小規模ビジネスは、直ちに防衛策を

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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第146回 小規模ビジネスは、直ちに防衛策を
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【正常性バイアスから脱却できない私たち】
「ウクライナ戦争を24時間以内に終結させると言ったのはジョーク」と、
インタビューに平然と答えたトランプ大統領。
言ってよい冗談と悪い冗談の区別が付かないこの人物は、
大統領に就任するやいなや、他国に高関税をかけまくって経済を混乱させ、
2026年に入るとベネズエラを急襲、
今度は核開発交渉を行っている最中の相手国を攻撃した。
常識をもってすれば、トランプ大統領のやることなすことは、
「ありえない」の一言だが、残念ながら、すべてが現実である。
私たちには、いわゆる正常性バイアスが働く。
「あれが不安。これが怖い」と日々感じながら過ごしていたら、
とても精神がもたない。鈍感力は生きる術のひとつだ。
とはいえ、冷静に思考すれば明らかに損害が予見される状況にありながら、
マイナス情報を無視したり、過小評価したりすれば、
結局のところ、取り返しのつかない事態に見舞われる。
【戦後世界の規範はすでに崩壊。その波は日本も飲み込む】
多くの日本人は、第二次世界大戦後の民主主義と平和憲法、
米ソ冷戦下の国際情勢の「安定」、そして高度経済成長と、
その「貯金」による物質的な豊かさに守られてきた。
「明日は知れぬ」という切迫感を抱くことなく生きてこられた。
この「実績」が正常性バイアスをより強固にしているのかもしれない。
海外のあちこちで、どれだけテロや紛争や戦争が勃発しても、
対岸の火事としか見ることができず、
それが自分にどう影響するのかを想像できない人もいる。
しかし、すでに世界の規範は変わっている。
実際、固く禁じてきた武力による他国の領土強奪も、
ロシアのウクライナ侵攻が4年目に達し、
いまや「既成事実」として世界が受け入れ始めている。
そういう「新たな世界」にあって、
日本だけが「今までどおり」と考えるほうが、無理がある。
【トランプ大統領は、急変する現代社会の象徴】
ひとたび規範が崩壊すれば、世界は制御不能になる。
イスラエルはガザに侵攻し、アメリカはベネズエラを攻撃。
さらに両国はイランも攻撃した。
その結果、日本を含む世界がエネルギー危機に直面している。
悪いのは誰か? トランプ大統領か? そもそものプーチン大統領か?
いや、彼らは言ってみれば、世界の変化を示す象徴のようなものだ。
トランプやプーチンが常軌を逸しているのではなく、
彼らが言うことや、彼らがやることの後ろには、
「それを言ってほしい」「それをやってほしい」と願う巨万の人々がいる。
つまり、「独裁者たちがいなくなれば世の中は平穏になる」などという、
期待を抱いても無駄ということだ。
仮に、混乱のなかで彼らが失権したとしても、
ほどなく第二のトランプ、第二のプーチンが現れてくるだろう。
そう腹を括り、今後の事業経営と生活の防衛のために、
そして、守りから攻めに転じるときのために、知恵を絞り、
計画を立て、テキパキ動くことが、いま、私たちに求められている。
【燃料費高騰の影響は、小規模企業に重くのしかかる】
今般の情勢は、大企業から小規模企業、フリーランサーに至るまで、
例外なく大きな影響を及ぼすはずだ。
運輸・物流業は言うまでもないし、
大量に燃料を使用する農業や漁業のダメージも大きい。
重機を使う建設業も同様だ。
製造業も、工場のエネルギーコストの増加に加え、
原材料の輸送コストの上昇が加わるから、大変なことになる。
小売業も商品の仕入れ価値や物流費の高騰に苦しむだろう。
忘れてはいけないが、
観光業はすでに中国との関係悪化で減収を余儀なくされており、
ここにガソリン代の高騰や航空券・ツアー価格の上昇が加われば、
事態は一層深刻になる。
「経費の3K」という言葉がある。
不景気になると、真っ先に削減の対象になる支出のことで、
広告費、交通費、交際費を指す。
これら「3K」にかかわる企業や個人事業主、フリーランサーも、
確実に影響が及んでくることを覚悟しないといけない。
【まずは手元のキャッシュを厚くしよう】
そこで防衛策を打ちたい。
今後、取引先の発注量削減や値下げ要求、
最悪の場合は取引中止という事態も起こりうるだろう。
その状況に耐えるには、何よりキャッシュを厚くすることが先決。
後払いルールを前払いルールに変更する、してもらう。
全額が難しければ、半金や3分の1でもいいので、先に支払ってもらう。
あるいは、取引先の支払いサイトを短縮してもらう。
上記が難しかったり、それだけでは不十分だったりするなら、
足の早い仕事を受注して納品し、売上を回収するよう努めたい。
また、固定資産や拘束性の強い金融資産は、
できるだけ現金化したり、流動性の高い資産に転換したりして、
キャッシュが必要な時に、すぐ使える状態にしておく。
なお、小規模企業共済や経営セーフティ共済、
民間の生保などに加入していれば、
積み立てた掛け金を担保として借入することができるので、
それぞれの貸付限度額と手続きについても明確にしておこう。
【高い価格を付けやすい新商品・新サービスで収益確保を】
キャッシュ確保と並行して取り組みたいのが、値上げある。
とはいえ、全商品・全サービスを、
全取引先に対して一斉に値上げすることは容易ではない。
従来取引についても、もちろん交渉すべきだが、
高い価格を付けやすいのは、やはり新規商品や新規取引だ。
計画を立て、一定の期間を設けて、
従来商品と新規商品の割合を逆転できれば成功と言っていい。
原価や物流費の高騰が影響している業種の場合、
比較的値上げを打診しやすいが、
情報関連やクリエイティブ、教育や娯楽などのサービス業は、
価格転嫁しづらいのが実情だと思う。
しかし、現実には交通費や賃料、消耗品費をはじめ、
様々なコストが上昇していることは間違いなく、
そこを丁寧かつ粘り強く取引先に訴えて、
値上げを受け入れてもらえるよう頑張りたい。
【経費削減は最後の手段。ただし、やりすぎないことが肝心】
すでにコストの削減に取り組んでいる人も多いはずで、
今さら書くことでもないが、
この状況を捉えて、効果の薄い出費を見直すことは悪くない。
とはいえ、むしろここからが肝心なのだが、
削減が行き過ぎないよう注意を払ってほしい。
必要経費という言葉がある。
その出費は、売上を立てたり、仕事をスムーズに進めたり、
業務無能力を高めたり、関係者との円滑な関係を築いたりするために、
必要だから使っている費用のはず。
それを削減すれば、得られるメリットも同時に失うことになる。
帳簿だけを見て、数字合わせをするような作業は厳に慎んでほしい。
付言すれば、みんなが支出を抑制すれば、不景気は深まる一方になり、
その連鎖が、一周回って自社や自己の首を絞める要因になる。
安易な経費削減に走らないことも、
経営者や個人事業主の度量と手腕の見せ所と心得てほしい。
【「お互いさま」の精神を発揮し、つながり力で危機を乗り越えよう】
キャッシュの確保、値上げ、コスト削減の3つを挙げた。
あまりにも当たり前の提案だったかもしれない。
ただ、当たり前のことこそ、疎かになりがちである。
対策の全部ができれば、ぜひ、そうしてほしいし、
無理なら、できることを一つでも二つでもいいからやってほしい。
危機察知力と対策立案力、そして行動力。
これらをいかんなく発揮する経営者や個人事業主が、
企業や事業を守り抜くことができる。
同時に、他者と情報や知恵を共有・循環させられる力が、自らを救う。
自社だけ助かれば、自分だけ助かればという考えを全員が持てば、
前述した通り、状況はさらに悪化してしまう。
「お互いさま」の精神こそ、こういう情勢だから救いになる。
つながり力の真価が一層問われる時代に、日本も世界も突入している。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」
メールマガジンVol.251
(2026.3.23配信)より抜粋して転載しました。
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