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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
ジャニーズ問題に学ぶ「株式」のあり方



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

第119回 ジャニーズ問題に学ぶ「株式」のあり方  
 
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【まだまだ縁遠い「会社の設立」や「株式の発行」】

旧ジャニーズ事務所(以下ジャニーズと省略)問題の顛末を契機に、
非公開会社の株式にも関心が注がれるようになった。

もともとの事件の重さを考えれば、
軽々しく怪我の功名などとは言えないが、
「出資」「株式」「株主」「取締役」「事業承継」などの単語が、
経済ニュース以外の報道で頻出したことには意義がある。

昔に比べれば、起業・独立はずいぶん身近になった。
だが、それでもまだ、多くの社会人や学生にとって、
「会社を設立する」あるいは「株式を発行する」といった行為は、
自分とは縁遠いものだと思われている。


【賃貸住宅を借りるより、会社設立のほうが実は簡単】

先般、俳優の水谷豊さんが、
自らを代表とする合同会社を設立したというニュースが流れた際、
ネットのコメント欄に、
「さすが大物俳優。まるで家を借りるような感覚で会社を作っている」、
という投稿を見つけた。

確かに会社を一つ生み出すことには価値がある。
とはいえ、会社を設立すること自体は、
多くの人がイメージしているよりもはるかに簡単なことだ。

それこそ賃貸住宅を借りようと思えば、
審査もあるし、取得費用もそれなりに要するが、
合同会社も株式会社も設立のための審査などないし、
設立登記費用も合同会社なら6万円程度、株式会社なら18万円程度。
むしろ賃貸物件にかかる敷金・礼金・手数料のほうが高いくらいだ。

あらためて「会社」や「株式」が、
もっと多くの人たちにとって身近な存在になってほしいと思う。

そこでジャニーズの「株式」に焦点を当てながら、
私が考える中小企業の「株式」のあり方について書いてみる。


【中小企業のレベルをはるかに超えるジャニーズの売上高】

ジャニーズが被害者に補償を行うと発表したことを受け、
同社の売上高や資産額、所有者(株主)や経営者などについて、
多くの人の視線が集まることになった。

同社の直近の売上高は800億円以上、
出版社などの子会社の売上高を連結すれば、
グループ全体で1000億円以上に達するという見立てが広がっている。

同社は資本金1000万円、従業員200名程度なので中小企業に分類される。

中小企業白書によれば、
日本の中小企業の売上高中央値は約9900万円と、1億円にも届かない。
ゆえに売上高1000億円は、中小企業としては超弩級の規模である。

業績だけを取り上げれば、
ジャニーズは、我が国屈指の超々優良中小企業ということになる。


【資本金1000万円分の株式の評価額は?】

ジャニーズが有する資産もすごい(らしい)。
同社が所有する不動産についての情報は多く取り上げられており、
評価額の合計は、週刊ポストによると2019年の段階で約250億円、
一方、週刊文春は今年9月に約500億円と報じている。
近年の都心の不動産価格高騰を折り込めば、両者に齟齬はないだろう。

これら不動産のほか、当然ながら、
現預金、売掛金、在庫などの流動資産や投資資産もあるだろうから、
「ジャニーズの総資産額は1000億円以上」という報道は、
あながち、大げさではないと思う。

いずれにしても、これだけの資産を有する会社となると、
株式の評価額も並外れた額になるはずだ。

報道によれば、株式全体の評価額はおよそ143億円と言われている。
すでに触れたように、同社の資本金は1000万円なので、
言ってみれば、10万円で買ったものが1億4300万円で売れるという話だ。
もはや、白昼夢の世界である。

そして、化け物のようなこの株式を保有しているのは、
この世で藤島ジュリー景子氏、ただ一人である。


【ジュリー氏の相続額は株式を含めて1000億円以上か】

一度整理する。

ジャニーズ(グループ)の売上高は推定1000億円以上。
同社が所有する資産も推定1000億円以上で、
株式の評価額は143億円以上。
その株式も含めて、藤島ジュリー景子氏が、
叔父や実母から相続した資産総額もまた、1000億円以上と言われている。

大阪万博の建設費用が当初見積りから、
1100億円も跳ね上がっていると問題になっているが、
ジュリー氏が相続した資産を使えば、
それが瞬く間に埋まってしまうのだから、いかにすごい資産かがわかる。

では、これだけの巨額を相続したジュリー氏には、
いったい、いくらの相続税が課されたのだろう?

答えの前に、一旦、話題を関西のとある有名企業に移す。


【所有するビルを、わざと安売りした関西の有名企業】

かれこれ20年ほど前の話だが、
関西の有名企業が次々と所有不動産を「投げ売り」する出来事があった。

「あんなに大きな会社が金欠なのか?」とウワサになったが、
実はそうではなかった。

あまりに会社の資産が増えすぎて、
爆上がりした株式を子どもに相続させるとなると、
莫大な税金を納めることになってしまう。

だから、親である創業者があえて不動産を安売りして資産額を減らし、
相続した株式にかけられる税額を抑えようとしたのだった。


【ジャニーズ一族は事業承継税制を活用した】

さて、ジュリー氏の相続税額に話を戻す。
結論から言うと、株式の相続分に関しては1円も課税されていない。
なぜなら、事業承継税制の適用が認められたからだ。

前述の関西の会社のように、
創業者が努力して会社を大きく育てたのに、二代目に継がせようにも、
株式の相続にかかる税が納められなかったり、
それを納めるために株式を売却したりするなら、
優良な中小企業の事業継続に支障をきたしてしまう。

そこで中小企業庁は、一定の条件を付けたうえで、
会社の後継者になる人物が、その会社の株式を取得した場合、
相続税を非課税とする制度を2008年にスタートさせた。

もちろん、この制度には厳密なルールがある。
最低5年間は、後継者が会社の代表者であり続け、
かつ、会社の株式を保有し続けることなどを義務付けており、
最終的に免税を確定させるためには、
二代目から、さらに三代目にバトンタッチすることが条件となっている。


【事業承継税制は、跡取りが他人であってもOK】

一部のマスコミは、ジャニーズ一族が相続税逃れのために、
この制度を使ったと批判している。
だからと言って、この制度自体が否定されるものではない。

同税制は、後継者が他人であっても適用を受けられる。
先代が生前に株式を贈与すれば、二代目の贈与税納付は猶予され、
その二代目から三代目に事業承継されれば、二代目の免税は確定する。

優秀な人材に会社を継がせたいという思いにも応える制度だ。

いずれにしても、中小企業経営者ですら理解していない事業承継税制が、
事件をきっかけに日が当たることになったのは事実である。


【東山氏や井ノ原氏も株主にしてほしかった】

株式会社ジャニーズ事務所は、商号を株式会社SMILE-UP.に変更し、
社長に同社所属タレントの東山紀之氏が、
副社長には井ノ原快彦氏がそれぞれ就任した。

だが彼らがどれだけ恩義を感じていて、どれだけ愛着があったとしても、
SMILE-UP.は、二人にとって「自分の会社」ではない。
あくまで「雇われ社長」であり、「雇われ副社長」だ。

事業承継税制の縛りがあるせいで、
同社の株式をジュリー氏が他人に譲渡することはできないが、
結局、同制度から脱落して相続税を納めることになるのなら、
彼らに一定の株式を譲渡し、
SMILE-UP.解散後、その株式を原資にして、
彼らに新会社を設立させれば良かったと私は思った。

確かに東山氏や井ノ原氏は、会社経営の素人だし、
補償会社の幹部が新会社の役員になることは利益相反という指摘もある。
だが、尻拭いのためだけに彼らが酷使されるのは、あまりに気の毒だ。

せめて、彼らが「自分の会社のために頑張った」と思えるなら、
苦労も幾ばくかは報われると思うのだが……。


【すべての企業が、スタープレイヤーを株主に!】

そう考えているうち、
東山氏や井ノ原氏に限らず、滝沢秀明氏らも含めて、
ジャニーズは、もっと早くから重要なタレントに、
株式を譲渡しておいても良かったのではないかと思った。

「タレントは商品だ」と言われる。

カール・マルクスが喝破した資本主義の仕組みにおいては、
タレントに限らず、あらゆる労働力が商品として扱われるのは確かだ。

だが、労働者自体が会社の所有者になるなら、
古典的な会社の意味合いは、徐々に変わっていくかもしれない。
私はそんな期待を抱いている。

社員持ち株制度に倣い、芸能事務所やプロスポーツ団体などは、
「所属タレント(選手)持ち株制度」を設けてはどうか。

大谷翔平選手の例を出すまでもなく、
現代は、たった一人の人間が世界経済に影響を与えられる時代だ。
スタープレイヤーが資本となる時代だ。

自らが所属する会社の株式を持つことは、
タレントや選手はもちろん、従業員など、すべての働き手に、
より高い意欲と生産性とロイヤリティをもたらすだろう。

長くなったが、今回の結論。

あなたの会社も、能力と意欲のある従業員や大切な取引先に、
株式をどんどん持ってもらったらどうだろう。

ジャニーズのように株式を身内だけで抱え込み、
いざ、相続となって大騒ぎするより、よほど健全で賢明な選択だと私は思う。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>


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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.199 
(2023.11.21配信)より抜粋して転載しました。
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