第6回NICe東京定例会レポート
増田氏「なるほど。逆に言うと、ラストレターを書くような相手がいるならば、孤独感にさいなまれないのだから、死んじゃおうって気持ちに歯止めがかかる、ということはありますかね」 敷田氏「あると思うんです。ただ、『助けて』となかなか言えないですよね」 増田氏「自分が死んでからの話より、今の自分の苦しさのほうが問題だと。そうなるとそういう問題になりますね。一瀬さんが言った、独居。孤独ならメッセージを遺す相手すらいないとなりますしね」 一瀬氏「死に対してラストレターを書くということは、自分の生に対して意識をすることにつながると思うんです。死を覚悟して生きるのと、漠然と生きるのとでは、歩み方が変わってくると思うんです。そういう意味でも有意義なものになる可能性があると思います」 増田氏「なぜ、今これが、という課題に対して、逆説的な解釈かもしれませんが、いろんな人達にありがとうと言葉を贈る。ラストレターは死に関するモチーフでありながらも、より良い生き方を訴える側面もあるのかもしれません。この部分をもう少し耕したいのですが、どうですか?」 清水氏「私、来月から葬祭カウンセラー養成講座を始めるのですが、この中にもエンディングノートがあります。フォーマット化されていて、何度も書き直せるノートです。消費者センターなどでこのようなセミナーをやると、定員50人のところ、倍ぐらいの申込者があるそうです。参加者は、やはりに高齢の方が中心ですが、その方達は本当は、自分の子ども達に聞いて欲しいと思っている方なんです。核家族化しているので。昔は取れていたコミュニケーションが取れなくなっている。死に近付くにつれ、自分の思いなどを語れる相手がいなくなった。入院していても週に1回しか身内でもお見舞いに来られないとか。だから、こういうサービスが普通になってきたのかなと感じます」 菊池氏「人口は減ってきて寿命は延びている。アメリカの同時多発テロ9・11のように、突発的な事故、新しい病気も増えていたり。若年性痴呆症とか。無理やり寿命が延ばされるようなこともある。そういう社会になってきているので、何かを遺したいと思う人が増えているのではないかと思います」 増田氏「なるほど9・11ですね。いわゆる社会不安ですよね。新型インフルエンザなど、新しいウィルスが出てきたり、今まで想像できなかったようなテロが出てくるとか。あるいは秋葉原の事件のように、そこで死ぬ予定ではなかったはずが、いきなり殺傷される。そういう社会的不安があって、死ということが若年層においても身近にあるかもと感じるようになった。確かに10年、20年前よりは、そういう感覚があるでしょうね。世代を超えて、あるいは高齢化によって、死を意識する人口が増えてきているということがあるのかもしれません」 山田氏「疑問なのですが、誰かにメッセージを送るということは、フィードバックがほしくて送るのではないですか? でも、このラストレターは一方通行ですよね? それなのに、なぜメッセージを遺そうと思うのか、そのへんがわからないのですが」 一瀬氏「私の友人でも、亡くなった人が何人かいるんですね。でも、『お前なぜ死んじゃったの?』という感じがあります。病気だったりとかですが、わからないんですよ。だったら、死ぬっていうのは最後の別れなのだから、何かメッセージくらい友人関係に遺しておけよと。前向きの考え方ですが、これからの時代にあってもいいかなと思いました」 増田氏「今、ちょうど面白い論点が出ましたね。人は何かを言ったら何か返ってくるのを期待するという心理があるんだと。一方で、一瀬さんから、もともと友人関係があるのだから、死ぬ前に何かひと言を遺しておけよと。ではそろそろ、事業に関する質疑に入っていきましょうか」 山田氏「遺すにしても、例えば、スゴい秘密を抱えていて、相手がびっくりするようなことを遺したいとか」 増田氏「ウケたいとかね(笑)。一瀬さんなら、何を言ってほしいですか」 一瀬氏「お世話になりました。さようなら。そんな軽い感じで重たくない内容。グッドバイ、でしょうか」 増田氏「それで、1万9800円? でも、そうですね、遺された友達は、そのくらいでいいから、お前、ひと言いっておけよという気がするかも」 一瀬氏「遺ったほうは寂しい感じです。いつの間にかいなくなっちゃって」 増田氏「短い言葉で、『世話になったな、ば?か』でもいい(笑)」 一瀬氏「(笑)そうです、そうです。明るくなるような」 増田氏「親友間ではウケますしね。山田さんどうですか?」 山田氏「例えば宗教などで、何かを遺すというような教義があれば通用するかもしれません。でも日本人の多くは無宗教で、何を信じていいかわからない。やっぱりフィードバックを求めてしまうと思うんです。日本人の精神の奥底にあるメッセージを、一方通行でいいから遺したいという気持ちは何だろうと。そういうところを、おしなべて平均的にそういう心理があるというのを探っていくことができないのかなと思います」 増田氏「そうですね。遺しておきたい、とは逆で、死ぬならオマエ遺しておけよという、遺されるほうの考えもありますよね。死んでしまうと、互いの話が一致しませんから。その辺の話からさっくばらんに話し合いましょうか。まず、プレゼンの内容について質問はありますか?」 藤原氏「遺言と遺書とラストレターの違いがよくわからないのですが。法律的なものとかは?」 石井氏「遺言は相続人に遺すもので、基本的には財産をどう分けるかなど、法律的行為にかかることしか遺せないものです。ラストレターは逆に、法律的行為に関わらないものを目指しています。『お世話になったありがとう』『生きてきて楽しかったよ』という温かなメッセージを遺したいというものです。遺書は自由に書けるものですが、死後に見つけてもらえない可能性があります。なくす可能性もある。ラストレターは、お預かりする、相手に確実に送るというところが特徴です」
定刻22時のお開きタイムを迎えて。 兵庫県から参加した桜井由佳氏のあいさつと、 1本締めで第6回東京定例会は幕を閉じた。