vol.244【増田紀彦の視点・第142回「社長、この会社は引き継げません」】

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Vol.244 2025.11.21
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【1】「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、
増田代表が送る、視点・分析・メッセージ
第142回「社長、この会社は引き継げません」
【2】 NICeニュース
増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」326号
<最近の巧妙> 「知っている」と「知らない」のマリアージュ
ほか7本
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第142回「社長、この会社は引き継げません」
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【社長からの借入金が6500万円の小さな会社】
設立42年の小さな会社の社長。そろそろ80歳になるそうだ。
「もう引退したいし、子どもも継がないので、会社を譲渡したい」という。
ご縁あって、この人の相談を受けたのだが、
決算書を拝見して唸ってしまった。
金融機関などからの借入はないものの、
社長個人からの借入金が約6500万円残っていた。
結果、その借入れが災いして、会社は債務超過に陥っている。
たとえば私がその会社の株式を社長から無償で譲渡してもらって、
経営者になろうかなと考えてみる。
言うまでもなく、いくつも障害が頭に浮かぶ。
【どう考えても社長への借入金返済は無理】
仮に私がすべての株式を譲り受け、
代表取締役社長に就任したとすると、
私は前社長に、会社から6500万円を返す算段を付けなければならない。
もちろん、「返せないものは返せない」と突っぱねることもできるが、
いつまでも、そんな負債を抱えたままでいるのは気持ち悪い。
とはいえ、返したいと思ったとしても、返すための資産がない。
会社は債務超過に陥っているのだから。
なので、このままでは、
「やはり会社はいりません」と答えることになるだろう。
【債権放棄すれば、今度は会社に1000万円以上の課税】
「それなら貸付は返してもらわなくていい。全額放棄する」と、
社長が言い出したらどうか。
6500万円の借金が消えるのは魅力だが、話はそう単純じゃない。
社長が債権を放棄した段階で、
この6500万円は、そっくりそのまま会社の収入と見なされる。
正式には「債務免除益」という。
決算書によれば、この会社が計上している繰越赤字は約3000万円。
ということで、(形式上の)収入6500万円から3000万円を差し引いても、
なお、3500万円の(形式上の)利益が出たことになってしまう。
3500万円の利益なら、国税・地方税ひっくるめて、
少なく見積もっても、1000万円以上は課税される。
繰り返しになるが、この会社にその分を賄える資産はない。
厳密に言えば、設備や自動車、在庫品などの資産はある。
が、それらを現金化するのは困難だし、
多少ある現金や預金をかき集めても、納税のための1000万円には届かない。
だから、やっぱり「社長ゴメン。会社はいりません」となる。
【借入金を資本金に転換することはできる】
しかし、この会社、まだ打てる手がないわけではない。
貸し付けた6500万円を放棄するのではなく、
それを会社の資本金に転換する。
この方法をDES(Debt Equity Swap=デットエクイティスワップ)と呼ぶ。
もともと資本金1000万円だった会社が6500万円を増資した形となり、
結果、資本金7500万円の会社に生まれ変わることになる。
資本金は益金(収入)にならないので、
この方法であれば、会社に対する課税を回避することができる。
幸い、この会社の株主は社長とご家族のみのため、
社長の持株比率が急上昇したところで、異議を唱える人はいない。
【ただし、高額株式を無償で取得すれば莫大な贈与税が】
ところが、こうして7500万円にも膨らんだ株式を、
私が無償で譲り受けた場合、多額の贈与税が私に課されることになる。
ざっと計算すると、
資本金7500万円+資本準備金5500万円-繰越赤字3000万円=純資産1億円。
贈与税の基礎控除は年間110万円だから、
1億円-110万円で9890万円が課税対象。
計算すると、9890万円×税率55%-控除640万円=約4800万円の課税。
ただし、小さな会社の株式は、
「非上場株式の流動性割引」が適用され、50~70%程度に評価が下がる。
なので、私に対する課税額も2000万~3000万円程度で済むはずだ。
ああ、それならよかった。って、なるわけないでしょ。
かくして、
「社長、どうおっしゃられようと、会社はいりません」となる。
【債務超過でも、価値ある許可や免許があれば話は変わる】
一方、こうした債務超過状態の会社であっても、
独占的な許可や免許を保有している、
希少な技術や施設・設備を所有している、
あるいは、有力な顧客とのパイプを築いているなど、
負債と天秤にかけても魅力がまさる経営資源を有していれば、
あえて、その会社を引き受けるという判断をする場合もある。
たとえば、建設業(特に特定建設業)許可や、
薬局開設、医療機器販売、医療法人の運営などの医療関連許可、
一般貨物自動車運送事業や貸切バス事業など運輸・物流関連許可、
一般廃棄物収集運搬業や特別管理産業廃棄物処理業などの廃棄物関連許可、
加えて言えば、酒類製造や酒類販売免許。
これらの許可や免許は、一から取得を目指すにはハードルが高く、
すでに取得している会社を譲り受けるほうが明らかに早道だ。
【あるいは、地域社会に不可欠な会社も取得対象】
また、製造業なら、稼働している設備やラインを持つ会社を引き継げば、
乗せ替えコストを抑えることができ、早期の収益化が見込める。
商業やサービス業なら、競合が少ない地域で実績や信用を築いていて、
同地域でそれなりの従業員を雇用している会社なども、
引き継ぎを検討してもいいと思う。
つまり、企業価値を判断するためには、財務指標ばかりでなく、
引き継いだ会社を舞台に事業を進めるうえで、
効果的な経営資源が有るか無いかを、評価することが肝要だ。
とはいえ、精査の結果、
やはり企業価値が低いと判断せざるを得ない会社は多いし、
実際、私が相談を受けた会社も、そこまでの強みは持っておらず、
あらためて、
「社長、ほんとすみません。どう考えても会社はいりません」となる。
【役員報酬の一部を会社に戻す。これが役員借入金の始まり】
さて、ここからが重要だ。
なぜ、社長は会社に対して、そんな多額のお金を貸してしまったのか?
大ピンチに見舞われたからでも、大きな投資をしたからでもない。
事実はこういうことだ。
社長は長い年月、毎月の給料(報酬)の一部を会社に戻していた。
仮に社長の給料を月額53万円としよう。
ところが、実際に社長が受け取るのは毎月40万円。
形式的に言えば、一度53万円をもらって、
そのうちの13万円を会社に貸したということになる。
これが役員借入金の始まりである。
【節税&資金繰り対策としての会社への貸付】
ではなぜ、社長は給料を全額受け取らないのか?
給料として計上した金額は、
会社の損金(支出)になるので利益を減らすことができ、
会社に対する課税額を下げることができる。
そのうえで、実際には毎月13万円、
年額にして156万円の資金が会社に残るので、
運転資金などに活用できる、というわけである。
実はこの節税&資金繰り方法、
昭和の時代にはけっこうスタンダードだった。
確かに、それでやりくりは楽になる。
だが、延々続けた結果が、およそ6500万円の借入残である。
「よかれ」と思って続けてきたことが、
結果、会社を譲渡するための足枷になってしまったのだ。
もし、同様の方法で資金繰りをしている読者がいるなら、
本当にそれでいいのか、いま一度考えてみてほしい。
【承継のための債務免除益には課税しない! などの措置を】
昭和の小規模企業の経営者の中には、
自分の収入などより、会社の資金繰りが100倍大事と考える人が多くいた。
そういう人たちの献身が、日本の成長を支えてきた面はある。
だが、昭和、平成、令和と時は流れた。
今、日本中には、どうすることもできない役員借入金を抱えた会社が、
いったいどれだけあるのだろう。
地域の経済を支え、地域に雇用を生み出してきた小さな会社が、
最後になって行き場を失い、さまよう状況は、つらい。
徳政令ではないが、事業承継を考える会社の社長が、
貸し付けた資金の返済を求めない場合(つまり債権放棄した場合)は、
それを益金(収入)と見なさず、その額は非課税とする、
といった特例措置が設けられれば、引き継がれる会社はもっと増えるはず。
もちろん措置期間3年や5年の時限制度でかまわない。
国は事業承継やM&Aを積極的に推奨している。
その方向性はいい。
ただ、実態はこうである。
引き継ぎを阻害する規制や税制が存在することに目を向け、
それらに切り込まなければ、企業の種子を残すことは難しい。
引退間際の、人のよさそうな社長の横顔を眺めながら、
「何か手を考えねば」と、自らを叱咤した。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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NICe NEWS
Web更新、勉強会、お知らせ
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《Mr.NICe》 11月14日更新
増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」326号
<最近の巧妙> 「知っている」と「知らない」のマリアージュ
/archives/55143
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《NEWS》 11月10日更新
NICe日記大賞2025 発表!
10月の月間大賞
「台湾巡回」(SNS限定)
/archives/47672
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《Mr.NICe》 11月7日更新
増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」325号
<最近の機微> 私の情報源
/archives/55136
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《Trial Lesson》
一般社団法人 変形性股関節症と正しく向き合う会
個別相談付きメディカル・アロマケア(=股関節ケア)個別体験会
11月15日、11月29日、12月6日
https://henkeisei-kokansetsu.com/lp-medical-aroma-massage
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《Seminar》
一般社団法人 防災備蓄収納プランナー協会
「防災備蓄収納2級プランナー講座」
11月30日、12月9日、10日、12日、18日、22日、
1月9日、12日、18日、20日、21日、29日、ほか
https://bichiku-shunou.or.jp/qualification/qualification-2kyuu/schedule/
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《Seminar》
一般社団法人 防災備蓄収納プランナー協会
「防災備蓄収納1級プランナー講座」
11月26日&27日@大阪
https://bichiku-shunou.or.jp/qualification/qualification-1kyuu/
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《Seminar》
一般社団法人 防災備蓄収納プランナー協会
「職場備蓄管理者 認定資格講座」
1月14日WEB
https://bichiku-shunou.or.jp/qualification/qualification-manager/
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┃ ┃ ┃ ┃ ┃編┃集┃後┃記┃ ┃
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11月15日に、NICeの増田代表&小林理事が進行を務めた
「頭脳交換会 in 横手」。
「1人で10分悩むより10人で1分考えてアイデア100倍」
のお題どおり、大いに盛り上がったそうです。
そして、12月23日(火)、増田代表が再び横手市へ赴き、
「専門家セミナー」に登壇します。
すでに起業されている方、起業予定の方、
ビジネスの視点を広げたい方など、県内外を問わずお気軽にご参加ください。
参加は無料です。
参加お申込み&詳細はこちらから
秋田県横手市『Bizサポートよこて』
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ttps://biz-supo-yokote.jp/category/notice/
次号の「つながり力で起業・新規事業!」NICeメルマガは、
12月11日頃に配信予定です。
(NICe広報・岡部)
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