

起業支援ネットワークNICeチーフプロデューサー 増田紀彦

「それぞれが『こうしたい』という目標をもって動いていたら、そしてそれをまとめることのできる全体観を持つリーダーがいれば、新幹線の状況はまったく違っていたしょう。たとえば、今の中国で同じことが起こったらどうでしょう? われ先にと競うように車内へと進んだと思いませんか? 誰もが目的を遂げることに必死ですから。ひるがえって日本人は、強い目的意識を持って日々を生きてはおらず、だから希望も持てず、希望を実現するための行動も起こさない」
いつものように冗談を交えながらではあるが、やや暗いトーンで語り続けた増田氏。しかし、悲しい状況を目の当たりにしたことにより、NICeの仲間たちに伝えようと考えていたメッセージがさらに明確になったと、語気を強めた。
2007年春にNICeがスタートした当初、今ではおなじみの「つながり力」というキーワードは存在していなかった。起業支援ネットワーク環境整備事業として、流行の「SNS」を活用せよとの課題を与えられ、チーフプロデューサーの増田氏らスタッフが動き出したのは、半年後の同年秋のこと。
「呼ばれて行って、こりゃ、大変なところに首を突っ込んでしまったと思いました。予算は十分とは言い難く、一緒に働く人も確保できない。方針も決まっていない。また、それらをどうこうする権限も私にはない。今だから言いますが、何度も辞めてしまいたい気持ちにおそわれました。でも、『起業支援の火を消さない』が私のミッションだと思っていたので、踏みとどまり、続けているうちに、少しずつ出来ることがわかってきました。SNSというバーチャルなつながりだけに頼っていると限界がある。だからリアルで交流できる場もつくれば、相乗効果が生まれ、やがてはパートナーシップを生みだせるのではないか、そう考えるようになりました。経済産業省の仕様に『リアルな場を持て』という項目はありません。でも、それをやることがバーチャルを活性化させ、経済効果をもたらす道だと、私が勝手に判断しました。国が求めていることに応えるための方法は、自分で考え、実行するのが仕事を引き受けた人間の取るべき道だと思ったからです」
日記にコメントを付け合ったり、コミュニティで語り合ったりしていたメンバーが、初めて交流会で顔を合わせるときの気持ちは、「ペンフレンド」に初めて会うときのワクワク感に通じるものがあると増田氏はいう。
「気持ちを確認して盛り上がる。そして、会えない間は、またネットでコミュニケーションをとり、次に会う機会を待つ――この繰り返しが、強い人間関係を構築するんです。そして異地域、異文化、異業種、異世代etc. 立場や視点は異なるけれど、志は同じという人が出会うことで、知らないままに過ごしてきた他人の知恵に触れることができます。それが、今のような苦しい時代には何よりの価値になるんです!」
高度成長期やバブル景気のような時代なら、考えなしにがむしゃらに働いていれば、生活は守られた。しかし、今のように市場が疲弊した状態で、同業者が集まったところで愚痴合戦や傷の舐めあいになるのが関の山。その点、“異”と交われば傍目八目で、自分たちの中に眠っていた資源に気づいたり、相手が当たり前のようにもっている知恵や技術を活用したりと、目からウロコの発見が増えるはずだ。
実際、NICeのコミュニティや定例会をきっかけに、いくつかの新規事業やジョイントビジネスが芽を出し、花を咲かそうとしている。また、先輩起業家たちに励まされ、起業を実現した人も数多い。
「NICeは3年間の役割を終えて幕を下ろすことになりました。しかし、もし今後も税金を投入するなら、すべきだと思えるほどの価値ある取り組みに育っていると思っています。でも現実には日本の財政は、戦後末期の昭和20年頃と同じレベルにまで悪化しています。これ以上、国に頼るわけにはいかないのです。だから、参加者の皆さんからも『終了は仕方ないね』という反応が返ってくるのかと思っていたら、想像以上に熱いメッセージを数多くいただき驚きました。それであらためて、その偏執的とも言える愛にお応えせねばと私は一大決心をしたのです(笑)」
そう笑顔で語る増田氏は、SNSという“システム”ではなく、SNSによって培った“志のネットワーク”を守り、さらに発展させるために、新しい社団法人 を設立した。
自分の未来を自分で切り開く=自立した人たちにとっても、今の日本経済の状況は、決して甘いものではない。その2大要因とされているのが「円高」と「デフレ」だが、その意味を誤解している人が多いと、増田氏は警鐘を鳴らす。
「円高とか円安というのは、“以前に比べて”という比較論です。円高はゴルフのハンデのようなものと考えればわかりやすいでしょう。たしかに1ドル=360円の固定レートだった頃に比べて円は(対ドルで)高くなりました。それは、日本が努力して競争力を高めた結果、ハンデが上がったのです。ちなみに、発展著しい中国の元レートは、現在1ドル=8元前後で、日本円に換算すると120円くらいになります。すなわち、元は円に比べて対ドルで約3割強いのですから、7割にダンピングして日本に物を売っても平気です。世界経済というのは、基軸通過であるドルに対してバランスを取ろうとします。ということは、日本が頑張ってさらに力をつければ、またまたハンデキャップが減らされるだけのこと。つまり、円高は一過性の問題ではないんです。覚悟を決めないといけない。長年、日本の基幹産業が輸出産業だったから『円高歓迎』を声高に言う人がいないだけで、安い価格で物を輸入して国産品と競わせる仕組みを早くつくり出したほうが賢明です」

たとえば、増田氏が訪ねた新潟県の豪雪地帯では、家庭に1台ずつ国産の除雪機があり、その価格は30数万円。ところが性能レベルの近いカナダ産なら、10数万円で買える。「大企業が扱うほどのマーケットではないからこそ、小さい企業が参入すればいい。日本の技術を使って改良したり、メンテナンスなどアフターサービスも展開すれば、ビジネスチャンスにつながるかもしれません」
公共料金、地価、電車運賃など、事業に必要なものの価格は高いままなのに、懸命につくるものの価格は下げなければならないとは、なんとも辛い時代である。だからこそ、他社(他者)との連携によって自立を支え、同じ目標を持つ仲間とともに、自分たちが活躍できる将来を探していく気概が大切だ。
「大企業の間でも合併の話が続出しています。今後、アジアに市場の中心が移ったら、製造工場だけでなく販売の場やコマーシャルが流れるのも海外になり、日本からはあれもこれもなくなってしまうでしょう。でも、日本にはいいものがいっぱいありますす。私たちは、政府や大企業がやらない“小さなこと”を積み重ね、ヤル気とビジョンのある人、つまり目的と希望にあふれる人同士が連帯していけば、必ず面白いことになるはず。それを、猛烈に推進するのが、私たち現NICeの事務局メンバーで開始する新しいNICeなのです」
たとえば、バーチャル会議のシステムを使えば、東京で毎月開催されている定例会の様子を、全国各地のサテライト会場で観覧したり、意見交換をすることができるだろう。現在のNICe登録者数5000余名が、ひとつのテーマで結集することも夢ではない。
「もうダメだと思ったときこそ、転換期。昨日、私が見た新幹線の車内とはまるで逆の、自分で自分の未来を描き、その未来の実現のために意思を抱き、決断と行動することが楽しい。そう思う人たちが力を合わせられる場を、この日本につくりましょう。もちろん、私たち事務局だけではできません。皆さん、どうかお力を貸してください!」
増田氏とともに「一般社団法人起業支援ネットワークNICe」の理事に名を連ねるのが、現NICeシステムプロデューサーの久田智之氏と、現NICe事務局の中林あや子氏だ。

参加者:現NICeが終わったら、ホームページはなくなるのですか?

「NICe特別交流会」は、東京・東海(名古屋)でも開催されました。
1/25(月)東京


1/29(金)東海(名古屋)


ご来場いただきましたみなさま、ありがとうございました。
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