第6回 身はひとつ、人生時間も有限。だから、積み上げた名声や評価よりも、心が躍る新事業へ

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「起業は、し続けるもの。先輩たちのNICeな挑戦」
第6回 身はひとつ、人生時間も有限。だから、
積み上げた名声や評価よりも、心が躍る新事業へ
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起業することはゴールではなく、そこからが始まり。
出現する問題や予期せぬ出来事を乗り越えて、
一歩また一歩と、ステップアップしていくのが起業家の道。
そんな先輩たちの挑戦から学ぶシリーズ。
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栁沼美千子さん 2007年開業
福島県須賀川市
料理研究家、「MANA」代表
すかがわ観光物産館flatto
https://www.sukagawa-kankoukyoukai.jp/Buy/flatto.html
道の駅たまかわ こぶしの里
http://www.kobushinosato.com/
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“美味しくて、体に良い食”に徹底してこだわり、
自宅に併設した工房を拠点に、自然酵母の開発・パン作りに励んできた柳沼さん。
県内の道の駅をはじめ、百貨店、病院、空港へと販売網が広がり、
首都圏の名店での対面販売では、多くの支持と評価を得た。
並行して、会津の伝統工芸である、山葡萄の編み組工芸家として、
数々の受賞歴を持ち、指導も長年務め、原木の保全活動にも貢献してきた。
しかし2020年、パン作りも伝統工芸もやめてしまう。
惜しむ声をよそに、柳沼さんはピクルスの製造に専念したいと、
次のステージへ向かっていった。
「新たにピクルス作りを始めたかったのですが、
一つの工房でパンとピクルスの両方を作ることを、
保健所が許可してくれなかったのです。
じゃ、パンのほうをやめて、ピクルスをやろう、
編み組もこの際、一緒にやめようときっぱり。
自分のことですから、誰かに相談なんてしませんでしたし、
後悔もしていません。自分がやりたいと思ったことを、
どこまでできるか、挑戦するほうがワクワクしますから」
そして、始動!
季節ごとの地場産野菜や果物をピクルスにして、
道の駅や物産館での販売を開始した。
「ところが、売れないの(苦笑)。
地元では酸っぱいものがウケなくて。
これまたキッパリ、ピクルスもやめました。
というか、挑戦したい次のテーマに出合ってしまったんです」
それは、台湾カステラだった。
「出先で初めて台湾カステラを食べた時、美味しい!って驚いて。
ただ、テイクアウトはできないと。その意味はすぐ分かりました。
美味しいものは自分で作りたい質ですから、
さっそく取り組んだのですが、
出来立てはふんわりしていても、すぐに萎んでしまうのです。
どうしたら美味しく、ふんわり感をキープできるのか……」
これが思った以上に手ごわかった。
「自分に課した合格点に達するまで、半年ほど要したでしょうか。
その間、作っては食べて、調べて、探って
情報収集、試行錯誤して、の繰り返し。
人さまにも差し上げて、試食いただいて、
ようやく合格点を出せるレベルで安定した頃に、
物産展の方から、『美味しい!せっかくだからうちで販売して』と
言っていただいて、2022年から販売を始めました。
これまでも、このパターンですね。
作ったものを差し上げて、美味しいと言っていただくことで、
私も嬉しくて、もっともっと、次もがんばろう!となって。
おだてられて、ますます木に登ってしまうんです(笑)。
ただ、ふっくら感をキープするのは、本当に難しくて、
手間はかかるし、数も多く作れません。
深夜にまで作業時間が及びます。
逆に、こんなに大変なので、
作りたがる人も少ない、つまり競合が少ない。
今は、地産の旬の果物などを組み合わせて納品していますが、
ありがたいことに、これを目当てに来館されるお客さまもいて、
早い時には陳列即完売です。
登山が趣味の友だちも、栄養もパワーも満点だから、と、
登山の時に私の台湾カステラを持参してくれます。
ほかにも、隣町の加工場を友だちと一緒に借りて
3年前から製造しているイチゴジャムも人気なんですよ。
手作りジャム自体は珍しくありませんが、
同じイチゴジャムでも、みんな違う。素材や隠し味にこだわって、
パッケージやコピーも自分たちで考えて、創意工夫しています。
私は、互いがライバルではなく、地域みんなで切磋琢磨しながら、
渦のように、一緒にレベルアップしているなぁと嬉しくなります。
台湾カステラも、こんなふうに広められたらいいなと思っています。
あと何年、自分がしたいことができるか。
後継者の育成というか、後輩へ伝授したい思いが年々増しています。
台湾カステラを商品レベルの完成度にするのは困難=ライバルが少ないので、
私がお伝えすることで地元に貢献できるかなと。
福島県内の豊かな果実を活かして、会津、中通り、浜通り、
それぞれの地域の方々へ、私が確立した作り方をお伝えしたら、
県全体で盛り上がっていける、いい渦が生まれるんじゃないか、と夢見ています。
私の次の挑戦は、これでしょうかね」
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あなたの挑戦を応援しマッスー☆
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柳沼さんは私の恩人です。
って、これまでに何度も言ったり書いたりしていますよね。
それでも、言いたくなる、書きたくなるのです。
東日本大震災のわずか数カ月後に、
セミナー講師として福島県を訪ねた私は、ひどく緊張していました。
あれだけの被害を受けた人たちに講義をするのですから、
それはそれは、とんでもないプレッシャーでした。
そんな私にコニコニしながら、「アメ、食べますか」と、
声をかけてくれたのが柳沼さんでした。
こんな状況なのに、明るく振る舞える人が福島にいた。
自分が大変なのに、相手を気づかえる人が福島にいた。
彼女の一言で、私は救われ、勇気百倍。
おかげで以降もずっと福島の方々と協働を続けています。
なかでもやはり柳沼さんとの仕事は思い出深いものばかり。
とくに、砂糖をいっさい使わず、
なのに、ふっくら仕上げることができる健康パンの開発には、
柳沼さんとともに、私も精根を傾けて取り組みました。
そして成功!
ところが彼女、パン作りで高い評価を得ているのに、
「私はアップルパイを作る」と言い出し、
まあ、いいかと思っていたら、
いつの間にか山葡萄の木の植林活動に励んでいる。
それもいいかと思っていたら、
今度はイチゴの生産と加工に夢中に。
これまた応援すべきだなと思っていたら、
突如、ピクルスを作ると……。
出会ってからずっと、私は柳沼さんの活動を応援してきましたが、
「ごめんなさい」。
私はピクルスが苦手で、こればかりは積極的に押すことができず……。
でも、さすがは柳沼さん、
そのあたりの空気をすぐに察知して、方向転換。
よかったー(笑)。
そして誕生したのが、絶品の台湾(風)カステラです。
こうして振り返ると、多くの人が挑戦と呼ぶ行為が、
彼女にとっては日常生活の一部なんだということがわかります。
呼吸するように、新たな目標に挑んでいくのです。
ただ、それだけに習得した知識や技術が継承されないのはもったいない。
と思っていたのですが、ご本人もそれを考えていたようで。
ならば、今後はそのお手伝いをさせていただければと思います。
とにかく、まだまだ、
彼女の挑戦から目を離すことはできそうにありません。
ああ、大変(笑)。もとい。ああ、楽しみ!
(ますだ)
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「つながり力で起業・新規事業!」
メールマガジンVol.233
(2025.6.11配信)より抜粋して転載しました。
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