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NICe増田代表理事が送る、新たなビジネスチャンス発見法と実現へのヒント。11日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
第56回 「職園」天国



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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」

   第56回 「職園」天国
 
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それが芋穴なのか防空壕なのか、あるいは枯井戸なのか、
子どもの私にはわからなかった。
垂直に掘られた穴の直径は1メートルくらい。
深さは、たぶん4メートルほどだったと思う。

ふだん、穴は塗炭板で塞がれていたが、固定されているわけではなく、
幼稚園児の私でも蓋をずらして、穴の奥を覗くことができた。

覗いてみて、息を飲んだ。
穴の底に、大きな大きな青大将が鎮座ましましていたからだ。

神秘的というか、幻想的というか、
ずらした蓋のすき間から差し込む太陽光を浴びた青大将は、
神々しいほどの威容を誇っていた。

5歳かそこらの私の心の中で、功名心が鎌首の如く立ち上がった。
「こいつを捕まえて、みんなに見せたら賞賛される」と。

その日から、長い戦いが始まった。
一週間、二週間、一カ月……。

教諭や同級生の目を盗んでは穴に出かけ、
あの手この手で地中から青大将を引っ張り上げようと試みた。

とはいえ、穴は深い。
はじめは竹竿で引っ掛けて、引っ張りだそうとした。
十回に一回くらいは、その竿に絡まってくれるのだが、
引き上げようとすれば、いとも簡単にスルスルと下に落ちてしまう。

縄の先端に輪を結って、その中に首を突っ込ませようとしたこともあった。
そう書いていて気付いたが、
縄を結んだのは、この時が初めてだった気がする。

いや、そもそも、自分で目標を決め、その達成方法も考え、
誰にも頼らず、目標に挑み続けた経験は、間違いなくこの時が最初だ。

戦いの結果について言えば、引き分け、もしくは私の負けだった。

我が宿敵が忽然と姿を消したのである。
どこかへ移動したのか、それとも他人に捕まってしまったのか……。
おかげで、人生初の「意気消沈」を経験した。

その深い穴は、幼稚園の敷地の一角にあった。
敷地の大半が林で、それこそ穴も丘も祠もあった。
土、石、沼、小川、木々、草花、虫、小動物、光、風……。
幼児の成長に役立つ要素がすべて揃った「園(その)」だ。

今にして思えば、私にとって幼稚園は、
学園であり、遊園であり、公園であり、植物園であり、動物園だった。
それこそ、子どもにとっての楽園だった。

元来、「園」という字は、「口」(国構え)が示すように、
一定に仕切られたスペースを指すものだが、
私が通った幼稚園は塀も生け垣もない、出入り自由の林と一体だった。

多少譲って、仕切りがある幼稚園でも良しとしよう。
大事なことは、そのスペースの中に何があるかだ。
換言すれば、そのスペースの中の多様性がいかほどであるかだ。

さて、幼稚園での日々を終えた子どもたちは学園へ進む。
では、学園を巣立つと、今度はどこへ行くのだろう?

農業に従事すれば、農園や田園、果樹園という話にもなるが、
多くの人の進路の先に、もう、「園」は待ち受けていない。

仮に、私が就職を考えている学生だとして、敷地内に学園があり、
遊園があり、運動公園があり、植物園があり、動物園がある会社なら、
業種や職種は二の次で、何としても入社したいと願うだろう。
多様性に満ちた空間こそ、人間を成長させる何よりの環境だからだ。

そんな会社があるなら、私はそこを「職園」と呼びたい。

スペースの問題ではない。

一本のケヤキがあれば、木登りもブランコもツリーハウスも楽しめる。
数本のコナラやクヌギがあれば、昆虫採集ができる。
一坪あれば、池を作って釣りができる。
二、三坪あれば、植物栽培もできるし、秘密基地も作れる。
一部屋あれば図書館ができるし、もう一部屋あれば美術館や博物館もできる。
やる気になれば、何だって設けられる。
どれもこれも、「ミニ何々」で十分だ。

そんなオフィスビルを建てる会社はないだろうか。
いや、そうはいないだろうからこそ、ビジネスチャンスだ。
建築事務所やデベロッパーが効用を含めて提案していけばいい。
行政と民間が組んで再開発プロジェクトの目玉にするのも面白い。
オフィス街にそういう空間を作って、会員企業に利用してもらう方法もある。

木のあるオフィス。生き物が集まるオフィス。
風が抜け、水がせせらぎ、光が満ちるオフィス。
そして、社員も社員以外も出入り自由の街のようなオフィス。
なんなら、社内に屋台や露店を出店させたっていい。

多様性を最大限意識した幼稚園(保育園)、学園、そして職園。
そんな環境で人生を重ねられれば、
日本人の創造性は、もっともっと高揚するに違いない。


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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.198
(2023.11.13配信)より抜粋して転載しました。
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