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代表から

おとぼけ起業家列伝/自伝出版を拒み続ける女


「自他共に認める何々」、という言い回しがある。認められるものの中身が何であ
れ、主観的評価と客観的評価が一致しているのは幸せなことだ。

概して他人は自分が思うほど評価をしてくれないものである。そのズレに多少でも気
づいていれば救われるが、世の中には「思い込みの塊」のような人もいる。こうなる
とお気の毒ですらある。

しかし、ある意味それ以上にお気の毒なのは、他人は高い評価をしているのに、本人
がそれを認めないケースだ。

私の飲み仲間のエイコさんはジャスト50歳。だがクラブで深夜まで踊り続けるし、そ
れで帰宅するのかと思えば、「何か食べに行こうよ」と言い出す健啖ぶりだし、「寝
る前にあんまり食わないほうがいいですよ」と、たしなめれば「寝ないわよ」と、明
け方そのままオフィスに向かっちゃうし、それでお肌がボロボロかというと、ツルピ
カだし。

とにかく若々しいのである。しかも彼女が経営する人材派遣会社の業績は抜群にい
い。社員のフォローも完璧だ。だからエイコさんを知る人は例外なく彼女に憧れる。
尊敬していると言ってもいい。付け加えると、彼女は夫や子どもからも評判がいい。

こうなると、もはや、いわゆるひとつのスーパーレディーである。だから私は彼女の
人生を本にまとめたら売れるだろうなあと、何回も思ったものだ。思ったことは口に
するのが私の性分である。

ところが彼女の答えはいつも同じ。「ダメよ。アタシなんか」。これで話は終わって
しまう。謙虚な人だと感心する半面、納得がいく答えでもない。だから一度食い下
がってみたことがあった。「アタシなんかって言うけど、いったいどこがいけないん
ですか?」と。しばし沈黙の後、彼女は私を責めるような低い声でこういった。「そ
れをアタシに言わせるわけ?」と。

やばっ。よくわからないけど、とてつもなくデンジャラスなゾーンに踏み込んでし
まったという感触はあった。だが、いきがかり上、話題を急カーブさせるのは無理。
私は顔面をヒクヒクさせながら彼女のセリフを促した。

「じゃあ言うわよっ。だってさ、アタシ、不細工だもん!」

何だ~~? その答えは!? 

ブッハッ~~。

私はその時ほおばっていたトンカツの大半を吐き出してしまった。テーブルを拭くの
も忘れて私は笑い転げた。態勢を立て直そうと思っても、モジモジしているエイコさ
んを目の前にすると、余計に笑いが込み上げてくる。

後で本人に聞いた話だが、「本を出す=自分の写真が表紙になる」と彼女は思い込ん
でいたのだそうだ。この思い込みも爆笑ものだが、仮にそうなったとしても何ら問題
はない。彼女は若々しいだけでなく、ベッピンさんである。それもみんなが憧れる理
由だ。

彼女が自分の容姿をよく思わない理由を、結局私は解明できないままでいる。でも、
これは一生解明できないだろうとも思う。人の心の中にある物差しを他人が使うこと
はできないのだから。

ただ、こうは思う。人間を魅力的にする要素とは、大きな努力と、適度な自信と、ほ
んのわずかなコンプレックスなのではないかと。
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