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6次産業化の第一歩セミナー in 横手レポート





2013年12月6日(金)、秋田県横手市のY2ぷらざで、横手市雇用創出協議会主催・NICe共催の「新製品開発・新規事業企画人材育成事業 〜誰にでもできる!すぐにでもできる!〜 6次産業化の第一歩」が開催された。講師は、NICeの増田紀彦代表理事。受講者は、農業や食品加工業を営む自営業者、6次産業化に興味のあるNPO・行政関係者,会社員、起業・創業を検討中の方など26名が集い、3時間半に及ぶセミナーでさまざまな事例をもとに学び合った。


■オープニング



横手市雇用創出協議会の鈴木尚登氏があいさつし、セミナーの趣旨と協議会の活動について説明した。
「横手市雇用創出協議会では、毎月1回、東京池袋の『えんがわ市』に出展し、地域のみなさんの特産品を販売するなど、6次産業化をサポートしています。みなさんの中には、すでに6次産業化に取り組んでいる方もいらっしゃいますが、そもそも6次産業化って何だろう?という方も多いかと思います。今回は全国各地のビジネス事例に精通し、特に福島県では6次産業化の講師も務めている増田さんから、6次産業化とは何か、事例や発想法を伝えていただきます。自分ひとりでできること、仲間と連携してできること、こういうのも6次産業化だということを理解する第一歩にしていただければと思います」


■6次産業化の第一歩セミナー in 横手



「〜誰にでもできる!すぐにでもできる!〜 6次産業化の第一歩」

一般社団法人 起業支援ネットワークNICe 増田紀彦代表理事




登壇した増田氏は、参加者の顔を見渡し、「今日は3時間半のセミナーです、みなさん、最後までもちますか?」とにこやかに語りかけた。聞いているだけの講座では、どんなに興味がある内容であっても、集中力には限界がある。増田氏は話すいっぽうではなく、参加者に考えさせ、答えさせる、得意の問答スタイルで進行すると宣言し、「食べ物と同じで、取込んだら排出しないと、溢れてしまいます。私の話は面白いです。ですが、面白かった〜で肝心な点を忘れないように。面白さと面白さの間に重要なこと言いますから聞き逃さないでください」と場内を和ませてからセミナーをスタートした。

そして最初に、今日一番の重要ポイントだと宣言し、次のように語った。
「6次産業化とは、農林水産省が推進している取り組みです。農業・漁業・林業などの第1次産業が生産したものを加工し、流通サービスの第3次産業まで行うこと。ですが、農家さんが1次2次3次全部をやるのは大変です。全部やらなくても、あるいは、1次2次3次の枠も、地域の違いも越えて、連携していくことができます。そういう事例を今日はたくさん紹介します。ですが、今日一番覚えておいてほしいのは、
それを誰に売るのか?ということです。つくってから誰に売ろうか、どう売ろう、ではありません。そういう方いませんか? まず、誰に、そして次に、何を、どう売るか、です。それが産業化です。副業的に6次化しようとか、利幅を上げるために6次産業化に取り組もうとか、ではなく、6次産業化というのは、新たに事業を起こすこと、つまり創業なのです。新たに事業を起こすのですから、誰に買ってもらうかをまずは決めないと、作戦の立てようがありません。何度も言います、誰に!という観点と、6次産業化は創業、です。今日はこれを基礎に授業を進めていきます」

さっそく増田氏は、6次産業化のヒントとなる北海道十勝地方の事例を紹介し、参加者に「誰」を想定したビジネスなのかを考える時間を与え、その後、問答を繰り返した。



次に、6次産業化への取り組みの有無により、経営者(企業)にどのような差が生じるのか、とあるアンケート結果をもとに解説した。着目すべきは、経営状況や売上高の変化など数字的なの結果だけではなく、事業化していくプロセスで生じるさまざまなメリットだ。6次産業化への取り組みそのものが、経営者あるいは企業の意識改革に大きく貢献していることが、アンケート結果に明確に表れている。

プロセスはこうだ。6次産業化に取り組むことで、最終消費者の顧客ニーズの理解度が深まる。理解が深まると、それに則した経営理念やビジョン、事業計画を立てるようになる。そうなると商品企画や商品開発に対する意識も変わる。さらに情報発信への取り組みも注力するようになる。同時に人材育成・人材教育への取り組みも熱心になる。そうなると、次はどうなるか? 3カ年の経営状況の改善・飛躍へとつながっていることが、アンケート結果からも見て取れた。増田氏はここで釘を刺した。

「間違わないでいただきたいのは、何か加工品をつくって売ればいい、ではなく、6次産業化に取り組むことでお客さんを見るようになり、農家がどういう人を狙うか考え、それに則して企業努力をするようになったということです! 6次産業化を目指すということは、事業を起こすということです。ですから決して甘い話ではありません。では6次化に取り組むことは困難なのか。それもまた違います。最初は小さく始めて、徐々に事業を大きくしていけばいいのです。つまりホップステップジャンプです」と語り、小さく始める6次産業化の形態について解説した。

6次産業化は、1次2次3次のすべてを1農家または団体で行うものだと思いがちだが、先のアンケート回答者のうち、4割は1次と2次、1次と3次という形態で6次産業化を実現している。販路も、BtoBかBtoCか、また加工してメーカーに卸すのか、加工しないでそのまま飲食に卸すのか、自分でつくったものを自分の農家レストランで使用するのか、などさまざまな道がある。つまり、1次2次3次のすべてを1農家または団体で取り組まなくても、誰に、何を、どうやって売るか、によって、1次と2次、1次と3次という形態でも6次産業化に取り組めるのだ。

さらに増田氏は、「どうやって」を軽視した反面教師的な事例として、自らが購入を途中で断念した経験談を、参加者との問答を繰り返しながら披露した。この「どうやって」も、と定めた「誰に」のことをどこまで研究し理解しているかで成否がわかれてしまう。

「商品やサービスは良い、けれども売れない、というのは、商品そのものに問題があると思いがちですが、そうではないのです。狙った人のことをきちんと理解していれば、クリアできること、気付くことがたくさんあります。何度も言いますが、誰に?が、大切です」





●6次産業化のヒント 素材を生かすプロと組む事例

続いて紹介したのは、連携による6次産業化事例だ。
農家単体で6次産業化に取り組むのは難しい。だが、単体で難しいならば誰かと組めばいいと増田氏は提案した。実際に、組むことで6次産業化している山口県周防大島町の『瀬戸内ジャムズガーデンhttp://www.jams-garden.com/』と地元の果実農家さんの事例、続いて、和歌山県有田市の「的場農園hhttp://www.matoba-farm.com/index.html」と和歌山市内のケーキ屋「ル・パティシエミキhttp://www.patissier-miki.jp/』との事例を紹介した。



いずれもみかんの名産地だが、現在は消費者の生果実離れが増え、需要も価格も下がり経営状況は厳しい。だが、素材を生かすプロとの出会いにより6次産業化を果たしている。
その出会い、なれそめ、どのようにして農家と食のプロが組んだのか。商品化のプロセス、エンドユーザーであるお客さんは誰か、全国各地の直売所で売っている商品とどこかどう違うか、ネーミングはどうか、それはなぜか、それにより、どのようなメリットが双方に生じたのか、地域への派生効果など、増田氏は参加者に問いかけながら、考えさせ、答えさせつつセミナーを続けた。





●6次産業化のヒント、農地を新たな視点で活用する事例

次に紹介したのは、熊本県八代市の7代目い草農家・岡初義さんの「やつしろ菜の花ファームhttps://www.facebook.com/nanohana987」。

参加者の大半が農業従事者または関係者だが、い草がどのように栽培収穫されているのか、知らない人がほとんどだった。
「い草は畳の材料です。ちょうど今頃の寒い時期に苗を植えて、7月の暑い季節に収穫しますから、農作業はとても大変です。しかもまっすぐに伸びて葉っぱもないので、倒れないようネットをかけて大切に育てています。普通の農産物は収穫したらそのまま卸しますよね? い草農家さんは収穫したらそれで終わりではありません。1本1本傷がないかをチェックしながら間引いて、中村式織り機という機械で織って、それをまた検品して、畳表(たたみおもて)という加工品にして納品します。ここまでが、い草農家さんの仕事です。1次2次までやるのが当たり前なのです」

「へーーーーーっ」と、参加者から驚きの声が上がった。

それほど大変な仕事だが、かつてはい草の名産地だった八代市内も中国産の安価な畳表に押され、休耕していく田が増加。そんな流れを何とか食い止めようと、岡さんは地元の有志に呼びかけ、2006年に7軒の農家で『やつしろ菜の花部会』を結成した。い草の伝統文化を守りながら、休耕地で菜の花を育て、景観事業と、肥料づくりと、菜の花商品化のサイクルを確立。この菜の花畑はちょうど九州新幹線の高架下に広がり、毎年春には、一面黄色の菜の花絨毯が広がり、今や人気のスポットにもなってたびたびテレビなどでも紹介されている。一方、菜の花で摂れた蜂蜜『宝蜜』、『菜の花米』、日本酒『菜々』など、続々と商品化もしている。岡さんが凄いのはそれだけではない。忙しい農作業の合間をぬって全国各地へ出向き、菜の花製品の販売はもちろん、日本の伝統である畳文化を守っていきたいのだと訴えているのだ。



「岡さんは各地へ出向いて話をするだけではなく、SNSやFacebookでも頻繁に情報を発信しています。岡さんの一生懸命な活動にもお話にも感動します。『買ってください』ではなく『応援してください』と、話を聞いていると応援したくなります。応援したくなった人は一口いくらかで『菜の花会員』という会員になります。そうすると、菜の花のイベント招待や、秋には新米と菜の花製品が送られてくるというしくみです。流通に乗せるだけが販路ではないのです。思いを伝え、応援者を募る。直に、です」

続いて紹介したのは、、北海道帯広市の井口芙美子さんの「いただきますカンパニー http://www.itadakimasu.cc」の事例。

農作業が終わった後の畑を活用し、畑でお散歩、かくれんぼし放題、畑で運動会など、食育と観光を組み合わせた体験プログラムを提供している。増田氏は写真とともにその楽しさに紹介。

「体験農業だと農家さんが指導もしないとなりませんから手間も労力もかかります。でも井口さんは、『何もしなくていいから、大農場の畑をフィールドとして使わせてほしい』と農家さんに交渉してこの事業を展開しています。都会の人からすれば、広大な畑の中で思いっきり遊べるのですから大喜びです。農家でも農家じゃなくても取り組める事例です」

さらに、同じく十勝エリアで、農地と人材を生かした真冬ならではのビジネス事例も紹介した。農業従事者はどうしても、農産物だけが商品・経営資源だと思いがちだが、農産物以外にもさまざまな経営資源があるのだ。さらに、不便や負のものと思われがちなものも、別の視点から見れば希少なものの。それらを組み合わせれば新事業にできる!という新発想に参加者は引き込まれていった。





●6次産業化の基本計画を設定 
“誰に”を定めると“どうやって”も見えてくる


休憩をはさんで始まった次のコーナーでは、誰に、何を、“どうやって届けるか”の新発想として、参加者に身近な福島県内の3件の米農家の取り組みを紹介した。米農家が近隣の非農家家庭へ精米・玄米を「どうやって」売るか。米農家が市内の高校生へ、おにぎりを「どうやって」売るか。米農家が市内のラーメン店に米粉製品を「どうやって」売るか。

ここで増田氏は、高校生向けのおにぎりの具は何かいいか、おにぎりにもう1品付けるとしたら何がいいか、参加者にアイデアを募った。すると、いかにも食欲旺盛な高校生向けの具材や、高校生が好きそうなオマケのアイデアが続々と飛び出した。



「高校生をイメージしたからこそ、出てきましたね!!普通は、つくったものがあってから、誰に、どうやってを考えがちです。ですが、今のように高校生だと想定したからこそ、いいアイデアが出るのです。たとえば一言で若い女性と言ってもいろいろです。既婚と未婚、既婚でも子どもがいる・いない、仕事している・していないでも違います。狙う相手のイメージをはっきりしていけば、何をどうやって売るかが見えてきます。今みなさんが高校生向けに出したアイデアがそうです。どうぞ覚えてください。“誰に”があれば、何を、“どうやって届けるか”も見えてきます」


●ワーク 6次産業化のための第一歩
「現状を見直し、6次産業化後を考えてみよう」


配布されたシートの項目順に従って、参加者それぞれが自身の6次産業化をイメージして記入していった。

・商品・サービス/現状は何?
 →それを6次産業化したら何になる?イメージして考え直してみる
・誰に売るのか/現状は誰に?
 →それを6次産業化したら誰に? イメージして考えてみる
・どうやって売るのか/現状の流通は? 販売方法は?
 →それを6次産業化したらどう売る? イメージして考えてみる

記入タイムの10分間、増田氏は、会場内を回り個別にアドバイス。ほぼ全員が書き終わったところで、すでに6次産業化で頑張っている3社の事業紹介と、その先輩経営者から6次産業化を目指す人へのメッセージを伝えた。

中には厳しい苦言もあったが、ここまでの講座で何度も増田氏が繰り返して来た「誰に?」の重要性と、6次産業化は起業であり、その取り組みのプロセスで得られる、経営体質改善と意識改革が明確に裏付けされていた。

・「誰かに売ってもらおうではなく、自ら、売ることの大変さを体験すべき。
  大変だからこそ、お客は何が欲しいのかを真剣に考えるようになる。
  売ることができない農家はつくれなくなる」
 →6次産業化は事業を起こすこと!

・「なぜ、農家が加工までして頑張るのかを
  スタッフにも理解してもらうことが大事であり、
  経営理念やビジョンを共有してもらう必要がある。
  そのためにも通年雇用をしないと6次産業化は無理」
 →プロセスで得られるメリット!

・「原料を持っている、生産している強みを生かし、
  万人に売れる商品ではなく、
  マニアックな人が買えばいいという発想で」
 →「誰に?」の重要性

ほかにも、
・「商品開発は、パッケージまで含めて商品と思え」
・「何とかなる、というのは甘え。見て聞いて行動せよ」
・「B級品の素材で商品化と考えたらうまくいかない。A級品で!」
・「買ってくれる・売ってくれる取り引き先に妥協せず、
  理想を一緒に語れるパートナーであれ」
・「固有名詞でのブランド化が必要」
・「目標はあくまで企業価値の向上で良い。その結果として、
  地域に根ざした企業へと発展できる」
などの先輩経営者メッセージが紹介された。

「6次産業化は起業ですから、従来の常識とは違う新しいことを始めるわけです。それを大勢の関係者や地域で話し合っていたら、話がまとまらことがあります。まとまったとしても、既存のものを超えることができず、古いもの、前例のあるもの、あるいは、レベルが低いところで話がついてしまったりしがちです。まずは自社で頑張る。そうすれば利益が上がり、外注もできるようになり、雇用も生まれます。結果的に地域に貢献ができるのです」

増田氏は、話し合いをしたがために千載一遇の好機を逃した某地域の実例を語り、本日の要点を以下のようにまとめた。

要点
1. 生産に対する誇りと技術を堅持すべし
2. さらに消費者の生の声を聞き取るべし
3. 加工・販売プロセスにも進出すべし
4. 農産物以外の経営資源も活用すべし
5. 売っている現場へ出向き、むしろ
  地域以外の人と付き合い、仲間となり、知恵を出し合い、力を合わせるべし。

そして最後に、
「6次産業化は決して難しくはありませんが、甘くもありません。それでも身近な事例がたくさんありましたよね。まずは1歩を踏み出しましょう。何度も言いましたが、“誰に?”を忘れず取り組んでください」とエールを贈りセミナーをしめくくった。








取材・文、撮影/岡部 恵


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