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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
「小さな会社」と「企業買収」の関係



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

 
第128回 「小さな会社」と「企業買収」の関係
   
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【「お買い得商品」扱いの日本企業】

セブン&アイ・ホールディングスに対し、
カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールから、
買収の提案があったというニュースが流れたが、
9月に入ってセブン&アイはその提案を拒否した。

もっとも、「当社に最善の利益をもたらす提案について、
真摯に検討をする用意がある」とも言っているので、
この買収劇はまだ幕引きとはならないだろう。

これだけの規模の買収提案があっさり出てくる状況は、
日本円と日本株がいかに安いか、言い換えれば、海外から見て、
日本企業がいかに「お買い得」かということの証左にほかならない。


【日本の「ハワイアン」が外資の「ハワイアン」に】

セブン&アイ関連のニュースに目を奪われていたら、
福島県いわき市に本拠を置く常磐興産を、
アメリカの投資ファンドが買収するというニュースが飛び込んできた。
こちらはすでに決定事項だ。

常磐興産は「スパリゾートハワイアンズ」を経営する上場企業。
昔の「常磐ハワイアンセンター」と言えば、ピンとくる方もいるだろうか。

私はいわき市とご縁が深く、個人的にも衝撃を受けたが、
それ以上に、東北地方の古いリゾート施設が、
海外ファンドの買収対象になったことのほうに驚かされた。

フラダンスショーやウォーターパークなど、
同施設のコンテンツが評価されたのだという誇らしい気持ちの半面、
前述のように、やはり日本企業はお買い得なのかという寂しさも覚えた。


【企業買収を積極的に推進する経済産業省】

一方、日鉄によるUSスチールの買収計画もある。
アメリカ政府は日鉄が求めた買収審査の再申請を承認したが、
アメリカは外国資本の企業買収に対して反発的な空気が強く、
いつ、どのようなかたちで買収が実現するかは依然、不透明だ。

対する日本はどうか?
結論から言えば、日本はアメリカよりも柔軟に外資を受け入れている。
「受け入れざるを得ない状況」だからとも言えるが、
買収反対運動が広がったこともないし、
日本政府が買収に横槍を入れるようなことも、あまりない。

むしろ政府(経済産業省)は昨年8月、
「企業買収における行動指針」(ガイドライン)を新たに公開し、
企業買収を積極的に推す姿勢を打ち出している。

そのなかで、「買収への対応方針は『経営陣にとって好ましくない者』から、
経営陣を守るためのものではない」と言い切っているし、
「平時からの企業価値向上に向けた取組みを行うことは、
買収提案を受けた際に、取締役会において、
現経営陣が経営する場合の企業価値向上策と買収提案の内容を、
速やかに比較検討することにも資するものである」と、
日常の経営のあり方に対してすら、買収の文脈で語るほどの肩入れぶりである。

この流れで行けば、大型の企業買収案件は、
セブン&アイや常磐興産だけにとどまらないと考えていいだろう。
産業と資本の地図が大きく塗り替えられる時代の到来を感じる。


【小規模企業の合併・譲渡の推進も国の基本政策】

ここまで、大企業の買収について話題にしたが、
国の企業買収推進の姿勢は中小・小規模企業にも及んでいる。
多くの読者にとっては、ここからが本題だ。

安倍政権の跡を継いだ菅政権は、日本の景気低迷の要因が、
国内の中小・小規模企業の生産性の低さにあると断じ、
新規事業開発や業態転換などと並んで、
合併や事業譲渡による企業規模の拡大を推進する政策を実施した。

当時、私はこの政策に反発を覚えた。

日本経済にとって最大の問題はデフレである。
デフレは需要より供給がまさっていることで発生する。
需要が低迷するなかで、生産性を上げれば、より供給過剰になり、
さらにデフレを進めてしまうことになるからだ。

今もこの理屈が間違っているとは思わない。
ただ、最近になって、菅さんの考えにも一理あると思い始めた。


【「始めやすく、潰れやすい企業」をどうする?】

環境分野や医療分野、デジタル分野などで、
「やがては世界を席巻するだろう」と期待を抱かせる小さな企業が、
日本にも続々と誕生している。ようやくそういう展開になった。

半面、日本の製造業が海外に拠点を移して以降、
つまり80年代以降の「経済のソフト化」時代に誕生した小規模企業は、
その多くがサービス業分野に集中している。

サービス業は製造業や建設業などと比して資本を要さないし、
多くの人材を抱えなくても事業展開ができることから新規開業がしやすく、
国も会社設立ルールを緩和して起業の促進に取り組んだ結果、
小さなサービス業系の企業が次々と誕生することになった。

こうした企業はスタートさせるにはもってこいだが、
デフレや景気低迷の影響をもろに受ける業種だし、
加えて資本や経営人材が充実していないために、
何かあれば、すぐに先行きに黄信号が灯る傾向にある。

こういう「始めやすく、潰れやすい企業」が相当数あることは確かであり、
これらの企業を保護することよりも、資本と人材を集中させて、
自力で経営を維持・発展させられる企業を増やすこと、
それが国の方針であると言われれば、正面から否定できないと思ったのだ。


【もし、「ひとり会社」の社長が死んだら?】

私は30年近く小規模ビジネスの起業を応援してきた。
初期に支援した人が当時30歳なら今はもう還暦。40歳なら70歳。
そういう人たちが「小さな会社」をいつまで維持できるだろう?

たとえばその人が亡くなってしまったら、会社はどうなるのか?
従業員や出資者、あるいは遺族はどうすればいいのか?
実は、こういう事態になった場合、
関係者や遺族は、かなりの手間を強いられることになるが、
(手間の詳細はいずれ別のコラムで取り上げる)
そのあたりの知識に通じている人も少ないように感じる。

いわゆる「ひとり会社」をはじめとした小さな会社は後継者が未定だったり、
そもそも事業承継など考えていなかったりする会社が大半だろう。

だが、小さな会社が小さな会社のままでは、いずれ立ち行かなくなる時が来る。
そうなる前に法人を解散し、廃業することも、もちろん「あり」だ。

とはいえ、どんな企業にも必ず経営資源がある。
それがあるから、事業を行ってこられたわけだ。
であれば、その資源を引き継いでもらうという方法も、
選択肢のひとつに入れてもいいのではないだろうか。
つまり、「買収してもらう」ということ。


【「事業承継引継ぎ支援センター」を活用してみよう】

47都道府県のすべてに「事業承継引継ぎ支援センター」が設置されている。
同センターは国が設けている公的な相談窓口で、親族内の承継はもちろん、
第三者への事業の引継ぎについても相談に乗ってくれる。

「会社を売って引退したい」でもいいし、
「会社を売ったうえで、自分を従業員として雇用してほしい」でもいい。
あるいは、「事業の一部分を売りたい」でもいいし、
「譲渡先は見当がついているが、手続きがわからない」という相談でもOK。
相談や登録は無料なので、活用することをお勧めしたい。

同センターは、全国のM&A事業者などとも緊密に連携を取っていて、
会社や事業を買いたい側とのマッチングもスムーズに行ってくれる。
また、売却にかかわる手数料について、
「買い手側のみで、売り手側はなし」といった要望も受け付けてくれる。


【起業を支援したからこそ、クローズも支援したい】

買収だの事業承継だのM&Aだのというと、
それこそ大きな企業の話題に感じてしまう人も少なくないだろうが、
あらためてよく考えてほしい。

あなたが始めた会社なり事業なりを、あなたはいつまで続けるつもりなのか?
健康上の理由、能力上の理由、その他の理由で、
経営の維持が難しくなったら、あなたはどうするつもりなのか?

その問いへの答えを、起業家と一緒に見つけることも私の仕事だ。

スムーズなクローズの大切さを訴え、実際にお手伝いする。
それも起業を長く支援してきた私の責務と心得ている。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>

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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.217 
(2024.9.24配信)より抜粋して転載しました。
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