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第6回 NICe全国定例会 in 摂津」レポート


「第6回 NICe全国定例会 in 摂津」


 


2010年11月20日(土)、大阪府摂津市で「第6回 NICe全国定例会 in 摂津」が開催された。株式会社カネカ大阪工場と、NICe全国定例会 in 摂津の実行委員長・株式会社日鐘の代表取締役・永山仁氏との全面協力により、工場内が定例会の舞台になるというこれまでにないスペシャルな会となった。部外者がめったに立ち入ることができない製造工程の現場見学&頭脳交換会、NICeチーフプロデューサーの基調講演という3部構成の4時間半。参加者は地元大阪府を中心に、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、滋賀県、京都府、兵庫県、和歌山県から総勢32名が結集した。
 


企業秘密満載の製造現場だけに、まずは事前申込み者全員が
正門前に集合し、点呼の後、守衛室の前を通って敷地内へ

 

■オープニング



NICe全国定例会 in 摂津の実行委員・株式会社日鐘 管理部長 前田和幸氏の司会によりスタート。


▲司会を務めたのは、株式会社日鐘 管理部長 前田和幸氏


▲第6回NICe全国定例会 in 摂津の実行委員長・株式会社日鐘の代表取締役・永山仁氏

 


実行委員長・永山氏から、協力への感謝と参加者への歓迎の言葉が述べられ、続いて開催にあたって意気込みが語られた。
「NICeは鏡であり、知恵の宝庫だと思っています。日鐘の強みは何だろうとNICeメンバーと話しをしていた時に、『すぐに言える強みがひとつある。それは上場企業のカネカさんと付き合っていることだ』と言われたのです。自分では当たり前すぎて意識していない強みをズバッと他者が見付けてくれる。それがNICeのすごいところのひとつだと思います。異業種、異地域、異世代のつながりで、1×2×3を6以上にするNICeに、異規模を掛け合わせたらどうなるのだろう、そう思い、カネカさんの全面協力のもと、今回の定例会の企画を立てました。めったに見られない現場ですので、様々なことを大いに吸収していただければと思います」
 


 

■異規模のスケールを体感する、

株式会社カネカ大阪工場の概要



永山氏が強調した「異規模」。それがどのくらい規模が異なるものなのか。敷地内へ入るだけでも厳戒体制であることから、規模の大きさは感じていたが、そのスケールの度合いを、この後、参加者たちはすぐに実感することになる。株式会社カネカ 大阪工場 管理グループ勤労チーム主任・橋本啓三氏から、カネカさんの会社概要と大阪工場についての説明をいただいたからだ。
 

壇上に立った大柄な橋本氏は、風邪気味と断りながらゆっくりとお名前を述べ、「今日は私以外にも、けいぞうさんがいるようで、親近感がわきます」と場内の緊張をさりげなくほぐしてから、概要説明を始めた。
 

株式会社カネカ 大阪工場 
管理グループ勤労チーム主任・橋本啓三氏
 

まず最初に、化学メーカーというのは、大分すると3つになるというポジションの説明から。わかりやすく例えたのが、川上、川中、川下という表現だ。川上とは、原料をつくるメーカーであり、川下とは、最終商品を消費者に提供する、いわばCMなどで私たちがおなじみのメーカーのこと。そして、その中間の川中にあたるのがカネカであり、川上から供給された原料に、技術的な付加価値を付けて中間素材や最終製品に近い形にし、川下へ供給するポジションだ。
 

次に、カネカの会社概要について。まさに、異規模を示す数字と事業内容の幅広さに、参加者は一様に驚いていた様子だ。その一部を列挙する。

 

・設立 昭和24(1949)年9月1日
2004年9月1日、鐘淵化学工業株式会社は株式会社カネカに社名変更
・資本金 330億4600万円
・売上高 5029億円(連結決算)、3136億円(単独)
・従業員数 27500名(関連含)、3300名(単独)
・事業所/大阪本社、東京本社
工場/高砂(兵庫県)、大阪、滋賀、鹿島(茨城県)
研究所/大阪、高砂
海外/アメリカ、ベルギー、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、中国、インドなど
・事業内容 /技術で大別される下記7事業の製造及び販売。
1 化成品 2 機能性樹脂 3 発泡樹脂製品 4 食品 5 医薬品・医療機器
6 電子材料エレクトロニクス 7 合成繊維
 

橋本氏によると、もともとカネカは発酵技術と高分子技術をメインに、有機合成技術や樹脂加工製造などへと発展してきたという。創業以来、何よりも大切にしてきたのが「技術」だと橋本氏は語った。そのベースとなる技術で大別すると、上記7事業に分けられるとし、4の食品では、知らない者がいないほど各社の商品名の数々を、また5の医療では、還元型コエンザイムQ10で世界トップクラスのシェアを誇るなど、7事業の特徴を具体的に示した。
 


 

そして、私たちがこの後の見学で訪れるのが、7つ目の合成繊維部門だ。そこでは、カネカのオリジナルモダクリル繊維「カネカロン®」をベースに、ヘアウィッグやカツラの最終製品に近い形まで製造している。人毛に近い風合いと難燃性を併せ持つ「カネカロン®」は、ヘアウィッグやカツラ、高級ぬいぐるみや有名ドールのヘアー、フェイクファーやインテリアなどにも使用されており、また、他の繊維と混紡して難燃化する新しい難燃繊維も開発したという。
 

続いて橋本氏は、大阪工場について説明した。ここは淀川に近く、もとは広大な沼地だったそうだ。そこに昭和10年、外資系企業が誕生し、昭和16年に鐘紡が買収。昭和24年にカネカの旧社名である鐘淵化学工業株式会社 大阪工場が鐘紡から独立。平成12年には敷地内に研究エリアも整備された。この大阪工場は、カネカさんの創業の地ということだ。
 

この敷地内には、カネカ7事業部のうち4事業(機能性樹脂、発泡樹脂製品、合成繊維、医療機器)の製造部門があるほか、研究棟、独身寮、社宅までもあり、その広さは、なんと甲子園10個分に相当するという(高砂工場は甲子園27個分!)。大阪工場の従業員数672名のうち、研究開発345名、製造193名、スタッフ70名、エンジニア36名、そのほか28名が従事している。
 

この広大な大阪工場の一角には、初期の塩化ビニール製造装置のモニュメントが展示されているそうだ。私たちも工場見学の際に立ち寄れるという。
 

「今見れば小さく、すでにさびてはいますが、先人たちに尊敬の念を感じます」と、橋本氏は静かだが熱く語った。社員でさえじかに手に触れることが禁じられているという初期のモニュメントが、創業の地に遺されている……。今や世界に誇る数々の技術と製品を生み出し、これほどの規模に成長している大企業であっても、その原点を忘れない。ものづくりの精神ともいえるカネカさんの企業理念に触れた思いがしたのと同時に、企業の成長も、また今回のような会も、日々の努力と信頼の積み重ねがあってこそ実現するのだと改めて感じた。何ごとも1日にして成らず。つながりもまた、同様ではないかと。
 

■製造現場の見学を前に、工程の予習と安全ルールを学習


 

この大阪工場で日鐘さんは請負6部署、派遣4部署の計10部署に携わっており、見学するのはその請負の1工程であることが、司会の前田氏から説明された。そして、見学現場の予習をレクチャーしてくれる日鐘 経営革新チームリーダー・田野正和氏を紹介した。
 

見学前に現場工程を説明してくれた、
株式会社日鐘 経営革新チームリーダー・田野正和氏

田野氏からは、どのような工程で製品化されるのかパワーポイントで説明がなされた。続いて、見学するにあたってのルールがあると述べ、その説明は、製造グループリーダーの金城泰幸氏からと、バトンを渡した。


工場内の安全ルールとその意義を解説してくれた、
株式会社日鐘 製造グループリーダー・金城泰幸氏

金城氏によると、工場内の基本ルール、工程に入るまでの基本ルール、工程に入ってからの基本ルールの3つがあるという。

●工場内の基本ルール

1 手すり持ちの実地(階段は1段ずつ)
2 ポケットに手を入れない
3 工場内を走らない
4 挨拶の徹底(1A+3Sの励行)

誰もが守れるルールをきちんと守ることが、製造現場に求められる様々な細かなルールが守られることへとつながり、しては大きなルールが守れるのだと金城氏は述べた。

●工程内に入るまでのルール

1 歩道内を歩き、横断歩道で左右確認
2 先の状況を確認しながら歩く
3 携帯電話の電源オフ(撮影禁止)

●工程内に入ってからのルール

1 撮影禁止
2 緑色の通行帯を歩く
3 機器に触れない
4 火気厳禁
 

そしてヘルメット着用の仕方をご指導いただいた。ヘルメットを着用する目的は、モノが飛んでくるのを防ぐだけでなく、予知しない事故から自身を守るという意識を持つことが重要とのこと。「妙に似合う自分ってなに?」「うまく調整できな〜い」など、とまどいながらも参加者全員が装着したのを確認した後、いつも日鐘さんが始業時に行うという「安全唱和」を全員で行った。
 

 



 

足は肩幅に広げ、左手は腰に、右手で対象物を狙い、人差し指に集中する。そして、こう言うのだ。
「かまえて」 全員で「ヨシ!」
「ゼロ災でいこうヨシ!」 全員で「ゼロ災でいこう!ヨシ!」
こうして準備万端整えた私たちは、3班に分かれて、いよいよ現場見学へと出発した。

 



ゼロ災でいこう!ヨシ! 全員で安全唱和してから、いざ工場見学へ!

 

 

(右写真)大阪工場の敷地内にある1950年製造の塩化ビニール製造装置モニュメント。
通常は非公開。国立科学博物館の「産業技術の歴史」でも紹介されている
 

初期の塩化ビニール製造装置モニュメントを見た後に、工場棟へ。戦前に建てられた建家は、あの阪神淡路大震災でもまったく被害がなかったという。私たちは迷路のような通路と階段を経て、工場内の奥へ奥へと進んだ。その途中途中で自然と「手すり持ち!ヨシ!」「頭上注意!ヨシ!」と互いに声をかけあっていたのは言うまでもない。
 

工場棟で案内されたのは、田野氏からレクチャーを受けた部署。工程を経るたびに、糸状の製品が益々つややかになっていくのが見て取れた。最後に、全行程を終えた製品に触れさせてもらったが、人毛に近いどころか、高級サロンに足しげく通い手入れが行き届いたかのような美しい人毛そのもの! これが大阪工場から出荷され、次に「川下」のメーカーへ供給され、製品化され、美しい髪を求める世界中の人たちに喜ばれるのかと思うと益々興奮した。
 



 

■基調講演


 
一般社団法人起業支援ネットワークNICe 増田紀彦代表理事 
 

「つながり力」の強化で、

みんなが幸せになれる経済を!




サンプルのカーリーヘアのカツラをかぶり、笑いと拍手の中で増田氏の基調講演が始まった。
「工場見学の話をしたいところですが、その前に、つながり力について話をします。NICeはつながり力をテーマにしています。単体の小さな企業や地域が、『まさか組まないよね』、という既成概念を捨て、大胆につながることで、お互いの中に眠っているもの、気付かない資源を、足したりかけたりする。それによって、大きな力が生まれるというのが、つながり力です。異なるものと組むことで、新しいマーケットをつかむ、新しいサービスをつくり出せるという実例が実際にたくさんあります。今日はその中でひとつだけ、お話しします」
 

■つながり力を発揮して新市場を獲得した

小規模ビジネス実例




増田氏が実例紹介したのは、カツラのインターネット販売「かつらウィズ」。
 
話しを要約するとこうなる。
ウィズの代表・宮崎弥生氏は、もともとWebデザイナーだった。宮崎氏がカツラ事業に進出したきっかけは、参加した異業種交流の雑談の中で、男性用カツラが高額なことに驚いたことが始まりだという。
 
これまでの男性用カツラは、ユーザーが専門のサロンへ行き、そこで採寸してオーダーするのが常だった。カツラ業界は“待ち”の営業手法となるため、集客するにはより多くの宣伝露出が必要になり、その分どうしても商品価格にも影響する。さらに、カツラを装着したユーザーは、時間とともに地毛との調整が必要となるため、一度カツラをつくれば終わりではなく、アフターメンテナンスも含めての出費は相当の高額に及ぶのだという。これを知った宮崎氏は、カツラユーザーがカツラを選定する際にネット検索していることに着目した。
 
もっと低価格の男性用カツラができないか。専門のサロンではなく、採寸もでき、アフター調整もでき、Webも使える理髪店と連携したらどうだろう。カツラ探しでせっかくネット検索をしているのなら、そういう層を取り込めるのではないか。何より、これまで顧客のためにつくってきた自分のWeb技術を活かせるのでは。

 


宮崎氏は、得意のWebで情報収集に取り組み、製造先と協力してくれる理髪店を探り当てた。顧客は採寸のために理髪店を訪れて、理髪店は採寸データを宮崎氏へ送信し、オーダーメイドのカツラができるわけだが、顧客はその後も、地毛との調整のために定期的に理髪する必要がある。つまり、理髪店にとっては、末永い固定客を確保できるというメリットが得られる。だから協力を求めることができたのだ。

 


ユーザーメリット、理髪店のメリットを兼ね備え、インターネットに特化した宣伝と既存の理容室・美容室をサービス拠点にしたことで、中間マージンを大幅に削減。これまで高額が当たり前だった男性用カツラを、高品質の低価格商品でしかも通販という新スタイルにより新市場を獲得した。連携する理容室・美容室の数もさらに拡大し、現在では、男性用だけでなく女性用でも市場を広げ、最近のNHK特集番組では、アデランス、アートネーチャー、そしてこのWithの3社が肩を並べて紹介されたのだという。

 


宮崎氏が創業間もない頃から面識があるという増田氏は、その活躍を嬉しそうに話し、参加者に、後に続け!とばかり、こう語った。

 



一般社団法人起業支援ネットワークNICe
増田紀彦代表理事

 


「宮崎さんひとりだったら不可能でも、元々いる全国の理髪店や美容院と組むことで、今までになかった通販型の高品質低価格商品を実現したのです。こういうことをもっと起こしたいというのが、NICeが考えていることです。宮崎さんは、Web制作の依頼がまだ多かった時期から、下請けに甘んじているといずれ苦しくなる時代が来るという強い危機感を持っていました。それでいろいろな異業種の集まりに積極的に参加して、懇親会の雑談の中からヒントを得たのです。危機感を持っていたからこそ、自分でしっかり切り拓くために他者と組むことを考えたのです。この実例の他にも、若い人やひとりで事業をしている個人事業主が、異なる人と組むことによってビジネスチャンスをつかんだ事例はたくさんあります」

 


ここで改めて、増田氏はNICeの「つながり力」とは何かを強調した。
参加者に配布された資料にはA4の一枚に大きな文字で打ち込んである。原文はこうだ。

 


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「つながり力」とは何か?

 




情報と知恵と志の共有・循環を通じて、異業種・異職種、異地域、異世代が 持っている有形無形の経営資源を結集・統合し、一企業や一個人では生み出せないビジネスや、単体地域では形成しえない市場を生む力。

 


また、そのプロセスを経ることによって、その企業や個人が自らの資源を自覚し、「他者とつながるに値する」自己を構築する力。

 


悪しき個人主義や依存的集団化傾向を越え、日本の底力を引っ張り出すのが「つながり力」。

 


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増田氏は、センテンスごとにゆっくり読み上げ(正確にはソラで言っていた)、NICeが国の運営から民の運営へと変わっても、「つながり力」の真意に変わるところはない。だが、「循環」の意味がさらに増えてきていると続けた。

 


例えば、Aの知識をBを介してCへという循環だ。AにとってもBにとっても必要のないAの知識も、Cにとっては有益な知識になるかもしれない。自身が無用でも、惜しみなく他へ伝えることで、そこからまた別の他者に活かせるかもしれない。その循環を惜しまずに提供していこうという意味だ。

 


「人は思い込みで、どうせ役に立たない、と思ってしまうものです。ですが、この“どうせ”が宝の持ち腐れに成るのです。では、どうすれば、一見関係ないと思う相手に情報を開示できるのか。そのためには仲良くなることなのです。仲良くなる前は、『私は○○です』『あぁそうですか』で会話も終わってしまいます。ところが人間関係ができてくると、たくさん話すことが出てきます。その中から、『だったらこうすれば?』や『こっちの業界はこうだよ』というやりとりが生まれてくるのです」

 


今日の講演で実例はひとつ、と先に宣言していた増田氏だったが、我慢ができずかここでコインロッカーの電子キーの例を紹介した。

 


某所のコインロッカーの電子キーは、かつて鍵の専門企業が製造しており、とても高額だったのだという。それをある人物が、電子部品会社に打診した。「おたくならいくらでできる?」「6かな」。「え?6?」「いや、じゃ5」。元の半値以下の数字に驚いたそうだが、よくよく聞くと、桁さえも違っていたのだという。数字に例えるならば、10000円だったものが、電子部品会社では500円でつくれるという回答だったのだ。

 


『餅は餅屋、鍵は鍵屋』という思い込みから、コインロッカーの所有者は、電子キーは鍵屋に頼まねばと思い込んでいた。そして電子部品会社はまさか自社技術や製造ラインを使って鍵をつくるなどとは考えてもみなかった。このように、世間では当たり前と思っていたこと、業界では当たり前と思っていたことが、他者を介してみると、当たり前ではなくなり、気付かなかった価値までも生み出すのだ。

 


 


異なる属性の他者とつながることで、ほかにも大切な発見があると増田氏は続けた。
「業界で出来上がってしまった常識や、常識的な価格というのが、異なるものにより別の世界の存在を教えてくれるのです。ぜひ、異なるもの同士で接触してください。そしてお互いの常識を話し合ってみると、いろんな存在を発見できます。もうひとつ、つながり力で大事なことがあります。

 


自分(自社)が何か他社に役立てることがあるという発見だけでなく、自分(自社)の経営資源の核と成るものを、本当に一番すごいところはどこかを、気付かせてくれるのです。最初のあいさつで、永山さんが“強みを教えてもらった”と言っていましたが、他者から言われるまで本人はそれが強みとは思ってもいないのです。他者から見てわかる強みというのは、さらにそれを伸ばす努力ができる、経営に注力すべき判断ができるということです。そのためにも、他者とつながるに値する己であれと。他者によって見つけ出してもらうだけでなく、互いに気付きを与え、発展を与え合うのです。

 


世の中はどうしても、成長産業、成長戦略という言葉に敏感で、早く新しい市場をつくろうと政府も経済界も謳います。それもひとつではありますが、新技術や新産業を開発するには時間もコストもかかります。今、既にあるもの、改めて見直して見つかるもの、知恵も資源も必要なところへ循環させていけば、もっと経済が元気になるのです。

 


悪しき個人主義ではなく、強いものに一方的に頼るのではなく、堂々と自分のいいところ、相手のいいところを出し合い、組み合わせて、気持ちよく元気な経済をつくる。それができると思いますし、日本中でそんな活動を引っ張り出していきたいと思います」

 


増田氏はここまでの話を総括するように、おまけと称して、「つながり力で高め合える、起業家に必要な5つのパワー」を挙げ、それぞれを解説した。

 


1 実行力
2 直感力
3 革新力
4 発信力
5 肯定力

 


1の実行力は、本人の意思が大前提ではあるものの、「どうしようかな。やっちゃおうかな」とやる気があるところに、他者が背中を押してくれることで実行しやすくなる。2の直感力は、無意識的に収集できる引き出しの多さが増し、判断材料が増すことで直感が高まっていく。3の革新力は、既存の業界の常識にしばられず、思いつき力が高まる。4の発信力は、誰にどのように伝えれば有効かが身に付いていく。5の肯定力は、異なる視点で見てくれる他者の考え方があることで、たとえ失敗しても、次へのステップであるという視点に切り替えられる。この5つはどれもこれも、ひとりで悶々としているだけでは身に付かない、同じ属性だけでは得られないパワーだ。そして、忘れてはいけないのは、つながってみようかな、つながろうと思う実行力が、まずは大前提にあってこそということだ。

 


「もったいないもの、既にあるもの、得意なものを互いに活かして、得意なことで仕事ができる。そういう幸せな会社経営、幸せな人生を実感できるような世の中をNICeの活動を通して皆さんと一緒につくっていきたいと思います」と、新生NICeの目指す方向性を総括し、講演を締めくくった。


 


 


■ 「異なる」利を最大限に活用する、

NICeならではの頭脳交換



 


休憩を挟んで、工場見学後の頭脳交換会が始まった。ファシリテーターは、前半が増田氏、後半からは永山氏が担当。どのようなテーマで参加者が話し合うのか、事前に説明は何もなかった。「技術の専門家じゃないし、何も発言できないかも」そんな心配をした参加者も少しは居たかと思うが、まったくの杞憂に終わったはずだ。なぜなら、増田氏が最初に問いかけたのは、「見学して、どこが良かったか、ではなく、逆に、気になったところは?」だったのだ。

 


参加者それぞれが、自分の感覚で答えられる最初のお題目。それは、見学前に金城氏から指導を受けた「基本ルール」に共通しているではないか! 誰もができることから守るという、階段の手すり持ちの「基本ルール」。誰もが守れることが、しいては現場に、全体に通じる。それと同じく、誰もが言えるテーマは、全員が考え、発言でき、現場に、全体に発展できる。その意を汲んでか、率直な感想が次々と飛び出した。

 


感想をひととおり聞いた後、次のお題目へと展開した。
「気になるところをどうすれば変えられるか」だ。「特に安全性が大切な場所なので、安全性をアップするためにどんなアイデアがありますか? コスト除外視で思いつきをどうぞ」。コスト除外視の思いつき。まさに、“どうせ”の型を外し、革新力を涵養する瞬間だ。ここでもうひとつ思い出すのは、講演で事例紹介されたカツラWithのこと。宮崎弥生氏の最初のきっかけは、男性用カツラの価格に驚いたことだ。自分の感覚で「驚いた」ことから、解決策を探り当て、事業化した。そんな関連性に気付いてか、参加者からは次々とユニークなアイデアが、専門家からは最新情報が述べられた。

 



書記を務めたのは、和歌山県から参加した、
和歌山県中小企業団体中央会の黒江政博氏

 


まだまだアイデアは尽きないが、約1時間に及んだ頭脳交換会はここでタイムアップ。貴重な機会と労力を惜しみなく提供し、開示してくれたカネカさん・日鐘さんのご厚意に対し、全力で報いようとするかのように惜しまずアイデアを出すNICeな仲間たち。ひとり一人の発言を真剣な表情で聞く田野氏、喜々としてメモを取る金城氏、そのおふたりを嬉しそうにまぶしそうに見ていた前田氏と永山氏。決して批判や否定ではなく、「異なる属性」だからこそ気付く感覚、そこから生まれる自由な発想、繰り出される建設的な意見。それらが飛び交うNICeならではの頭脳交換会はこうして幕を閉じた。

 


異規模の懐中で開催された今回のNICe定例会。どれだけ異なる規模であっても、異なる属性であっても、臆することなく、誰もが自身の感覚・価値観・経験から、何かしら気付けることがきっとある。そこから、誰かのため、仲間のために、また第2、第3の宮崎氏に続く発展の可能性があるのだということも改めて実感させていただいた。舞台も学びも体感も感動も、まさにスペシャルな「第六回 NICe全国定例会 in 摂津」はその熱気を帯びたまま、名残惜しくもフィナーレを迎えようとしていた。

 



工場見学の感想をもとに行われた頭脳交換会。
参加者それぞれが自身の感覚で率直な感想を述べ合った後、
安全性や休憩室の装飾に至るまで、ユニークなアイデアが次々と飛び出した

 


 


■講評



株式会社カネカ 大阪工場 管理グループ勤労チーム主任・橋本啓三氏から講評をいただいた。

 


「つながり力、とてもいい言葉だと思いました。異業種、異職種、異地域、異規模、まさにカネカの事業展開も、つながりの力だと感じました。7つの事業があると最初の概要で述べましたが、7事業が互いに強みを活かしていますし、それぞれの部門で開発した技術がつながっていることも多々あります。もうひとつ、日鐘さんとのお付き合いも、つながり力だといえます。永山さんと前田さんとの出会いは5年前になります、それからずっとお付き合いしています。そんな日鐘さんのビジネスを通してのお考えにも共感しました。フォークリフト教習事業もクレーンも、素晴らしいアイデアだと思います。土日には工場の駐車場が空く。カネカの社員も免許が必要。うまいなぁと。それもNICeの力があったからかなと思います。永山さんは皆さんご存じのように、大変いい人物なので、今回は彼を男にせなあかんなと100%全面協力しようとこの日を迎えました。これからも日鐘さんとのつながりを深めていきたいと思っています」

 



企業の中にも、また取引先との間にも「つながり力」は存在すると
力強い言葉で総評くださった、
株式会社カネカ 大阪工場 管理グループ勤労チーム主任・橋本啓三氏
▲▼「けいぞう」つながり

 


続いて、起業支援ネットワークNICe理事・高橋慶蔵氏からあいさつ。

 


「今日はカネカさんのご協力のもと、貴重な体験をさせていただきました。どうもありがとうございました。大阪でのNICeで初めてお会いする方も多いですが、初めてでもすぐに話せるのがNICeのいいところだと思います。リアルとバーチャルがうまく組み合わさって、つながっていくことを今日また再確認しました。NICeは国営から民営となり、今、移行期にありますが、本来あるべき姿に近づいていると思っています。『なくてもいいけれど、あったほうがいい』。増田さんが以前、メルマガにそう書いていましたが、今やなくちゃいけないとの思いが強くなっています。10年経った時、NICeをやっていて良かった、だから今の日本がある。そういう活動にしていきたいと。それは理事など一部の人の力だけで成るものではありません。皆さんの協力とつながりがあってこそですので、これからも楽しく、よろしく、やっていきましょう」

 



新潟県小千谷市から参加した、
新潟県小千谷市教育委員会生涯学習スポーツ課主査、
起業支援ネットワークNICe 理事・高橋慶蔵氏 
▲▼「5月5日誕生日」NICeつながり

 


 


■実行委員長・永山仁氏からメッセージ

 



NICe全国定例会 in 摂津の実行委員長・
株式会社日鐘の代表取締役・永山仁氏。
多大なるご尽力に感謝!

 


「7年前に先代社長から承継しましたが、安全管理体制を刷新するため、ゼロ災にしなくてはという危機感ばかりで、社長としての仕事をしていなかったというのが正直なところです。というよりも、その必要がなかったのです。カネカさんに委ねていれば良かったからです。しかし、リーマンショック後に変わりました。カネカさんは本当にいい会社で、うちを切ることをしませんでした。それはとてもありがたく、嬉しい反面、情けなくもあったのです。何かせなあかんと思い続けていて、誕生したのが、フォークリフト教習事業でした。それまでうちの社員も他の教習所で受けていたのですが、シフト業務の変更で予約を変えようと事務の石崎が電話すると、相手がとても無愛想だと。そんな話をしている時に、うちの前田が「じゃ、うちでやっちゃう?」と。教習事業を始めたのはまさに勢いだったのですが、でもそれは資源なのだと、2009年6月の増田さんの講演を聴いて、後付けで理解できたのです。

 


他にも展開したいと、今、緊急人材育成支援事業をNICeのメンバーと一緒にやっています。日鐘単独ではできないことも、皆さんとつながることによって、僕らにも資源があるんだと気付かせてもらえる。今日の定例会も、そんなメンバーから教えてもらった気付きから、異規模と掛け合わせたら、と企画したものです。

 


定例会を実行するのはパワーが要りますが、こんなに大きくなくても、2、3人の集まりでも、ゆるく、気軽にでもいいと思うんです。どんどん盛り上げていきましょう。大阪で、京都で、姫路で、滋賀で、和歌山でと、NICe関西も始まっています。もっともっとお互いを知って、ハッとしたり、ドキドキしたりしながら、みんなで仲間を増やしつつ、この国を盛り上げていきましょう!」

 



取材・文、撮影/岡部 恵

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