小規模事業者は「タコの足」か?

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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第138回 小規模事業者は「タコの足」か?
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【飢えたタコは自分の足を食べて生き延びる?】
「タコ足配当」という言葉をご存じだろうか。
タコは飢餓状態に陥ると、自分の足を食べて生き延びる、
という俗説にもとづき、利益の出ていない会社が、
資本を取り崩して、無理やり配当を出すことを意味する。
こんなことをしていれば、当然、会社の資産は減少し、
行き過ぎれば会社の存続すら危うくなる。
さて、今回の参院選の争点の一つにもなった「消費税」は、
この「タコ足配当」に似た問題を抱えるものだと私は考えている。
言ってみれば、「タコ足徴税」だ。
【赤字の事業者にも課税。こんな税制は正しいのか】
配当が黒字決算を前提とするのと同様、
事業者に対する課税も、黒字に対して行われるのが本来のあり方だ。
実際、黒字の会社には法人税などが、黒字の個人事業には所得税などが、
それぞれの所得に応じて課税される。このルールに異論はない。
ところが「消費税」は、黒字か赤字かにかかわらず、
ほぼすべての事業者に納税を強いる制度である。
儲けてもいない事業者から税金を徴収することは、
「タコ足配当」同様、その事業者の存続を脅かすものであり、
ひいては日本経済全体の活気を損なうものと危惧する。
【「消費税」は、むしろ事業者の納税力を奪っている】
「消費税」納税で手許の資金を減らした事業者は、
投資や人件費などの支出を抑制せざるを得なくなり、
成長を鈍化させ、容易に黒字を生み出せない状態に陥る。
そんな状態の事業者からは法人税や所得税を徴収できない。
ならば、確実に税を徴収できる「消費税」を維持し、
なおかつ、税率を上げれば税収も半ば自動的に増えると政府は考える。
そのせいで、事業者はさらに苦境を深め、
結果、法人税収や所得税収はさらに目減りする。
こうなれば、もっと「消費税」を徴収せねばとなり、
一昨年には「消費税」納税義務のなかった小規模事業者からも、
「消費税」を徴収するためのインボイス制度が導入された。
もはや完全な悪循環である。
【「消費税」導入で、大企業には恩恵がもたらされた】
「消費税」が日本に初めて導入されたのは1989年。
当時の法人税の実効税率はおよそ40%だったが、
現在ではそれが30%にまで減税されている。
一方で、消費税率は当初の3%からジワジワと上がり続け、
ご存じのように現在は10%に達している。
つまり、法人税率のダウンと消費税率のアップは、
政府が一体的に進めてきたものであり、
その結果、大企業ほど得をする仕組みが誕生した。
例えば経常利益が1兆円の大企業であれば、
「消費税」導入以前は約4000億円の税が課されたが、
現在は約3000億円で済む。実に1000億円の支出削減だ。
「これだけ優遇してもらえるなら、そりゃ大企業は、
政治資金パーティーのチケットくらい、いくらでも買うよ」、
という声が聞こえてくるのも、もっともだ。
【大企業に対する減税分を、小規模事業者が肩代わり】
政府としては、法人税収を減らしたところで、
消費税収が増えているのでとくに困ることはない。
実際、「消費税」導入から昨年までの法人税等は、
累計で318兆円も減収しているが、
消費税収は累計539兆円に達しており、むしろお釣りが出るほどだ。
もっとも小規模事業者は、
もとより大企業のような巨額の黒字を出すことはなく、
法人税率が下がったところで、大企業のようなメリットはない。
つまり、法人税減税で大企業が得をした分を、
小規模事業者の「売上げの一部を税として」徴収する、
「消費税」が、実質的に穴埋めしているかたちになる。
【「消費税」は「消費者が納める税金」という誤解】
注意深い読者なら、ここで少し疑問を持たれたかもしれない。
「消費税」は、消費者が納めるべき税を、
事業者が代わりに納めているだけではないのかと。
例えば100円のものを買ったなら、
消費者はそれに消費税10円を加えた110円を支払い、
事業者は、100円を自社の収入にし、
残りの10円を税として納めているはずだと。
確かに、お金の流れはそれで合っている。
しかし、本当のところ、日本の「消費税」制度は、
事業者(会社や個人事業主)に対する課税制度であり、
消費者は、1円たりとも「消費税」を納めていないのが事実だ。
【政府は意図的に「付加価値税」を「消費税」と言い換えた】
多くの人が、「消費税」は消費者への課税だと誤解するのにはワケがある。
最大の理由は、「消費税」という名称だ。
同様の税制は世界各国にあるが、
「消費税」という名称を用いる国は日本以外になく、
大半の国が「付加価値税」と呼んでいる。
日本も諸外国にならい、この税制の導入を検討していた頃は、
日本版「付加価値税」と呼んでいた。
ところが、すでに様々な税を納めている事業者に対して、
「さらに一つ一つの取引に対する儲け(付加価値)にも課税する」と言えば、
当然、猛烈な反発が起きる。
そこで政府は「妙手」を思い付いた。
「新税制は、消費者から預かった税金を事業者が納めるもの」と説明し、
それを裏付けるように、世界唯一の「消費税」という名称を冠した。
いやいや、この国の政治家の、そのへんのセンスは、お見事の一言だ。
【事業者への課税のしわ寄せが、消費者を苦しめる】
そうは言っても、レシートには100円+消費税10円=110円と書いてある。
やはり、消費税を納めているのは、消費者ではないかと思うかもしれない。
こうした表示ルールも誤解を生む一因である。
そのレシートの本当の意味は、
「あなた(消費者)は、この商品の代金である110円を支払いました。
なお、その110円の中の10円分を、私たち(事業者)は、
『消費税』として国に納めます」ということだ。
つまり消費者は、「消費税」という「事業者への課税制度」のせいで、
以前よりも高い代金で商品やサービスを購入させられているのであり、
そういう意味では、消費者も、この税制による立派な被害者だ。
【「物価が上がれば税負担も上がる」というダブルパンチを容認】
しかも、現在のように物価上昇が続く局面では、
「事業者が納める消費税分に相当する商品価格」も連動して上昇するため、
税収は増えるが、経営や生活は苦しくなるという状態を引き起こす。
諸外国の「付加価値税」の多くは、物価が上がれば税金分を下げるなど、
経済状況に応じて税率や課税対象を柔軟に変更する制度を採用している。
ところが日本の「消費税」は、それらの「付加価値税」とは真逆で、
物価が上がれば税金分も上がるという、鬼のような税制である。
【「タコの足は切っても生えてくる」。そんな軽口は許さない】
繰り返しになるが、「消費税」は事業者や消費者の活力を奪う税制であり、
どう考えても、タコが自らの足を食べる姿と同じようにしか見えない。
そんな私の見解を表立って認める政治家はいないだろうが、中には、
「タコの足は、食べてもまた生えてくるから何も心配ない」と、
心の中で軽口を叩く人がいるかもしれない。
もし、そういう政治家がいるのなら言いたい。
私たちは「足」ではない。納税者こそ「本体」だ。
強いて言うなら、国民から付託されて働く政治家こそ「足」である。
だから、期待に応えない政治家は切り捨てられると覚悟せよ、と。
与党だけではなく、野党にも言っておきたい。
選挙が終わった途端、「消費税」議論を引っ込めたり、
各党の減税方針の違いを調整できずに時間だけを食ったり……。
そんな体たらくは、許すわけにはいかないと。
「消費税」は減税できる。
下げ過ぎている法人税率を見直せばいいだけの話だ。
与党も野党も、今回の参院選の結果を真摯に受け止めて、
着実に「消費税」減税を進めてほしい。
同時に、私たち事業者にも、「消費税」に頼らない国づくり、
「消費税」に苦しめられない国づくりに貢献する責務があると心得たい。
要するに、断固として儲けよう! ということだ。
その儲けで、自らも、この国も潤してやろう!
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」
メールマガジンVol.236
(2025.7.22配信)より抜粋して転載しました。
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