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代表から

増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」42「吉里吉里人」




作家の井上ひさしが他界したのは、東日本大震災発生の11カ月前だった。
批判精神をユーモアにくるんで発露する表現は、いかにも東北人らしい。

その井上の真骨頂が、70年代に執筆した長編小説『吉里吉里人』だ。
東北の寒村、吉里吉里(きりきり)が、突如、日本からの独立を宣言。
政府は鎮圧をこころみるが、吉里吉里は、食料自給力の強みをベースに、
高度医療の解禁やタックスヘイブン政策をもって海外とのパイプを築き、
独立状態をジワジワと固めていく……。

私がこの作品に触れたのは20代前半だったと記憶する。
会社勤めの息苦しさの中で、この空想小説は実に痛快だった。

あれから、かれこれ30年。
最近、岩手県大槌町を訪ね、2日間連続で起業セミナーを行った。

津波襲来と同時に火災が起き、何もかもが流され、焼かれてしまった大槌。
失われた命は、町内人口の1割にも達する。
傷は深く大きく、2年9カ月を経た現在も、癒えることはない。
ただ、生き残った方々の心には、徐々に希望が灯り始めている。
だから、起業セミナーが開催できた。

参加者は12人。家を失った人、家族を失った人が大半だ。
その人たちの一人一人に、町内のどこから来たのか尋ねた。
マスクをしている人が多く、方言の影響と地名ゆえの独特さもあり、
なかなか、正確に聞き取れない。

だが、何人も同じ言葉を繰り返すので、ようやくわかった。
「キリキリから来ました」と言っている。

「えっ? キリキリって、もしかして吉里吉里?」
「そうですよ」
「吉里吉里って、本当にあるんですか?」
「ありますよ。井上さんか小説にするより、はるか昔からあります(笑)」

驚いた。実在する地名だったとは。
セミナー終了後、いてもたってもいられず、すぐに吉里吉里へ出かけた。
大槌町の一部でありながら、中心部とは岬を隔てて遠く、
方言や風習、気質も大槌中心部とは異なるという。
「吉里吉里の人たちは、独立心が強いからねえ」とも聞いた。
ならば、起業セミナーに多くの人が参加してくるのも頷ける。

井上ひさしは、きっとそれを知っていて、モチーフにしたのだろう。
そういえば、井上が脚本を手がけた『ひょっこりひょうたん島』も、
大槌湾に浮かぶ蓬莱島という小島をモデルにした作品だ。
彼がこの地に足を運び、思いを寄せたことは間違いない。

当然ながら、井上は吉里吉里の惨状も、ひょうたん島の惨状も知らない。
だが、大槌町の人たちは、その風景とその精神が、
気鋭の作家に讃えられていることをよく知っている。
地域への誇りは、復興の希望を灯す燃料の一部になっているはずだ。

文学は、すごい。


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増田紀彦NICe代表理事が、
毎月7日と14日(7と14で714(ナイス)!)にお送りしている
【NICe会員限定レター/「ふ〜ん なるほどねえ」スモールマガジン!】
増田通信・第42号(2013/12/16発行)より、抜粋してお届けしました。
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