、全国各地の面白い企業さんの実例をいっぱい教えてもらい、雷が落ちました。これだ!と思ったんです」



ここで増田氏から、なぜリーマンショックが世界経済に打撃を与えることになったのか。また、永山氏が請け負っている化学メーカーに限らず、製造業が特に影響を受けたのかのはなぜか。そして、製造請負業の宿命について解説した。



増田氏「みなさんは、製造請負という言葉を聞いたことありますか? 工場の外から見てもわからないでしょうが、大きな工場の中には、そのメーカーさんの社員さんだけではなく、協力会社の人たちが大勢働いています。永山さんの会社もそうです。ですから、メーカー本体の経営が好調な時はとてもありがたいですが、厳しくなれば、バッサリ切られてしまいます。はっきり言うと、請負は雇用の調整弁なのです。永山さんは社長になってから上がることしか経験がなかったので、すごいショックだったと思います。それでも何かしなくちゃ、新しいことを、と勉強されているところで、2009年6月、たまたまNICeの勉強会が大阪で開催され、私の講演を聞いてくれたのでしたね?」

永山氏「はい。これ(プロジェクターに映し出された画像)、まさにあの時の写真ですよね? 今日のように増田さんは会場を回りながら、いろいろ質問するのですけれど、『俺、それ答えたい!!』と思ったのに当ててくれないんです。『いかにも自信がある、目が合った人には当てません』って(笑)」

 
▲右の写真がその2009年6月の講演の時に撮影したもの。
中央列の後からふたり目が永山氏

増田氏「そうそう、何年も同じことしていますね、私(笑)。この3年前の講演で、『やめることを決めて新しいことを始めるには、4通りの方法があります』と話させていただきました。それがこれです」


●「誰に?何を?」を見直して成長を続けるための4つの選択肢
A、新規マーケットに、従来商品・サービス
B、従来マーケットに、新規商品・サービス
C、従来マーケットに、従来商品・サービス
D、新規マーケットに、新規商品・サービス



増田氏は永山氏の会社を例に挙げてそれぞれを説明した。
「製造請負業ですから、Aでいう従来商品・サービスとは、ものをつくる技術。これをほかに使えないかと考えるのがAです。Bは、今までのお客さん、つまりカネカさんに、新しい商品・サービスを提供できないかという考え方です。

ビジネスを理解するうえで、誰に?何を?と考えますが、状況が厳しくなると、これまでの商品もマーケットもどちらもダメだと思いがちです。が、従来のお客さんがいるということは、すでにリレーションがある。あるいはその業界のことをよくわかっている、と言えますよね? ですから、まずは、これまでの実績や信用の中に活かせるものは何か、AやBから考えませんか?というのがひとつのコツです。今日は4つそれぞれの実例を時間が許す限りお話します。Dは永山さんが生きた事例ですから、後でご本人に話していただきます。先にCの実例から紹介します」



福岡県のヘアサロンと東京文京区の老舗旅館について、増田氏は会場を歩き回り、「何をやめたのでしょう?」「誰に喜ばれたでしょう?」と、参加者に質問しながら紹介した。いずれも、やめることを決め、そしてやることを決めたことにより、成功している。ヘアサロンは、カット・パーマ・カラーをやめて、セット専用にしたことで接客業の女性に大人気となった。旅館は、宿泊をやめたことで大浴場付きの高級居酒屋となり、首都圏の市場を獲得した。

 

「経営状況が厳しいと、どうしてもサービスや商品を増やしてしまいがちです。でもその分野で強いところは既にありますし、増やした分、もともとの業務が手薄になって信用もクオリティも下がり、コストだけかかることになります。でも、やめることで絞れるのです。狙いたい相手をより理解でき、優良セグメントがわかると、その人に向けて喜ばれるサービスをどう徹底すればいいか、細部まで見えてきます。

さて次に、Dの新規マーケットに新規サービス。これが永山さんの会社です。私と出会った頃に何を始めたのですか?」



永山氏「一言で言えば、フォークリフト教習事業です。うちの会社には経営資源がないと思っていたんです。大きな会社の製造ノウハウを教えてもらって、その工場内で製造しているので、経営資源はうちの社員だけだと思っていました。ところが、増田さんが講演の中で、無形資源を見直したらどうだ、と。顧客とのいい関係性も、従業員の高いモチベーションもそれは経営資源なのだと言っていました。

我々に何ができるかと思案していた時に、自分では当たり前だと思っていても、よそに持って行けばそれほしいということがあるという実例をいっぱい聞いて、うちのフォークリフトもありだなと思えたのです。工場の中での業務ですから、フォークリフトの操縦は当たり前のことで、誰からも『すごいね』なんて言われません。気付かなかったのですが、それって経営資源だなと。当時、うちの社員はほかの教習所で免許を取得していました。そこの対応が宜しくなくて、『他の教習所に変えたら?』と言ったのですが、『でも安いんです』と。

リーマンショックで仕事も減っていて、社内のモチベーションも下がるので、何かやろうと。右肩上がりだったらそんな発想はなかったかもしれませんが、ケツに火がついていたので。できるところからと、フォークリフト教習事業を始めました」



増田氏「さらりと言っていますが、すごいことです。工場で働いているのは作業員ですよね。教習所となれば今度は先生なわけです。とはいえ、工場内でも先輩は後輩にいろいろ教えますよね。先生の要素はあるわけです。さて、その教習所の対応はそんなに悪かったのですか?」

永山氏「免許をこれから取るため、乗れないなら教習所へ行くのに、教官が超〜上から目線で、『ヘタクソ』と僕も何度も罵倒されました(笑)。その苦渋をうちの社員もみんな味わっていたので、どんなふうに教わりたいか、“親身に丁寧に”を大切にしようと始めました。教官も全員うちの社員です。最初はぐだぐだでしたが、誰も切りたくなかったし、みんなもやろうと、いちから始めました」

増田氏「今、先生は?」

永山氏「15、16人です。もともと現場で機械を操っていたおっちゃんです。それが今では、プロジェクターを駆使して講師したり、実地で教えたり。うちは授業後にお見送りもするんです」

増田氏「いくつかの要因がありますね。右肩上がりだったらやらなかったと。危機意識は新しい取り組みへの原動力ですね。もうひとつは、自分たちが消費者としてイヤだなと体験したことは、他にもそう思っている人が居るということです。イヤだと思った逆のことをする。さて、みなさんはフォークリフトに乗れますか? 乗れる人?」と会場に問いかけた。数人が挙手。

「いますよね。それじゃ、免許を持っている人は?」

あ……。永山氏以外はゼロ。

増田氏「そうなんです! 乗れないから教えてほしい人ばかりではなく、乗れるけれど免許を取得したい人、取らせたい企業、両方がいるのですよね。よく気が付いたなと思います。自分たちでは当たり前のこと、中に居たら気付かないこと、同じ業界だと気が付かないこと、でも、よそから見たらすごいです!ということが多々あります」

増田氏はまた参加者にマイクを向けた。
「佐々木さん、お仕事は?」
「技術コンサルです」
「すごいですね、私はできません」

「竹内さん、お仕事は?」
「床屋さんです」
「やはり、すごいですね、私はできません

「高山さんのお仕事は?」
「テーマパークでイベント企画しています」


増田氏「中に居れば誰もすごいとは言わない、思いもしないけれど、やはり外から見たらすごいですよね。それを欲しているところへ持って行くという考え方で、永山さんは教習所を始めました。最初はフォークリフト、次にたま掛け、増やしてきましたね?」

永山氏「はい。飲食店のようにメニューを増やしていけばいいんだと。うどん屋を始めて、○○うどんを徐々に増やしていくように、フォークリフト、次に玉掛け、クレーン、粉塵、研削といし、職長教育といったようにメニューを増やしていきました」



増田氏「決めたことをやる、その最初のスタートから大変でしたよね? 専用のコースはどうしました?」

永山氏「教習所を始めるまで、その風穴を開けるまでは大変でした。毎日、労働局へ行って、講師の条件満たすために書類何度も提出したり。増田さんの講演の時に、『無形資源を見直せ』と聞いて、顧客との関係もそうだなと思いました。工場内に広い駐車場があるのでその一画を貸してほしいとお願いしたのです。1回は断られましたが、“立っている者は親でも使え”と、もう一度頼んで、無料で使わせていただけることになりました」

増田氏「そんな駐車場につくった程度のコースでいいんですか?」

 

永山氏「(笑)。労働局に写真付きで分厚い書類を提出するのですが、最初は『駐車場で教習所なんて聞いたことない、ふざけるな』と。『駐車場はダメなんですか?』と聞くと、『だめじゃないけれど』って。『じゃいいじゃないですか!』と。ただし駐車場にコースのラインを引いてしまうわけにはないので、『絶対にひかないとだめなんですか?』と聞くと、『そういうわけじゃないけど』、っていうので、ベルトでアンカーをつくってコースにしました。最後には労働局の人に実際見に来てもらったんです。そうしたら、『もうええわ』と。我々の粘り勝ちでした(笑)」

 

増田氏「やることを決める、決めたことをやる。やると決めたけれど、ここが大変だし、アイデアの宝庫でもあるわけです。お役所というのは、禁止項目は決まっていますが、まさか駐車場でと言い出す人がいるとは思ってもいなかった。鋭いところをつきましたよね。口説き落として粘り勝った。それで始めた当初はどうでしたか?」



永山氏「労働局から許可が出て、開業となったのはいいんですが、集客するにも宣伝するにもサイトもない。チラシをつくったこともない。最初の月は4名、うち2名がうちの社員でした」

増田氏「すごいポスターをつくっていましたね? 取締役がモデルになって、段ボールでつくったフォークリフトをかぶって(笑)。でも、だんだん伸びてきましたね?」

永山氏「はい。マーケティングのマの字も知りませんでしたが、NICeで知り合った方にコンサルティングをしていただいて。2年度で1000人、今は年間3000人の受講を目指しています」

増田氏「受講4名の月から出発して、年間売り上げ7000万円に達しています。今はもう一カ所、大阪平野区にも学校を持ちましたね?」

永山氏「はい。工場内の駐車場ではどうしても土日祝日に限られるので、平日もやりたいと。そのために自社で場所を借りてやりたい。ただイチから進出するのは怖いですが、ちょうど緊急人材育成支援事業という制度を教えてもらい、初期投資分の足しにもなるので合わせて着手しました。緊急人材育成支援事業をするには、パソコン授業も必須であったのですが、NICeの仲間に講師になってもらって、ワークガイダンスや広告の授業などもできました。緊急人材育成支援事業は2クールで終えて、今は教習所のみとしています」



増田氏「フォークリフトが商売になるなんて、普通は思いません。見逃しますよね。でも永山さんは逃さなかった。危機意識の中で必死になると、冗談みたいなことから、やってみようとなるんですよね。わらをも掴む。余裕があるとつかみませんが、意外といい手応えがあることあります。そもそもの始まりは、飲み屋での会話から始まったんですよね?」

永山氏「はい(笑)。当時うちの社員が通っていた教習所は、教官だけでなく受付けの電話対応も感じが悪くて。教習予約をするうちの事務員がいつもイヤな思いをしていたんです。電話で嫌み言われて、いつもこちらが平謝りしている。でも、それっておかしいですよね? 客を客とも思っていない。飲み屋でそんな話をしていて、『なんでそこまで言われるんや。うちでやったろか』という部長の冗談が、僕には冗談には聞こえなかった。請負業として調整弁の宿命があるものの、首切りはしたくない。いつまたこういう危機がくるかもしれない。どうしても新しい事業を始めたかった。そんな時に、増田さんの講演を聞いて雷が落ちたのです」

3年前の増田氏の講演で『雷が落ちた』という永山氏。今この場に揃って登壇し、生きた事例として共に語っているとは、誰が想像していただろうか。増田氏は永山氏と社員たちの努力の積み重ねを大いに讃えた後、同じく「わらをもつかむ思い」で、映画をヒントに活路を見出した成功実例を紹介した。今や日本中に知られるその社名に、会場からはどよめきも。

 

「多くの人は見逃します。でも必死だと、飲み屋で部長が言った冗談や映画のワンシーンでこれだ!と思いつくのです。ピンチには誰だって遭遇したくないですが、そういう時は普段何も感じないことにもアンテナが立ってきます。ピンチは普段見逃しているものが見えるチャンスと思ってください。さて、日常の業務の中にその種が潜んでいますが、それは業務プロセスだけではありません。提供できて喜ぶ相手が居るのに、マッチングできていないケースがまだまだたくさんあります」
と増田氏は語り、Dの新規マーケットに新規商品・サービスに当てはまる電子部品メーカーの実例を紹介した。部品メーカーは自社製品を部品としか見ていないが、その技術でつくり出せる商品があることに気付いていなかった。気付かせたのは、他者からの問いかけだった。「こういうの、できる?」これを自問、あるいは仲間に問いかけてはどうだろう。

さらに増田氏は、「何を売ったでしょうか?」「誰が喜んだでしょうか?」と参加者にマイクを向けながら、「新規マーケットに従来商品サービス」の実例として、広島県の無振動自動車シート開発メーカーを、「従来マーケットに新規商品サービス」では、大阪府の老舗お米屋さんの実例を紹介した。そのたびに「ほ〜〜〜っ」と感心する声が上がったが、中には見事に正解を言い当てて拍手喝采も浴びる参加者も。

 

 


まだまだ全国各地の実例を紹介したいところだが、惜しくも終了時間。最後にもう一度、増田氏は今日の重点ポイントをこう述べた。



「時代とともに状況も市場も変化し、事業のピンチが来ます。やめることを決めねばなリません。ですが、やめて終わりではなく、やめて、新たなことをする。そのジャッジが、今日のABCDです。常にやっていること、やってきたことで、可能なのです。すでに十分できているもの、得意なもの、持っているものを残し、生かして新たな展開をはかる。その時に大事なのが、連携していくこと。一緒に組んでできる人がいると一気に加速します。それは仲間だったり、国だったり、雇用創出協議会のような団体もあるでしょう。全国各地に、つながるチャンスはあるのです。

今日はNICeの仲間が福島から、山形から、神奈川から、東京から、そして遠く兵庫からもこの秋田に来てくれました。地域が違うのですが、違うからこそ気付く、互いの発見も多々あります。今の日本はインターネットも高速道路も新幹線もあります。地域差を超えられるし、お互いが知らない価値、自分が気付いていない価値がまだまだあります。ぜひ、そういうものを見つけ合いましょう。

ピンチは苦しいでしょうが、仲間と連携して互いの資源を持ち寄って、ピンチを楽しく乗り越える。そういう時代がやって来ます。そうしていけばもっともっと日本経済は良くなると思います。ぜひ、今日の話をヒントに、つながってみてください。これで対談講演会を終わりにさせていただきます。どうもありがとうございました」

取材・文、撮影/岡部 恵

プライバシーポリシー
お問い合わせ